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女神達の花嫁  作者: ALMOND
一章
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第十一節

 「カルミア・エイベル、八代藤花、共に今回のことを否定はしませんが、その動機については沈黙を貫いています。カルミアは何を聞いてものらりくらりと話を逸らすばかり、八代さんにいたっては完全に黙りっぱなしで取り付く島もありません」


 あれから二日が経過した。カルミアは学園によって軽い軟禁状態、藤花は監視付で学園生活を送っている。学園長室に呼び出された俺と華香里は小百合さん、小御門先生から経緯を聞いていた。


 「真相を語るつもりはないということですね」


 よほど言いたくないことなのか、それとも言えないことなのか……。


 「そういうことだと思います。困りましたね、そこがはっきりしないと決着がつけられないのですが……」


 理由如何によっては処分の内容も変わってくるだろうからな。


 「だったら兄さんが真相を見つけたらいいのでは?」


 「え?」


 「だって藤花さんが協力者って気がついたのも兄さんですし、この際兄さんには全て明らかにしてもらいましょう。小百合さんも通常のお仕事で忙しいでしょうから、ここは比較的暇な兄さんが一肌脱ぐしかありません」


 それは無茶がすぎるぞ妹よ。


 時計を確認した小御門先生が口を開く。


 「始業の時間になるので失礼します。ほらお前達も行くぞ」



――――――――――――――――――――――――――

 (確かに真相を明らかにするべきではある……)


 前の席で呆然と授業を受ける藤花を見てそう思う。藤花もだが、カルミアもいままでの経歴や話を聞く限りでは何か強い目的があって行動していたのだと感じる。その目的が彼女らだけの秘密である以上、沈黙を続けるだろう。


 放課後になり、華香里と街のカフェに行くことにした。客が少ないところを選んで俺はコーヒー、華香里は紅茶を注文してテーブルに座る。テーブルの上には北山椿と竜胆菜沙のプロフィール。


 「藤花達が接触した。もしくは接触しようとしたのはこの二人だから何か共通点があると思ったんだがな」


 「貴族派くらいということしか共通点はないですね。それくらいなら学園にいくらでもいますし。ですけれど北山椿さんは少しだけ知っていますよ。同じクラスですから」


 藁にも縋る思いで話を聞きだす。


 「と言っても実際に話をしたわけではなく、クラスでの自己紹介だけです。ワルキュリアを目指している。それと苗字ではなく椿と呼んで欲しいと、北山と言う名前が嫌いなのだそうで。ご家族での仲が悪いのかもしれませんね」


 優雅にポットの紅茶をカップに注ぐ華香里が結論を言う。


 「名前が嫌いとは相当だな……」



 「いらっしゃいませ」


 カフェのマスターの声で現実に呼び戻される。プロフィールと格闘してどれくらい経っただろう。


 「あら、久しぶりね」


 そんな風に呼びかけられて顔をやると――


 「マーガレットさん、お久しぶりです」


 いつも揺り椅子に座っているご婦人だった。


 「いいかしら?」


 同席のことだろう。短く返事をする


 「どうぞ」


 ありがとう、とマーガレットさんは同じく紅茶を注文して席に着く。


 「何をしているのかしら……あら、この子は前にも聞きにいらっしゃった女の子ね」


 竜胆菜沙の顔を見た彼女はそう物言う。


 「こっちは知らない子ねぇ。あら、北山家のご息女なのね」


 何か知った風な口ぶりに俺は顔を上げ問いかける。


 「ご存知なのですか?」


 「名前だけよ。北山家って元々ここらでは名のある家だったからねぇ、ただ今のご夫妻が子宝に恵まれないとかで大変だったとか……。お子さん生まれたのねぇ」


 「へえ……」



――――――――――――――――――――――――――

 夕食も共にしたマーガレットさんに別れを告げて寮に帰ってきた。


 (藤花はなぜブレイサーでもないのに協力していたのか……)


 あの二人が神命派ではないのは明らかだ。北山椿に宛てた手紙の内容も危害を加えるつもりは感じなかった

 膝の上では華香里が静かに寝息をたてている。まだ早い時間だが、まあ少しの間寝かせておいてあげようか。


 (ブレイサーではないのに協力している、ではなくブレイサーでないからこそだとしたら……)


 ブレイサーだったら駄目ということになる。藤花の境遇を思い出す。それに纏わる周辺も……。


 (子供が消えてしまったのにひた隠しにする……。貴族派…………ノブレス・オブリージュ!)


