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いつもダンジョンに居ます  作者: ねむねむぴよ
第一部 一章 墓守始めました
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7話

 ニーニャはセルジオの財宝を引き取ったその足で、村長の邸宅を訪れ直談判を行っていた。 狭い執務室は整然と整えられ、窓を背にした村長は腕を組み、彼女の話を聞いていた。


 「レイクウッド村長、セルジオさんの探索成果は其れは素晴らしいものですの。

 只、保安上の問題でとても私の馬車では安心して保管できません。どうか村長の邸宅にて一時的に保管いただけないでしょうか?・・・・それに、出来ればお屋敷の一室をお貸しいただければ鑑定作業も同時進行で行えますので・・・・部屋代と保管依頼料で・・・・」


 「少し待たんか」


 村長が、ニーニャの話を遮る。

 ニーニャの話をジードから聞いている村長は、ニーニャに対して忌避感や警戒感を強くは感じてはおらず、むしろ好感を抱いている。加えて男所帯の行商一行に若い女性が一人だけ混じって居る事で、口さがない村人達の春を売る商売女ではないかとの投書に辟易もしていた。

 そんな事もあり、彼女が言い出す前から、村長側よりニーニャだけでも預かろうかと打診するつもりだったのだ。そこにはセルジオの私財も事も当然含まれている。

 セルシオのあばら家に保管するのでは、手癖の悪い村民が盗みを働くのが目に見える。

 只、たかが一人の探索で早々財宝を持ち帰って来るとは考えていなかったが、村長の屋敷には小さいながら、一応宝物庫もある。

『お宝の質によっては警備を増やさんとならんな』色々想いを馳せながら、村長が再び口を開いた。

 「してセルジオの掘りだしたものは、どれくらいの価値があるのじゃ?」


 「はい、少なく見て精霊銀貨数枚(約数億円)程度、売り方次第ではそれを超えましょう・・・・」


 「ほぉ・・・・それ程の物なのか・・・・不幸中の幸いは嵩張かさばらん位かのぉ。

 承知した、財宝は家の宝物庫を使うとよい。部屋も余っておる家賃は町の宿の半額でよかろう・・・・食事は付かん・・・・が、食事については賄いのマルタと相談するとよい」


 『ミーオールさ~ん!?呼びましたかぁ~?』

 窓の外、2回の執務室の窓が開いていた為か、中には出洗濯物を干す女性が声を張り上げた。

 「呼んでおらん! 干物の中悪いが、マルタ!! これから家に住み込むニーニャじゃ」

 窓の外に顔を出したニーニャに、恰幅の良い中年女性が手を振り微笑んでいる。


 「あ、あのぉ ニーニャって言います!宜しくお願いします」

 ニーニャも一言二言会話を交わし、部屋中に向き直ると、咳ばらいをする村長が話をつづけた。


 「実は、セルジオはそこそこの借金を背負っておるのじゃが、これで早々に完済できるじゃろうて。先ほどの目録は、どれくらいで現金化出来るかの?」

 「本来は私共で全品を買い取りたい所ですが、即金で精霊銀貨数枚の準備は無理です。

 売り上げの10%を手数料、鑑定料は鑑定書付きで豆金貨数枚からで・・・・

 内訳書は別途用意いたします」


 村長が引き出しから、セルジオの借金台帳を机の上に取り出してニーニャに差しだす。

 「うむ。セルジオの借金台帳の節符だ・・・・」

 村長の手書きなのだろう、家財・農具など捨て値で現金化され借金に充当去れているものの他、土地の権利・借地権利は後に買い戻せるように書面化されていた。

 借金総額にしても、セルジオ本人が普通に働いては数十年以上、大金貨10枚程。

 それも法外な利息の複数契約を、村長の私財で一括で買い戻し一本化したものがこの台帳であった。

 ニーニャは村長の手間と手腕に驚きつつも何故そこまでセルジオの肩を持つのか、少し興味をもった。


「何故、ここまでセルジオさんに肩入れを?・・・・」

 呟くように問いかける彼女へ、村長も昔を懐かしむように答える。

「何、老後の楽しみを先延ばしにしただけじゃよ、孫の大好きな青年がまた元気になる。

