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女神達の花嫁  作者: ALMOND
一章
8/44

第七節

 先生との手合わせを終えて今度こそ暇になったので学園を散策することにした。


 (食堂と体育館くらいしか行ったことが無いからな……)


 とりあえず全ての階をぐるりと回ってみようと思い、まず三階に上った。

 音楽室・美術室・作法室等々……全ての教室は表札のデジタル表記で多言語に対応している。 世界からブレイサーが集まるこの学園らしいといえばらしいが、施設自体は特に面白そうなものが見当たらない。

 二階にも下りたが同じようなものだ。調整室というものには少し心惹かれたが――


 (何だあれは?)


 本校舎と中庭、そこから少し離れた場所に小さな宮殿のような建物が窓から見えた。アングレカム学園自体、多くのスポンサーの支援で結構な――有体に言えば世間とはかけ離れた金のかかった造りになっているが、それでもその宮殿は一際目立って見えた。


 (学園も広いからな……上から見て初めて気がついた)



――――――――――――――――――

 明らかにいままでとは異質な様式なので入っても良いものかと考えたが、見つかったならそそくさと立ち去ればいいかという結論に達したのでお邪魔することにした。

 教室のそれよりも大きい扉に手をかける……が、反対側から扉が押される感覚がした。


 「あら? 今日はお休みですよ?」


 早速見つかってしまった。建物の中から誰かが出ようとしていたようだ。開かれた扉から現れたのは金色の髪。


 (デルフィン・ヴァーミリオン――貴族派の頂点にいる女)


 「先生の手伝いをしていて……それが終わったので校内を見て回ろうかとしたところ、この建物に目を惹かれたもので」


 正直に理由を話すと得心がいったのが彼女はパチンと小さく手を叩いて、


 「なるほど……、確かに新入生の方には物珍しいかもしれませんね。これはアテナイの学堂と言ってエクレシア……他の学校にとっての生徒会のようなものですが、それの活動と理事会の議会のための施設になっているんですよ」


 「生徒会にしては随分と大袈裟な造りですね。まるで宮殿のようだ」


 これもまた素直な感想。生徒会ごときと言ってはなんだが、わざわざ独立した建物――それもかなり手の込んだ様式のものを造る必要があるのだろうか。


 「私も最初に目にしたときは驚きましたが、この学園の運営体系を鑑みれば別段おかしいものでもないですよ。トップにいる方たちが何者なのかを考えれば」


 つまり理事会の奴らの趣味ということなのだろう。偉い人間の考えることはよく分からない……。



――――――――――――――――――

 「どうぞ」


 折角来たのだから……、と追い返されるどころか中へ招かれてしまった。そうこうして通されたのは一つの部屋だった。


 「私の執務室です。エクレシアの議長に与えられる部屋なんですよ、ここ」


 教室一つ分もあろうかという広さに執務机、来客用だろうか洒落たソファー等々……。


 「議長と言えど、たかが学生に与えられるにしては随分と仰々しいですね」


 俺の言葉が聞こえているのかいないのか、彼女は何も言わずに入室を促すだけだった。


 「紅茶でいいですか? もっとも紅茶以外ありませんけれど」


 「学園生活はどうですか?」


 ソファーに座り、高価そうな紅茶(茶葉なんか知るわけがない)を振舞われつつも聞かれるは新生活に不満がないかどうかだった。


 「悪くは無いです。校舎は綺麗で施設も豊富。必要なものは街に出かければ全て揃いましたし不自由しません。ただ部屋が妹のを間借りしていることが申し訳ないことと、人にジロジロ見られて居心地が悪い時があるくらいです」


 真面目な感想を述べさせてもらった。いつまでも華香里の部屋を狭くさせるわけには行かない。さっさと個人の住処を与えて欲しいという催促のつもりだったが……。


 「貴方の立場を鑑みれば多少慌しくなることは仕方のないことでしょう。そのうち学園のほうからお部屋は正しく割り当てられるはずです。それと注目されることも我慢していただくしかありませんね。そんな中でも八代さんのようなお友達を作ることができているようで安心しているんですよ」


 「たった一人ですけどね。それよりも……あー、デルフィン先輩は藤花のことをご存知だったんですか?」


 自意識過剰でなければ、お互いの顔は初日の食堂で見たはずだが名前を教え合ったわけではない。知り合いなのだろうか?


 「知ってますよ。八代さんは私の家の関係で拝見しました。明るく元気な方だとか」


 家の関係? たしか藤花は……。


 「藤花は特に貴族派であるとは言ってませんでしたが……。彼女自身あまりギフトについてよく知らないようでしたし――」


 そもそも貴族の中に八代家の名は無かったはずだ。


 「私が存じ上げているだけの一方的なものです。彼女はヴァーミリオン財団の運営する孤児保護プログラムの出身……このことはあまり人に言いふらさないでくださいね。友達である貴方だからお話しているんですよ」


 「言うつもりもありませんし、言う相手もいません。それよりその保護プログラムは先輩が運営に関わっているんですか?」


 おどけた口調で約束を承諾してから質問を返す。先ほどから問いかけてばかりであまり楽しいお茶会とは言えないかもしれないが、先輩は穏やかな表情を保ったまま受け答えをしてくれる。


 「いいえ、私ではなく親戚の夫婦が携わっています。もっとも直接お会いしたことはありませんが……。私は資料等で拝見しているだけです。ただ、今年の入学生にそのプログラム出身の学生……つまり八代さんがいるということは同じ学園に通う者として詳しく知っているんです」


 まあヴァーミリオン家ともなればその一族の数も相当なものだろう。わざわざ藤花のことを調べているあたり面倒見が良いのかもしれない。


 「これが孤児保護プログラムのパンフレットです。私はもう何度も見たことがあるのでどうですか?」


 せっかくなので感謝を述べつつも頂く。宴もたけなわとなり、温くなってしまった紅茶を飲み干して御暇することとしよう。


 (……紅茶の味は良く分からない)



――――――――――――――――――

 ヴァーミリオン財団 孤児保護プログラム

 ――当財団では身寄りの無い子供、両親の身勝手な都合に振り回されてしまった子供たちを保護する取り組みを行っております。衣食住の確保・心身のケア・希望のある子には新しい里親を探し――――我々の未来を担う子供たちを――――――――よろしくお願いいたします。


 孤児保護プログラム運営理事長 ダリウス・ヴァーミリオン


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