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女神達の花嫁  作者: ALMOND
二章
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第十二節

 初戦の衝撃的な勝利を収めてから戦う相手全てを圧倒してきたリラ。そんな彼女が追い詰められている。正直に言えばどちらが勝つかは興味ないが、どうやって追い詰めているかが気になる。



 コツン――コツン――



 「リラの攻撃が外れたのはあの沈んだ足元のためだと?」


 打撃のインパクトで互いに弾かれた選手が再び膠着状態に入っている。皐月さんは開始時の様に聖具で小さく地面を叩きながら様子をうかがっているようだ。リラは相変わらず動きを見せない。ただその表情は少しだけ苦しそうな印象を受ける。


 「そうだ。手段は……まあ十中八九ギフトによるものだろう。それによってミシェーレは地面に足を埋められている。まさしく今の様に。それで体勢を崩されたのではないかな」



 コツン――コツン――



 「それに加えて彼女は賭けに出たのでしょう。リラさんのギフトが本人や聖具を介してでしか発動できないということを」


 そんな光景を横目に二人とも口々に自分の考えを話してくれた。バランスを崩したから狙った個所を攻撃できなかった。それは現状のリラを見ても納得のいく説明だ。しかし理解できないのはもう片方。


 「あのー。賭けってどういう意味ですか?」


 俺と同じ疑問を俺よりも早く藤花が先輩に質問をする。その隣にいる華香里は何やら察したような素振りを見せているが、カルミアがいる限り目立つことはしてくれないだろうな。


 「ブレイサーによってギフトが作用できる規模が異なるのはご存知ですよね。そしてそれを天地創造の日数でクラス分けされることも」


 藤花が頷き、俺もご教授いただこうと同じようにして見せる。すると先輩はチャリスからメモ帳の機能を拡大表示した。フリーハンドで空中を平面として描ける便利なものだ。



 コツン――コツン――



 「多少の差異はあれど、このクラスは定まった目安があります。有名なのは聖具や仮触媒を介さずにギフトを現実に常駐・行使できるようになれば四日目と称されますね」


 懇切丁寧に棒人間などの書き込みをしながら説明をしてくれる。ちょっと絵柄が少女らしい。


 「賭けというのはリラさんのギフトが作用できる規模を聖具なしで肉体表面までだと仮定して行動しているという点です」


 そう言って先輩は棒人間の手に接するように炎を描き――たぶんこれがギフトという意味なのだろう――数字で"3"を加えた。つまりリラは良くて"三日目"のブレイサーだろうと決めつけて皐月さんは勝負を仕掛けた……ということだ。


 「肉体からしかギフトを発生できないから体勢を崩せば相手は狙い通りの場所に攻撃できない。もしも空間に作用できる程のブレイサーなら……本人のバランスをどうこうしても無駄であり他の選手の様に串刺しといったところですね。とはいっても聖具なしで空間に作用できるのは世界でも十人いるかどうかと考えられる"二日目"くらいのものでしょうね」


 一通りの説明が終わった先輩が俺達の顔を見渡して微笑んだ。対して……。


 「ほえ〜、そんなことまで考えないといけないなんてワルキュリアって大変ですね」


 理解したのかしていないのか気の抜けた曖昧な感想を返す藤花だった。残る問題は……。


 「それにしても、いつの間にそんな仕込みをしたんだ?」


 相手に気づかれることなく足元を捕らえる。そのためにはゆっくりとギフトを重ね重ね発動していると思うのだが……。例えば俺ならギフトをコピーするために対象者に触れるような、そんな素振りがあっただろうか。


 「なんだ少年、注意力が散漫になっているぞ。さっきから何度もやっているじゃないか。ほら、耳を澄ましてみろ」


 言われるままによく耳を研ぎ澄ませる。


 「……ああ。そういうことか」



 コツン――。



 束の間の平穏は長くは続かない。一撃、また一撃とリラを追い詰めるべく皐月さんの両手に構えた槌が振るわれる。それにシンクロするように歓声が一層高まっていく。


 「皆リラちゃんの負けを望んでるみたいで嫌」


 現状の空気に苦言を呈する藤花をカルミアが宥める。


 「気持ちは分らんでもないが仕方がない。実際相手側がよくやっている。始まるまでは負けるのは明らかにあちらの奴だと思われていたんだからな」


 番狂わせは観客が盛り上がる最高のシチュエーションの一つだ。それも今までの試合とは正反対で一切の反撃を通させない。リラはただただ繰り出される攻撃を受け止めるしかできていない。


 (あれだけ勝ちたいと言っていたのにこのまま負けてしまうのか?)



