表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
107/165

105. 忘れ物

「わっすれっものおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」

「っ!?」


 天守閣に向けて理里が走りだすと、超特急で駆け戻ってくる人影が。

 厳密には『人』ではない。メイド服の短いスカートの裾を振り乱し、およそ人間を超えた速さで走ってくるその影は、


「はあ、はあ……わたしとしたことがりーくんを忘れるなんて! 穴がなくてもはいりたいよ~」

「それだけの理由で戻って来たのかお前」


 誰あろう珠飛亜である。ゼエゼエと息を荒げ汗をかいて、乱れた胸元から谷間が見えるが気にしない。

 半ば呆れるが理里は足を止めない。珠飛亜も急旋回、理里にペースを合わせて走りはじめる。


「りーくんのいない潜入作戦なんてイチゴの入ってない大福と同じ!」

「普通の大福作ってる人に超失礼なんだが!?」


 と、くだらない掛け合いをしている間にも城門が見えてくる。当然のように警備員が二人、阿吽の仁王像のように立っている。


 が、


「"菫青晶(アイオライト・)の舞付師(コレオグラファー)"!」


 珠飛亜はスカートのポケットからペットボトルを取り出して蓋を開け、


「『流水輝虹帯(ブリリアント・リボン)』!」


 水は技名の通りリボンの如く飛び出し、門番の頭上の窓の格子に巻き付く。


「いくよっ!」

「ちょ待っ!?」


 理里は珠飛亜の脇にがっしと抱えられ、縮んでいく水のリボンに乗って一気に窓枠まで飛ぶ。

 仁王のような門番は前方から真上に向けて飛んでいく影に気付かない。『魂の光学迷彩』で不可視化された理里たちは通常の人間が見ることができない。


「よっと」


 水のリボンはメジャーのようにペットボトルに巻き戻り、珠飛亜と理里は窓枠に張り付く。

 邸内からはジリリと警報が聞こえる。吹羅と綺羅の陽動が成功したようだ。


「どうする、ここから潜入する?」

「うーん、今さらなんだけど外壁を登った方が早くないか」


 吹羅と綺羅が一階で陽動を起こし、珠飛亜と理里、恵奈と希瑠のペアは別々のルートで潜入し麗華の部屋を目指すのが今回の作戦だ。だが、ここへ来て理里には今思いついた案の方が現実的なような気がしてきた。

 白い漆喰の(ように見える)外壁には、特に外敵を撃退するような設備が見られない。あくまで個人の邸宅ということか。


「油断はできないよ、何が隠されてるか分からない。……それより、わたしが上まで飛んだ方が早いんじゃない?」

「そうか! その手があったな」


 理里はポンとおでこを叩いた。


「おにいちゃんはこんなことも思いつかないなんて……やっぱりおつむがザコいよね~」

()()()()って響きにテンションが上がってたんだろ。男ってのはそういうもんさ」

「やだかっこいー。ま、それはそれ」


 棒読みの珠飛亜だったが気を取り直し、


「いよっ」


 メイド服の背中のボタンを外すと、純白の翼が彼女の背に広がる。


「うん、いけそう。りーくんはこのまま背中にいてね♡」


 にかっと笑う珠飛亜は、ぱっと窓枠から手を離して飛び立った。


(待っていろ……絶対に()()()()()


 珠飛亜の背中にしがみつき、理里はメラメラと闘志を瞳に燃やした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