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女神達の花嫁  作者: ALMOND
一章
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第九節

 「"花嫁"っていうのはおとぎ話というか……伝説上の存在のことね。正しくはブレイサー(・・・・・)の花嫁なんだけどギフトを持たないブレイサーの事なの。受肉で現れた御使いが自分はそうだって言ったって伝えられているけど、それ以降そんなブレイサーは生まれてこなかった――だからお話の上でしかなかったの」


 ありがたい苺教官の講義が始まる。


 「花嫁には大きな特徴があって背中に大きな翼のようなあざがある……菖蒲ちゃんにもあるってことよね、祝福痕」


 俺は制服を少しはだけてシャツをめくり上げる。華香里以外の三人が背中に回り三者三様の反応を漏らす。


 「これが……」


 「思ってたより痛々しいわね」


 「すごーい!」


 後ろを向いているので顔は分からないが反応で大体予想がつく。


 「それで、なんで花嫁なのかっていうと――」


 教官による講義は本筋に戻る。


 「他のブレイサーのギフトをコピーしたみたいに使えるからなんだよねー」


 「ギフトを持っていないんじゃなかったんですか?」


 講習生の藤花が疑問で返す。


 「そう、自分の(・・・)ギフトは持っていないの。でも他者を通じてそのギフトをコピーしたみたいに使えるの。一人では効果を発揮しないけど他のブレイサーと一緒なら十二分に発揮できる。だから誰が付けたか異名が"ブレイサーの花嫁"なの」


 「その人の聖具も使えたりするんですか?」


 「どうなん?」


 教官が俺に受け流してくる。


 「いや、それは不可能です。聖具はどのブレイサーにも一つだけ。既に俺は聖具が発現しているから共存はできません」


 へー、と感心する藤花。


 「それで最初華香里ちゃんは菖蒲のことお嫁さんって言ったんだ」


 「ええ、兄さんは私のお嫁さんです」


 その時、授業が終わる鐘が鳴ったのだった――。



――――――――――――――――――

 「ねー、ごめんって」


 流石は女ばかりのコミュニティーだ、情報が伝わるのは早い。授業後、俺に対する視線が非常に多くなった。花嫁のことが広まったのだろう。情報の出所はもちろん苺さんの大声のカミングアウトからだった。俺が男なのは幸いだったか直に噂は本当か確かめようとする生徒はいなかったが……。


 「ご飯奢るからさー」


 苺さんは先ほどから腕にしがみついて平謝り状態である。


 「いいですよそんなこと。……ああ、やっぱり苺さんにお願いしたいことが……」


 あることを思いついた俺は彼女に耳打ちをする。


 「え? うん、別にいいと思うけど何に使うの?」


 「大事なことです」


 とだけ告げて食堂へ進むのだった。食堂内での居心地がいつも以上に悪かったのは言うまでもない。



――――――――――――――――――

 「それで、何をお願いしたのですか? 放課後、八重垣先生とどこかへ行ってらっしゃったようですけど」


 夜、各部屋備え付けのシャワーを浴びた華香里が髪を梳かしながら尋ねてくる。


 「学園資料室だよ。言っただろう? カルミア・エイベルの事」


 「ブレイサーが行方不明になる事件ですよね?」


 そうだよ、と返答して華香里にお願いの内容について見せる


 「苺さんにお願いして資料室に入れてもらってデータベースから学園の歴代のクラス写真や学園風景の写真を俺のチャリスに一時コピーさせてもらった。このコピーなら数日で自動的に消去されるから問題ないと言っていたからね。それから小百合さんには同時期の生徒の休・退学者名簿を借りた。これは資料室程度のデータベースには無かったものだからね」


 「なぜそのようなことを?」


 チャリスに映し出した写真を眺めながら華香里は疑問を呈する。


 「そのカルミア・エイベルがアングレカム学園に副理事として就任したのが五年前。小百合さんが学園長として就任したのが三年前。小百合さんが学園にやって来るまでのこの二年間の中に、もしかすると既に行方不明になった生徒がいるんじゃないかと思ってね」


