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女神達の花嫁  作者: ALMOND
一章
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第六節

 「すまないな、休みなのに手伝わせて」


 休日二日目、小百合さんのお願いで小御門先生の手助けをすることとなった俺は彼女と共に学園資料室で作業に精を出している。


 「特にやることもなかったですし大丈夫ですよ。それに小百合さんからの頼みですから」


 前年度を含めたあらゆる文書や写真のような物理的な資料の再整理、そして電子化が主な内容だがこれが中々骨が折れる。単純に量が多すぎるのだ。


 「昔からの知り合いだというのは白羽学園長から聞いている。お前が入学する前から嬉しそうに話していたぞ」


 何をしているんだあの人は……。呆れつつも次の整理棚へ手を伸ばす。


 「まあそういうところが可愛いらしいんですけどね。しかしとんでもない量だ、これをいつもお独りで?」


 「この学園には力仕事や事務処理からは程遠い立場の人間ばかりだからな。教師・生徒問わずにこういう事は自分がする事ではないと本気で思っている奴らも少なくない。だからどうしても作業効率が悪くなってしまっているのが現状だ。普段は八重垣やダリア教諭に手伝ってもらっているが今日はどちらも忙しいそうなので君の手を借りているわけだ」


 ここにいる教師は大抵が貴族派の卒業生らしいからな。お嬢様がやりたがる仕事でもないのだろう。しかし、いまの話の中で苺さんだけ呼び名が違うのに気がついた。


 「八重垣先生とは親しい間柄か何かですか? 先生が呼び捨てとは珍しい」


 「ん? ああ、知り合いだ。私がこの学園の六年前の卒業生で八重垣はその年の新入生だった。一緒に在籍していたのは一年間だけだったが……あいつはよく私に決闘を吹っ掛けてきていたからよく覚えていた。ワルキュリアとしての腕も悪くなかったしあの通り竹を割ったような性格だから教官にはうってつけだろう? 君も早速仲良くなったそうじゃないか、楽しげに言っていたぞ」


 「一方的にですけどね」


 ……よし次。会話をしながらも二人、作業する手は止めない。


 「卒業アルバムなんかもここに保管されているんですね。個人情報のセキュリティのためですか?」


 「そういうことだ」


 この学園のアルバムに写っているということはすなわちブレイサーということだ、その情報は通常のそれより遥かに値千金だろう。


 (……卒業アルバムということは……)


