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121. それは滅びの、
《21日前――2018年4月13日》
「帰ってきていない、だと?」
藤色の髪の青年は目を細める。
「何かの間違いじゃないのか?」
「いえ、それが、死亡確認後から行方が分かっていないようです。特例措置により、英雄は四十九日を待たずにに冥府に戻る事になっていますが……」
「ステュクス河で溺れたわけもあるまいし……」
「その辺りは冥府の漕ぎ手、カロンに確認済です」
「ふうむ……」
青年は顎に細い指を当てて考える。
「……もし、覚醒したというテュポンの三男の能力が、あのメドゥーサと同じものだとしたら……」
「……!」
天使の顔が青ざめる。
「だとしたらアリスタイオスの魂は、もう『どこにも存在しない』ことに……!」
「……ああ。
メドゥーサの瞳は魂さえ石に変える……そしてその石が風化したとき、魂は消滅する」
青年は深刻なまなざしで息を吐く。
「ひょっとすると……これはテュポン以上の脅威になるかもしれないぜ。
この私ヘルメスも、身の振り方を考えねばならないね」