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102. 潜入作戦!?

「そろそろ、決着(ケリ)つけようぜ」

「……はぁ?」


 同日、怪原家の夕食の席。ミートソースを飛び散らしながらパスタをすする希瑠(ける)が切り出した。


「何の話だよ、兄さん」

「そうだよー。急にアニメみたいなイケボで言われても寒気するんですけど」


 向かいで丁寧にパスタを巻いている理里と珠飛亜に希瑠は続ける。


「英雄の話だよ。『積極的に先制攻撃する』って決めたわりに先手打たれっぱなしじゃねーか。田崎蘭子(アタランテ)にも卜部籠愛(ベレロフォン)にも」

「ああ、確かに」

「奇襲くらいっぱなしなのだな! 魔神の眷属にあるまじき屈辱、うらめしや~」

「ひゅらうごかないで、ソースふけない」


 口の周りをソースで真っ赤にした吹羅がお化けの真似をし、綺羅が苛立ちながらその口をティッシュで拭いている。

 希瑠は続けて、自分が飛ばす赤い飛沫を気にも留めず熱弁をふるう。


「やられっぱなしってのはシャクだぜ。いっちょ『先制』してみようじゃねえか!」


「先制っつってもどうやって? 生徒会室に奇襲でもかけるか」


 理里が冗談まじりに問うと、希瑠は人差し指を振る。


「ちっちっ、もっと確実な方法があるぜ。奴らの自宅を襲うのさ」


「え、でもそれって……」


 珠飛亜が戸惑いの声をあげた。


 紫苑捜索の際に、英雄たちにはそれぞれ『現実世界での生みの親』がいることが判明している。生みの親は無作為に神々から選ばれた存在であり、英雄と怪物の対立にはまったく関係がない。英雄の自宅を襲撃するなら、その無関係な人々を巻き込むことになる。


 珠飛亜がそう述べると、


「ンなこと言ってられっかよ。俺たちだって生死がかかってんだ、犠牲者なんて気にしてらんねー」


 希瑠はさっさとパスタをたいらげ、野菜スープの椀をさかずきのように飲み干した。


 この物言いに理里は戸惑う。


「さ、さすがにそれは賛成できないぞ。無関係の人を巻き込むのは()()()()()()。俺たちは怪物だけど人の世界で生きてるんだから、せめて犠牲者は最小限にすべきだ」


「……俺たちは正義の味方なのか?」


 食器を片付けようとした希瑠が手を止め、理里を睨む。


「そうだとは言わない。そんなものにはなりえない。だけど人の道に反するおこないはすべきじゃない。人の世界で生きる以上は」


「お前のその『正しさ』は大切だと前に言ったがな、俺たちが生きていくにはそんなもんを守ってはいられねえ。それくらいわかんねえのか」


「けど」


「じゃあ何だ? 俺たち全員で生徒会室に乗り込んで、それで奴らに確実に勝てるのか? 学校への奇襲なんて想定済みのはずだ」


「だったら自宅への奇襲も想定済みじゃないかしら?」


「あっ」


 恵奈の言葉に希瑠が固まる。


「相変わらず抜けているわね……最低でも勝算はあったから切り出したんでしょうけど」


 ため息まじりに恵奈が目で問うと、希瑠は赤ベコのようにうなずく。


「あったり前田のクラッカーよ!」


「具体的には?」


 矢継ぎ早の問いに希瑠は動揺しつつ答える。


「やつらの家を襲う場合と生徒会室を襲う場合とでは、相手にする敵の数が違う。あいつらは家族じゃないから、それぞれ別の親がいて別の家に住んでる。だから家にいる時は仲間の英雄はいない。つまり各個撃破が可能なんだ。そこに奇襲をかけ、援軍が来る前に叩きのめす」


「同じ家に住んでいないことの裏は取れているの? わたしたちの動きに感付かれる可能性は? この家の中ならだれもわたしたちの動向を探れないけど、敷地外は別よ」


「どちらも大丈夫だ。裏は取ったし、俺たちの動きについても"楽園(ロードオブ)の王(シャングリラ)"で家の出入り時に幻影をつくればいいだろ」


「英雄の家にトラップが仕掛けられてる可能性も……」


「俺たちを殺せるほどのものがか? そりゃ大層な豪邸だぜ」


 希瑠が問い返すと恵奈は不満げに押し黙った。

 他に反論する者がいないのを確認して彼は続ける。


「すでに奴らの家の場所も割り出してる。前に理里の護衛で学校に行ったとき、全員の個人情報書類を写真に取った。その住所がここだ」

 

 希瑠はポケットから二枚の紙を取り出してテーブルにダンッと置く。まだ口をつけていない理里のスープに波紋が広がる。


手塩(てしお)御雷(みかずち)往魔(おうま)麗華(れいか)の家のMAP画像だ」


 二枚の紙にはそれぞれ別の場所の地図が描かれている。それぞれの中心に立つ赤いピンが英雄たちの自宅だ。


「手塩は普通のマンションだな」

「ああ。奴は一人っ子で、ふつうの家庭に育ったらしい」

「なんか意外だね。で、麗華ちゃんは……って、え!?」


 先に麗華の地図を見た珠飛亜が驚く。理里はやれやれ、と彼女をたしなめる。


「急にデカい声出すなよ、ビックリすんだろ」

「こ、これ見てよ!」

「……え?」


 そう言って珠飛亜が目の前につきつけた地図を見て、理里は思わず目をしばたく。


「この敷地……ぜんぶ、あの人の家なのか?」

「どれどれ」


 ぞろぞろと吹羅や綺羅が席を立ち、その紙を見に理里の後ろに回る。

 そして理里と同じように何度か瞬きをする。


「え、本当にここなのか?」

「こ、ここってたしか……」

豊富荘(とよとみそう)二丁目の十八番。O-MA(オーマ)ホールディングス社長の邸宅ね」


 上座に座った恵奈が淡々と語る。


「柚葉市で最も有名な個人の邸宅。総面積はあのU〇Jに並ぶ五十一ヘクタール、在来線の巻追(まきおい)から梅井(うめい)までの一駅間すべてが外周だといわれる大豪邸。お城や五重の塔があるとかないとか」


「そんなとこに住んでるのか……ってことは往魔麗華は社長令嬢!?」


「そういうことになるわね」


 希瑠と恵奈以外の四匹は魂が抜けそうになる。


「た、確かに大金持ちだとは聞いてたけど」

「まさかあのトンデモ豪邸の娘だったとはな……」

「神に愛されるとはこのことか……嫉妬の炎が燃えるぞ!」

「……」


 腑抜けになった四きょうだいを尻目に恵奈は疑問をのべる。


「で、そんな大豪邸に忍び込むのが簡単なわけ? まさに『大層な豪邸』じゃない」


 が、希瑠は「あったりめえよ」と指を鳴らす。


「俺にひとつ作戦がある。まずはだな……」


 彼が語った作戦は、恵奈の口をアゴが外れそうなほど開かせた。

 しかし吹羅の熱烈な支持と、流れに乗った他の三人により翌日の深夜には決行が決まってしまった。


 こうして五月五日の午前二時、『往魔麗華暗殺作戦』が幕を開ける次第となったのである。


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