104. 暗殺
「さて……まずは、と」
芝生の上に降り立った理里は、スマートフォンの写真フォルダを開いた。
映し出されているのは、希瑠が入手した往魔邸内の見取り図である。ハッキングを仕掛けたわけではなく、豪邸の広さに感動したメイドが投稿したものがSNS上に落ちていたらしい。従業員教育は大丈夫なのか。
「東側が中華風の宮殿、北側がインド風の霊廟。ど真ん中にはピラミッド、南側はヨーロッパ風の城塞……そして、ここが」
西側、和風の城の天守閣。その最上階が麗華の部屋だという。
(お城に自分の部屋があるなんて、うらやましい話だぜ……っと)
地図の続きを確認。現在、理里たちが侵入したのは西側の外壁。内部には森が広がっており、少し遠くに天守のシャチホコらしき影が見える。距離にして三百メートルほどか。
(最短の場所から入ってこの距離かよ、どんだけ豪邸なんだ)
脳内でツッコミを入れるが、すぐに無駄な思考を捨て理里は駆ける。
(仮にも英雄の邸宅だ、怪原家の襲撃への対策も講じているはず)
物理的な探知機やカメラでは理里たちは察知できないが、何らかの霊的探知結界や、あるいは異能力が作動していた場合は侵入を悟られている可能性がある。それゆえ、なるべく早く麗華の暗殺を遂行しなくてはならない。
(暗殺……か)
麗華は『かけっこ』の際には、カメラ判定で理里を救ってくれた。柚葉市凍結事件の際には、あの籠愛を救おうと懸命に戦っていた。その彼女を、殺す。
(……迷うな、向こうは俺たちを殺す気でいるんだ。俺たちが生きていくために、必要なことなんだ)
殺らなければ殺られる。その瀬戸際に理里たちは居る。思い悩んでいる暇などない。
頬を叩いて気合いを入れ直し、理里は走り出した。