62話
食堂の奥、パーテーションで区切られた一角に王国軍隊長:グレゴリアルが居た。
肌艶のよかった偉丈夫な彼の姿は見る影も無く、目の下に隈ができ俯き加減にテーブルに手をついてセルジオの来訪を待っている。
テーブルには暖かいお茶の湯気がたなびくが、彼はそれに口にせず、目を閉じ、ただ静かに彼をまっていた。
ギィ バタン・・・トントントン・・・ミシ・・・足音が裏口から近づき止る。
「俺に何か御用ですか?」
「・・・・お待ちしておりました、セルジオ殿。 少しお話をさせてもらってもよいですか?」
グレゴリアルの拳が強く握られる。
「貴殿は、このような状況になると予見できて、いたのだろうか?」
責めるような視線をセルジオに向ける。
「・・・・えぇ、あ、はい。たぶん彼等が怒るだろうとは考えてました」
農作業を熟し、手拭で汗を拭きながらセルジオが返答する。
「では、何故・・・・」
グリゴリアルが怒気の篭った声で食い下がる。
「死者を敬い、冒涜するなと伝えました・・・・そして荒らすなとも」
墓所の様子を思い出し、セルジオの声も素っ気なく成る。
軽い足音が近づき、テーブルにティーセットとお茶菓子を置く。
レェブラーシカはセルジオのお茶を持って現れ、一礼し去っていく。
グレゴリアルは温くなった茶を一口すすり、深いため息をつく。
「はぁ・・・・全ては身から出た錆と言う事か」
怒気はまだ篭っているが、それは自戒に近い物に変わっていた。
静かな食堂に朝方の小鳥の声が、二人の気持ちとまったく違ったのどかさを作り出している。
彼はゆっくり立ち上がり、ビシリ!と王国式最敬礼をした。
そして方膝を付き、下腹に力を込め口上の述べる。
「この度の非礼の数々、まずは謝罪をしたく参じた。
そして、ダンジョンの管理移譲の件を白紙撤回したく、先触にて伝えたく思う。
そして・・・・
ダンジョン内の兵士の回収を貴殿に依頼したい・・・・
何卒、何卒受けては頂けぬであろうか?」
「・・・・」
グレゴリアルは頭を上げない。
セルジオのお茶の湯気が緩やかに漂う。
「はぁ・・・・わかりました。
で、何名ほど連れ戻ればよいのですか?」
セルジオの返事は軽い。
ちょっとした荷物持ちを頼まれた程度にしか考えていない、そんな風な返答だ。
状況を知らないセルジオにしてみれば、『数名だったら大した事無いか』といった程度にしか考えていない。
「う、受けてくれるのか?!
感謝する! セルジオ殿の慈悲に感謝する!!
戻らぬ者は把握しておるだけで、523人。
冒険者の数があいまいである為、目下確認中である」
少し血の気のもどった隈のあるやつれ顔を上げ、セルジオを見つめる。
ゴン。
セルジオの額がテーブルに落ちた。
「・・・・たぶん生きてない? 遺体?、増えてるじゃん。ハハハハ、ハ~ァ」
乾いた笑い声を上げるセルジオだった。