――――――――――――――――――

 リラは想定外の事態に見舞われていてもなるべくポーカーフェイスを保つように努めていた。常に自分には手札が残されているかのように。それが功を奏したのか敵も警戒心を拭い切れずに畳みかけてこない。だが所詮はは張子の虎も同然であり長くは続かないことなど百も承知だ。だがリラはこうするしかなかった。


 (足を動かせない……)


 地面を踏みしめているはずの足裏の感触がない(・・・・・)のだ。前に踏み出そうとしても、まるで宙を掻くような錯覚と共に進むことができない。


 (あの人が床を打つごとにその感覚が深くなっていく)


 攻撃によって吹き飛ばされ着地した地面には確かな感触を感じた。しかしそこで立て直そうとする前に既に彼女に手を打たれている。



 コツン――コツン――



 (せめてに私の光を自在に発生させられれば動けなくたって……)


 だがそんな事今の(・・)自分には無いものねだり。何の解決の糸口にはならない。考えれば考えるほど辿り着きたくない結果が頭をよぎる。


 突如、皐月が両腕で槌を振りかぶり、大きく床を打ち鳴らした。もう手の内を隠す必要はないと悟ったのだろう。じわりじわりと奪われた今までと違い、一瞬で足元の感触が消え去った。最早直立の体勢を保持することすら不可能になり這いつくばるように地に膝をついてしまう。


 (仕方ありません。ごめんなさいリリィ……)


 迫る皐月の姿を前になんとか上半身だけを持ち上げ、膝立ちのまま手を組み祈りを捧げる。


 「くさびよ――」


 リラは己の体に光を感じた。柔らかな、しかし身を焦がすような光。敵を誅するための光を……。



――――――――――――――――――

 「なんだ!?」


 勝敗は決したかと思われた矢先。リラから光が零れる。閃光といっても過言ではない、目を引き裂くような強い輝きだ。反射的に腕で顔を覆って防護する。輝きが弱まり再び視線を戻した先にリラの姿はなかった。


 ふと、目の前を薄い破片のようなものが踊るように舞った。ゆっくりと左右に揺られて下へ下へと落ちていく。


 (これは羽根か?)


 その破片らしきものは一本の羽根だった。いや、一本だけではない。見れば大勢の鳥が羽ばたいた後を思わせるような一面を真っ白で美しい羽根が舞っている。


 「これ本物ですよ」


 華香里が信じられないといった感嘆と共に声を漏らす。なんとも幻想的な景色が広がっている。周りの生徒たちも各々が顔を見合わせたり、憑りつかれたように呆然としている。


 「少年、上を見てみろ」


 一人だけカルミアはしっかりとした目つきで上空を見上げている。彼女に倣うように

顔を上に向ける。


 「リラ……」


 そこには今までが比較にならないくらい大きな翼をはためかせて滞空するリラがいた。まさしく人類が想像する天使・神の形容とそっくりだ。一人、また一人と惹かれるように空を見上げ始める。


 『行きますよ』


 競技場中に静かな声が響く。リラが両手を広げて唖然としている皐月さんに向き直す。次の瞬間。遥か虚空から稲妻のような閃光が走った。我に返った皐月さんはすんでのところでこれを回避することには成功した。