 だから"あの人"は俺に話をしたのか。

 寝ている華香里を起こさないように膝から降ろし、ある人へ連絡する。


 「師匠、元気ですか? ちょっと、無理を承知で調べて欲しいことがあるのですが――」



――――――――――――――――――――――――――

 学園長室。集まったのは華香里、小百合さん、小御門先生、そして――


 「また会ったな、少年」


 「…………」


 カルミアと藤花。


 「それで、何の用かな……私達に用があるそうじゃないか」


 「ええ、一連の出来事について」


 「……なんだ結局それか、懲りないな。話すことはない」


 不機嫌そうなカルミアに小さく笑いかける。


 「いえ、今回はこちらではなく、あなた方が聞く側になるのですよ」


 「何?」


 そう言って部屋にいる皆に聞こえるように姿勢を正した。


 「そもそもなぜ北山椿さん、竜胆菜沙さん、この両名なのか? 街の中に学園が設立される当初から店を営んでいるお婆さんがいましてね、その方から幸運にも二人の話を伺う事が出来ました」


 ――ずっと街に住み、子供が生まれないことで悩んでいたことまで家庭の事情を知っているマーガレットさんに存在すら知られていなかった北山椿。


 ――貴族派の家庭にいるはずなのに自分はずっと独りだったと語った竜胆菜沙。


 「それらを踏まえて考えたのですが……この二人は養子ですね?」


 藤花が姿勢を強張らせたように見えたがカルミアは流石と言うべきか全く表情を変えずに不機嫌そうなままだ。これも一種のポーカーフェイスだろう。


 「だとしたらなんだ? 養子だから狙われたとでも?」


 「ある意味ではそうです。もっと言えば……孤児保護プログラムから出された養子であるから……。ヴァーミリオン財団の運営する孤児院もどきですよ」


 ここらはいささか強引だが、竜胆・北山の両名がヴァーミリオン家からの紹介で養子に出されたことは師匠にお願いして無理に調べてもらった。その事は伏せて話を続ける。


 「運営のパンフレットの一部にはこう書いてあります」


 デルフィン先輩から貰ったパンフレットを取り出す。


 「希望のある子には里親を探す。この通りなら北山さん、竜胆さんは希望して養子になったはず……なのに片や北山と言う名前が嫌い、片や自分は独りぼっちであると言う。望んでいたとは思えませんよね? ただの家庭の諍いでここまではならないでしょう。此処からは俺の完全な憶測なんですけどね。二人は――ひいてはヴァーミリオン財団に保護された孤児は本人の意志に関係なく養子に出されている。孤児が里親を探しているのではなく里親が孤児を探していたのではないか……」


 一呼吸つく、その隙にすかさず反論が飛んでくる。


 「回りくどい! 要はなぜ私がそんな養子を狙わなければならないのかということだ。結論を言え結論を」


 これには俯いて沈黙する藤花以外の一同も同意の表情をしている。


 「結論ですか。貴女は子供達を誘拐してはいない。貴女はただ導くだけで子供らはそれに同意、もしくは共感して自らの意志で姿を消した」


 これが俺の答えだった。カルミアを見ても表情は変わらない、的中しているにしても的外れにしても人に悟らせるような人物ではないのだろう。


 「……なぜそう思った?」


 だが、次に口を開く時は少し穏やかだった。


 「最初の行方不明と考えられる子供が出てから、日を追うごとに行方不明者の発生は加速度的に増えているそうです。貴方やその他数名がいたとしてもそんな頻度で行動できるものだろうか……。行方不明になった人達そのものが次々と貴女の協力者となっているのではないか、そう考えました」


 だから誘拐ではなく、自らの意志だと。カルミア・エイベルは卑劣な誘拐犯ではなく、今の環境に苦しみ喘ぐ子供達の救世主なのではないのだろうかと考えたのだ……。

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