 ――ムギュウウウウ


 「……何をしている」


 気配も無く頬をつねられてアルバムをめくっていた手が止まる。


 「参考までにアルバムの中を拝見しようと……」


 「ならばなぜわざわざ六年前のを探し出した」


 完全にばれている……。両手を挙げ、降参を示すことでようやく解放される。


 「まったく、くだらない事を……。八重垣のでも見ておけばよかろう」


 そう言って後ろを向く彼女の顔は少しだけ紅かった気がした。



――――――――――――――――――

 「そういえば」


 それから作業に耽ること数十分。口を開いたのは小御門先生、一段落ついたのだろう。


 「八重垣と一戦交えて引き分けまでもつれ込んだそうじゃないか。ギフトにも感付いたって」


 「本気ではなかったと思いますよ。ギフトもかなり大味な出し方でしたからあのくらいでは真に見破ったとも言えません」


 所詮は授業、それも生徒の実力を測るためだけだったので当然手加減をされていた。


 「そう言うな、現に他の者は全員持ちこたえられなかったんだろう? それに君はギフトを使っていなかった」


 楽しそうに笑みを浮かべる先生。やはり苺さんは分かっていたか。


 「俺のは大して戦闘向きではないですから。それにギフトとは関係なく戦う技量もワルキュリアとしては大事でしょう」


 「尤もだ。そこでだが、今から少し付き合わないか?」



――――――――――――――――――

 数分が経っただろうか。体育館で先に待っていろと言われた俺の前に小御門先生と、なぜか苺さんもやって来た。二人とも教員用の戦闘着に着替えている。


 「待たせたな」


 「やっほー」


 着替えているということはそういうことなのだろうか。


 「苺……八重垣先生までどうなされたんですか?」


 ギュウウウウ……

 頬をつねられる。さっきもあったな。


 「い・ち・ご!」


 呼び方を変えたのが不服らしい。


 「私の目を気にしているなら問題ない。八重垣は昔から気に入った相手には下の名前で呼ばせたがるからな」


 それにしては……。


 「小御門先生は違うんですか?」


 「私がこいつをどう呼ぶかなど私の勝手だろう?」


 それはそうだ。先輩だからこその特権だ。


 「それより、僕何のために譲葉ちゃんに連れてこられたの?」


 コミカルに首を傾げる苺さん、どう呼ぶかはお互い様らしい。


 「お前が蘇芳の指導について悩んでいるから少し手伝ってやろうと思ってな」


 「菖蒲ちゃんの? 確かに三分じゃちょっと足りなかったけどもう一回戦わせてくれるの?」


 「そうだ。だが戦うのはお前ではなく私だがな」


 そう言って体育館の中心に歩いていく小御門先生。多分俺に拒否権は無いだろうからそれを追う。


 「えー! 僕がやりたかったのにー!」



――――――――――――――――――

 ぶーぶー不満を垂れながらもしっかりと外野でチャリスの決闘を録画する機能を立ち上げている苺さん。そうして決闘場が生成されてゆく。互いに聖具を形成して対峙する。


 (刀か……)


 小御門先生が手にしているのは抜き身の刀だった。日本刀といっても差し支えない片刃の聖具、それを片手で持ち下げている。


 「それじゃ……始め!」


 「!」


 刹那、刃が眼前に迫る。咄嗟に両腕を構えて聖具で斬撃を防ぐが衝撃までは受けきれず後ろに吹き飛ばされる。二撃目に備えるために体勢を立て直す。が……、


 (いない……横!)


 振り向けばそこには既に次なる剣閃が煌いている。こちらが立て直すより遥かに速く次の行動に移っているのだ。一撃が重いこともあって反撃の余地がない。それに、


 (こういう戦いは苦手だ……)


 我が師から教わった戦闘術は面と向かって戦う競技じみたものとはかけ離れている。


 「考え事か?」


 (後ろか!)


 素早く屈んで背面に足払い、振り返る間も惜しい。


 「むっ?」


 手応え、いや足応えがあった。その感覚を頼りに振り向きざまに刃を形成して突き出す!


 ――弾かれた!


 「悪くない返しだった」


 足払いで完全に体勢を崩したと思っていた俺が見たものは、片手だけを地に着いてバランスを保っている彼女だった。足は確かに地を離れているので意表は突けたはずだったが……。恐るべき反応速度と体幹を見せ付けられる。


 (出鱈目だ……)


 「ふむ……」


 スタッ、と両足で立ち直した先生が構えを解く。


 「大体分かった」


そう聞こえた次の瞬間、俺に理解できたのは身体の浮遊感と回転する景色。


 (化け物め……)


 これから何が待ち受けているかが容易に想像できた俺はそう心の中だけで捨て台詞をついたのだった。



――――――――――――――――――――――――――

 「八重垣はどうだった?」


 「外野から見ててなんとなくだけど、菖蒲ちゃん無理してない?」


 曖昧な質問にどう答えたものか困っていると小御門先生からの助け舟が入る。


 「八重垣……教官である時には感覚的な物言いをするなと言っているだろう」


 そうだった、と苺さんはおどけてから、


 「うーんと……戦い方が恐る恐るというか、私の時もだったけど戦う気がないというか……。悪い意味じゃなくてね、逃げ腰って感じ。防御やさっきの譲葉ちゃんに背後を取られたときみたいに危機回避は上手いけど攻めの意思が弱いのかなー?」


 鋭い、正直教官というものを腕っ節だけの選考だと甘く見ていた。


 「つまり――」


 隣から小御門先生が加える。


 「君のスタイルは他のワルキュリアとはかなり異なっている。勝つための戦い方ではなく、負けないための戦い方だ。後の先を軸にしているのかは知らないが、それにしても多少は攻めの姿勢を見せないとさっきのように打ち込まれてばかりになるぞ?」


 その言葉に師匠の声が被る――


 「――生きたければ負けない戦い方を覚えなさい。勝たなくてもいいんです。必要なのは我が身があること、敵は勝ち負けの外で倒せばいいのですから――」

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