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いつもダンジョンに居ます  作者: ねむねむぴよ
第二部 王国の食指
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61話

 朝日とともに靄が薄れ、陽光を嫌うように霧散していく。

 谷の対に日が当たり、北向きの斜面にも明るさが届く。


 静けさを取り戻した畑の畔から、ひばりが天高く飛び立ちのどかな鳴き声を響かせる。

 まるで、惨劇の一夜が無かったとでも言いたげな、牧歌的な風景だった。



 ダンジョンは僅か三日間の間に、すべての王国兵の心を、根っこの深い部分で圧し折った。


 虚ろな目で空を眺める兵士の傍らを、鋤を持った一人の青年が鼻歌を歌いながら通り過ぎる。



 「うぅ~ん! あぁ、寝不足だけど朝の空気はやっぱりいいなぁ」

 セルジオは、まっすぐダンジョンの入り口に向かった。


 未明の爪痕が残る宿営地を視界に入れながら、ダンジョンに向かう道端に倒れる兵士達に歩み寄る。

 外傷は当然の如く存在しない。

 兵士の中にはまだ意識が在る者も居るが、その大半は虚ろな焦点の定まらない視線を彷徨わせ、浅い呼吸をしている。

 「俺、治療とかできないもんな・・・・」

 道端の兵士を跨ぎ、時には避け、ダンジョンに向かう。


 「下手な事をして怒られるのもいやだけど。

 夜ちゃんと閉めてれば、あれ出て来なかったんじゃないかな・・・・」

 簡素な塀は何かで内側から押されたように、四方に倒れ、大石のある場所が剥き出しになっている。


 ゴーレムの頭の影に蹲り爪を噛みながら時々奇声をあげる兵士にビクビクしながら、セルジオは大石に近寄った。


 兵士達が組んだ櫓の様な骨組みが倒れ掛かっているが、大石はセルジオがいつも通り抜ける半分ほどに開け放たれ、暗いダンジョンから異様な空気が漏れている。


 「やっぱり開いたままか・・・・何が出てくるか分んないのになぁ」

 石鋤で大石を撫でると、すべるようにフタが閉まった。

 瘴気が出て来ないかをしばし見守る。

 周りを確認し、「よし!」と声を上げ、ここ数日行けなかった、いつもの墓所に向かった。



 踏み荒らされた墓所が見えてくる。

 「あぁ・・・・掘り返しちゃって、しかもそのままじゃないか」

 まだ埋め戻しされてない墓に祈りを捧げ、鋤で土を被せていく。

 慣れたものである。

 それほどかからず埋め戻しが終わり、再び祈りを捧げた。


 ・・・・


 周りの惨状とは別に、久々にちゃんと仕事ができる事を喜び、朝からセルジオは機嫌がいい。

 当然男衆は軍が来てからと言うもの外には出ておらず、今日も屋敷でくすぶっているはずだ。


 そう、セルジオは堪え切れず、ついついコッソリ出てきてしまったのだ。


 喜び勇んで家畜小屋に向かう。


 「おぉ!」やはり掃除はされていない。


 敷藁はよごれ、特有の匂いが充満する小屋の家畜達が一斉にセルジオの訪れを喜んで迎える。

 「おうおう、悪ガキどもめぇ、ほったらかして悪かったな」

 セルジオは心行くまで家畜の世話を焼く。


 日が次第に上ってくる。

 畑を見回して、溜息をつく。

 収穫できそうにないと言え。一応実った葉物など兵士に踏み抜かれひどい有様となっていた。

 クタクタになった野菜を集め、家畜の餌入れに収める。


 男衆が走ってくる。

 「セルジオさん、また何やってるんですか?!」

 「ん? おはようございます」


 「おはようございますじゃ無いですよ! グレゴリアル様が来てます!」

 「へ?」今更何の用かと屋敷への坂を駆け戻るセルジオだった。

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