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星の線路

今年ももう終わりですね。今年最後の小説がこれでいいのか

まあそれは置いておいて、2016年色々な小説を書きました。

来年もよい創作ライフを送りたいと思います。よいお年を!!

作:影峰柚李

トトン、トトン、と気持ちの良いリズムに揺られていたからか

いつの間にか眠ってしまっていたらしい。

ふと、目を開けてみると薄暗い倉庫のような場所に自分はいた。

この動き、この感覚、覚えがある。電車の中だ。

ここはどこだろう、一体、いつからここにいるのだろう。

見回すと、二、三人の人が毛布に包まって寝ていた。

起こすのも忍びないので、そのまま揺られながらじっと座っていた。

けれど、あまりにも変化が見られないので立ち上がって電車の中を

歩き回ってみると、2240113と書かれた扉があったので思い切って開けてみる。

すると、そこには変わらぬ風景が広がっていたが、一つだけ変化があった。

一人の少年が退屈そうに窓から外を眺めている。

声を掛けようか掛けまいか悩んでいるとその少年がこちらを見て酷く驚いた顔をしたので

逆にびっくりして後退りをしたが、少年が慌てて駆け寄ってきた。

「君、起きてる?」

「え、うん、起きてる、かな」

わぁ! と目を輝かせて僕の手を握る。

「ほら、ここって皆寝てるでしょ? だから退屈でさ、最後に起きている人を見たのは

何百年前だろう、ほんとこの仕事飽きちゃうよね」

仕事、確かによく見るとその少年は駅員のような格好をしている。

ということはここがどこであるか、どこに向かっているのかを知っているはずだ。

「僕、電車になんか乗った記憶ないんだ、切符もないし……」

「切符なんかいらないよ!」

バッと手を広げて周りを見るように促す。

相変わらず倉庫のような殺風景な風景が広がっている。

それに、皆顔を伏せて眠っていて、起きる気配もない。

「見た通り、これは貨物列車、ただ運ぶだけなのさ」

「運ぶって、僕たちを? 一体どこに」

「それは分からない、月を見たのはいつだったかな」

「つ、月? ここは宇宙なの?」

見てごらん、と窓を指したのでそこから外を覗いて見るとそこには

見たことのないような景色が広がっていた。

あの惑星はなんだろう、少なくとも木星や土星ではないことは確かだ。

「こうしてずっと運んで行くんだ」

「君は、何をしてるの」

「見てるだけ、ずっと見てきたよ。色んな人がいた。

面白い人がいたなあ、ここは地獄だって言って、愛する人への

想いをずっと話し続けていた。まあ彼も星になったけどね」

なんとなく、この列車がなんのためにあるのか分かってきた。

愛するベアトリーチェには死んでも会えなかったのか。

けれど、死んだ後煉獄なんてところに落とされずに済んでよかった。

「毎日毎日星を撒いては進んで行く。ずーっとずーっとそうだった。

たまに起きている人を見つけてはその人のいた星の話を聞くんだ。

そういえば、君はどこから来たの? いや、その話し方で分かる、地球だね。

あれは天の川銀河だったかな、この間アンドロメダ銀河を見たから丁度

銀河系を出たのかもしれない。250万光年歩いていけば地球に着けるかもね」

窓から身を乗り出して後ろを見る。撒かれた星屑が線路のように列車の軌道を

残していて、この列車の歴史を記していた。

僕はいつからこの列車に乗っているんだろう。最後の記憶はなんだろう。

「分からないと思うよ、この列車に乗ってると段々無になるんだ。

記憶も、意識も、感情も、全てがなくなって星になる」

「また眠るの?」

「目を閉じればすぐさ」

「その後君は?」

「何も変わらない、ここから外を眺め続ける」

寂しそうに窓の外を眺めるその背中は宇宙に飲み込まれてしまいそうに

小さく、嘆いているように見えた。

「ねえ、提案していいかな」

「どうぞ」

「この列車から出てこの線路を逆走して行くのはどうだろう」

1、2、3、4、5秒くらい、いや、もっと長いかな?

だいぶ長い時間沈黙があった。

じっと僕の目を見ながら必死に頭を回転させている。

そしてやっと、理解したのか満面の笑みを浮かべて僕に抱きついた。

「なんて素敵なアイデアなんだ! 実は僕もこの列車から抜け出して

自分の居場所へ帰ってみたかったんだ!!」

「君の居場所?」

「ペテルギウスの近くに僕の星がある。ずっと前に置いて来た僕の魂」

「決まりだ、250万光年くらい歩いてやる」

「うん、行こう!」

小さな窓から飛び出して、沢山の人が作った線路の上を楽しげに

二人の少年が歩いて行く。

星の線路は新たな歴史を刻みながら、二人を暖かく見守った。


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