107. QUEEN’S BATHTIME
《麗華の城 7階》
他方、恵奈により侮蔑の視線を贈呈された城の女帝は、
「あ~あ、バカだよねあいつら。よりによって一番警備の厚いウチに攻め込むなんてさあ」
すべらかな裸体を泡の湯に浸らせ、悪態をついていた。普段ツインテールにしている桃色の髪は、今は頭に巻かれた白いタオルに納まっている。
ここは麗華の城の7階・大浴場。古代ローマのネロ帝が築いたとされるテルマエさえも彷彿とさせる、直径一〇メートルはある浴槽に広がった泡風呂につかり、麗華はどこへともなくつぶやいている。
「手塩ちゃんの家とか小さいんだし、あいつらの力なら一撃で吹っ飛ばせるでしょ。なんでわざわざ難しいところから狙うかなあ……しかもおふざけ気分でコスプレまでしてさぁ」
大浴槽のへりには身体を流す役の侍女がふたり、薄いベールのような白い水着だけをまとって立っている。しかし彼女らは微動だにせず、麗華の言葉に返すこともしなかった。
「それともあたしが一番弱いとでも? だとしたらとんだ不敬と見込み違いよのう……薄汚い畜生どもめが」
バシャッ。
麗華が水面を殴りつける。白い泡が穴をあけ、透明な湯があらわになる。
「この不敬、どう落とし前をつけてくれようか……のう、我が愛しき人?」
問うた先、泡の海に座していた一人の男は、ニッと笑ってこう云った。
「御随意に、リュディアの女王よ。あなたさまの御為であれば、この己は骨を砕き身を尽くす所存」
男が頭と半身を下げると、ざあ、と泡の海面が割れる。彼の大きさには、この常軌を逸した大浴場ですら耐えかねた。
「フ……期待しておるぞ、ヘラクレス。貴様が妾に残した"借り"、今宵こそ返してもらおうではないか」
女帝が嗤う。稲妻の髪の巨漢は、ただ達磨のような瞳を閉じて頭を上げずにいた。