 「カルミア、今リラは何もない所から(・・・・・・・)――」


 俺の言葉は宛てたカルミア本人に遮られた。


 「素晴らしい」


 カルミアに気持ちの昂ぶりを抑えきれないといった表情が浮かぶ、出会ってから初めて覗かせる表情だ。


 「少年。解るか? 今ミシェーレは空間からギフトの光を発生させた。腕に刃などではなく空間から直接だ。つまり奴はたった今、私達の目の前で、"進化"を遂げたのだ。聖具なしでギフトを無差別な空間に作用できる……世界最高峰と呼ばれる "二日目"のブレイサーにな」


 進化――ブレイサーが自身のギフトの能力を大きく上昇させる現象。ブレイサーが人生で一度でも経験することすら稀である。見聞することさえ困難だ。それを目の当たりにした。カルミアの言葉が伝わっているのか、それとも本能的に理解したのか、ギャラリー内にざわつきが波及していく。


 リラが静かに両手を掲げる。またも光雷が走るかと思われた……だが違った。滞空するリラを支えるかように足元、俺達から見れば頭上に光の絨毯とでも表すべきだろうか、決闘場の範囲全域を侵食するように拡がっていく。


 「オーロラみたい……」


 藤花が言うように幻想的な光景だ、一人のブレイサーにできる芸当とは思えない。やがてそれは大きなうねりを持ってこの場にいる全ての人物の頭上を覆った。これが何を意味しているか。


 (逃げ場を失った)


 あのオーロラ全てがリラの影響できるエリアだとすると、皐月さんが攻撃を避け切ることは絶望的だろう。反撃に移ろうにも相手は空中だ、地に立っていなければあの戦術は意味を成さない。彼女はリラまで届く術を持っているだろうか……。いや、答えはその真っ青な表情から明らかだった。


 リラが掲げていた両手を小さく叩き合わせた、たったそれだけだ。たったそれだけで空が落ちた(・・・・・)。正確には広がっていた光の絨毯がカーテンに変化したかの如く、地上に伸びたのだ。伸びた光の足はそのまま中心にいた皐月さんへと収束するように降り注ぐ。


 (ギロチンだな)


 四方八方、輝く刃に迫られてはたった一つの大槌で防ぎきれるはずがなかった――。



――――――――――――――――――

 「いやぁ、いいものが見られたな。さてと……」


 リラの劇的な逆転劇を目の当たりにしたカルミアがご満悦そうに席を立とうとする。その腕を藤花ががっしりと掴んで引き留めた。その隣にいる華香里が俺に何やら目配せをしてくる。その意図をくみ取り、仕方なしに俺から話しかける。


 「まだ今日の試合は終わっていないぞ」


 これだけ伝えてみる。するとカルミアの動きがピタリと止まり、そしてずるずると巻き戻されるようにと元いた場所へと座り直した。分けられた前髪の合間から冷汗を伝わせながら言い訳を展開する。


 「べ、別に北山のご令嬢のことを忘れていたわけじゃないぞ。良いものを見たんだ。分かってくれるだろう?」


 藤花の責め立てる眼差しにたじたじとなりながら必死の様相。カルミアは関係が特に深いこともある藤花の押しに弱い。子供と親のそれに似ている。今度は俺が席を立ちあがりながら他の四人に向けて言う。


 「ちょっと飲み物でも買ってこようか。皆の分もついでに持ってくるよ」


 真っ当な理由付けがあるので同じように引き留められたりはしない。しかし一言だけカルミアが差し込む。


 「アルコール」


 無茶な注文だ。すぐさま返す。


 「あるわけないだろう」


 と、くだらないやり取りを交わしながら四人を後にしてカフェテリアへと向かった。その途中あることに気が付いて周りを見渡す。


 (羽根が消えている……。ギフトの発動が止まると一緒に無くなってしまうようだな)


 カルミアの気持ちも分からないでもない。現に先ほどからすれ違う生徒達の話題は全てがリラの事ばかりだ。今も聞こえてくる。


 「神様がお顕れになられたかと思いました」


 そのインパクトからだろうか。大半はこのように試合の内容についてではなくリラが引き起こしたあの出来事についてのものが多い。俺だってまだ頭の中に光景が焼きついている。


 (それじゃあ噂の御仁に会いに行ってみようかな)




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