 「ですがいくら家が届け出なくても学園生なら同級生や友人が騒ぐのでは……」


 そこまで言って華香里は何かに気がついたようにハッと表情を変える。


 「それで休・退学者名簿ですね?」


 「そう、いなくなるもっともらしい理由付けがされていればそのうち誰もが忘れていく。副理事ならそこら辺のことに手を出せるんじゃないかと思ってね」


 二年間の分の写真を精査していく。名簿の学生と同じ学生が写っているものを抜き出したがいたって普通の写真ばかりだ、集合写真から行事にまつわる写真、それから学園の様子を写した写真。


 (まあそう上手くいかないか……)


 もしかすると協力者やなぜ行方不明者に選ばれたかを見つけられるかもしれないと思っていたが難航している。


 「それにしても貴族派の生徒はワルキュリアばかりですね」


 肩越しに一緒に写真を眺めていた華香里の素朴な疑問だ。貴族派であることを判別するのはそう難しくない。大抵は華美な装飾品をつけているのだから。そうした生徒が写っているのは聖具を手にして決闘をしている写真が多い。

 更なる権力や富を得るためにはワルキュリアとして名を上げることが手っ取り早い。てきとうに抜き出した写真の中にもワルキュリアとして戦っている瞬間のものが数ある――その中の一枚がふと目に入った。


 (これは……)


 写真を横目に名簿を確認して名前を調べる……。


 「華香里、明日にでも買い物に行かないか? 華香里のためのプレゼントを買いに」


 「え? もちろん私は喜んでお供しますけど……唐突ですね」


 そう、この一枚を見たことでマーガレットさんに会いに行く理由ができてしまった。


 写真に写る四年前に退学した生徒、竜胆菜沙リンドウナズナの大槍を構えた左腕、チャリスの陰から見える、時計の歯車(・・・・・)の装飾がされたブレスレットを見た瞬間に――。



――――――――――――――――――

 「あらいらっしゃい。また来てくれたのね」


 翌日の放課後、華香里を連れてマーガレットさんに会いに来た。


 「そちらがプレゼントした恋人さんかしら?」


 華香里が組んでいる腕を締め付けてくる。


 「妹です」


 あらそう……というマーガレットさん。腕の締め付けは痛みを感じるまでに強くなった。

 

 「それで、今回は妹へのプレゼントのためもあるのですが。貴女にお伺いしたいことがあって」


 店内を巡ってアクセサリーを見ている華香里をよそに、俺は一枚の写真を見せる。


 「この学生ですけどご存知ありませんか? 三年前のものですけど、ここに着けているブレスレット、マーガレットさんの手作りのものに見えたもので」


 写真に写る一人の学生指差して伺う。暫くの逡巡の後


 「あぁ……。覚えていますよ、印象的な子だったからねぇ」


 「印象的……ですか」


 そうだろうか? 貴族派のお嬢様にしてはどちらかというと地味な部類に見えるが。


 「ふふっ、そういう意味ではなくてですね。印象的だったのはこの子の様子」


 笑みを浮かべて揺り椅子に座りなおすマーガレットさん。


 「この子がうちに来たのはたった一回だけ。貴方のときと同じ、贈り物ですか? って聞いたの。そうしたら」


 ――私に贈り物をする相手はいなくなりました。ずっと独りなんです。


 「随分悲しいことを言うものだから覚えちゃってねぇ。まあ忘れてしまうほど他に客が来たこともないからね」


 彼女は椅子を揺らしながら静かに笑った。



――――――――――――――――――

 「独り……ですか。家族か友人との仲が悪かったのでしょうか」


 ご満悦顔でプレゼントしたペンダントを弄っている華香里がそう呟く。


 「どうかな、まだこの人が行方不明になったとも限らないからね。そういった不仲が高じて学園を辞めただけかもしれない」


 横を見ると華香里がペンダントの写真を撮って小百合さんに送っている。非常に楽しそうだ。


 「ですけどワルキュリアとして頑張っていらしたのですよね。戦っている姿からはお話で伺ったような陰鬱さは感じられませんし……」


 「そのようだね。この写真も戦っている相手は一つ上の学年のようだ。こんなに大きな槍を操って――」


 槍? 写真の彼女の手には身の丈ほどもある立派な槍が写っている。


 (この槍どこかで……)


 教官の授業中か? そこくらいしか人の聖具を見る機会はなかった――いや、一度だけあった。そんな機会が。


 「華香里、聞きたいことがあるんだが――」


――――


 「……? はい、そうですよ。間違いありません」


 なるほど、明日からは少し忙しくなるかもしれないな……。

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