・・・・そんな手助けをする道楽も有ってよいじゃろ? まぁ蓄えの殆どが消し飛んだが、ここに来て一気に逆転の目が出てきた訳じゃよ、儂の目も満更ではなかろう?」


和やかに笑いながら話す村長の目が不意に鋭くなる。

「まぁ儂の方話は概ね話した、でニーニャ女史の考えを聞かせて頂こうかの?」


 ニーニャも誤魔化せる相手ではないと、腹を括り、襟を正して返答する。

「・・・・この地より世界を狙おうと思ってます。」

 真剣な彼女の視線に、村長の口角が綻ぶ。


「・・・・それは大きく出るのぉ、目途は付いていると・・・・伝手はあるのか?」

 好々爺的雰囲気に戻った村長が、ニーニャに問う。

「はい、幾許は・・・・古くからの縁故で捌けるとは考えておりますが・・・・」

 ニーニャの声が少し曇る。

「・・・・うむ、儂の知人にも声を掛けておこうかの・・・・」

 村長は、机の上の皮用紙にサラサラと何かを走り書きをした後、蝋封を施してニーニャに渡す。

「売買取引を始める前に花屋のターニャ婆さんを訪ねて、これを渡しておくと良かろう」

 訳も分からず。巻物を受け取ったニーニャは村長と巻物を交互に眺め、腰を落とし深くお辞儀をするのであった。


・・・・


翌日になりニーニャの馬車は村長宅の敷地に移され、宛がわれた部屋にも私物が移された。

早速鑑定を始めたニーニャであったが、金銀銅貨の全てがゴダール王朝初期の質の良い特級品。指輪・腕輪・メダリオンにイアリング、いずれもマジックアイテムの兆候がある。失われた技術や魔術に基づく宝物に、既にお手上げ状態。

簡易的な解呪を行うが反応はなく、唯一威圧するような雰囲気を醸す腕輪だけは触る気に成らなかった。


幾つかの金貨をビロードの敷き詰められた小箱に丁寧に納め、何通もの手紙を背嚢へと収めてゆく。

 最後に父宛ての手紙を書き始める。

 特殊なインクで極上の革用紙に箇条書きで要件を書いてゆく。



 お父様へ

  嘆きの湖のダンジョンは当たり。買占めは困難。

  セルジオという若者一人が数日で精霊銀貨程の財宝をサルベージする。

  ゴダール金貨・銀貨の価格変動に要注視。急下落は確実。

  マジックアイテムの解析に苦慮中。

  私は今後、拠点を嘆きの村に拠点を構える。

  嘆きの村に貨幣偏重が発生する可能性大

                     ニーニャ


 インクを乾かすと次第に消えてゆく文字。

 その上に別の特殊インクで、嘆きの村の村長宅にお世話になっている事、村長の孫のリリルの事など日常の些事を書き綴り封をする。


「一月程度でこちらの体制は何とかなるかしら、出来れば早めにお店自体を構えたいのだけど・・・・」


 発送品を背嚢に入れ終えたニーニャは、村長から貰った巻物を小脇に抱え屋敷を後にした。 


・・・・ 


 残りの種を撒く為、昼まで畑を耕し家畜小屋の掃除をしていると、村長がセルジオの下やって来た。


 「探したぞ、セルジオ元気にしてるか?」


 「はい、ぼつぼつ」


 「回りくどいのは好かん、残りの金はわしが預かろう」


 「はい」セルジオはあまり考えもぜずに返事をする。


 家に戻り、部屋の隅に隠してあった銀貨4枚を渡す。

 少し考え村長が口を開く。

 「これは返済に回すがよいか?」

 「はい」


 「・・・・素直で実直な青年が苦しむのは好かんが、しかし・・・・いや、すまん」

 村長は何か言おうとして言葉を飲み込む。


 「いいえ、俺は助かってます。ありがとうございます」

 ジードが来てくれなかった頃、お使いで村長の所の幼い孫娘が、食料を届けてくれていたのだ。


 「礼を言われることなど、儂はしとらん。 なるべく目は掛ける、励めよ」

 「はい!」

 『こんな端金で、畑や家畜を荒らされては堪らんだろうに・・・・』

 村長は本音を飲み込み、セルジオに手を振り背を向けた。

 いつも気を這っているのか、背を伸ばしワシワシと歩く村長の背が丸まっている。

 セルジオには、彼の後姿が少し悲し気に見えた。


 その背中と石棺の大岩が脳裏で重なる。


 「そういえば、ちゃんと遺体を埋葬してあげてなかったなぁ」

 先日地下の空洞から持ち帰った遺品の持ち主を思い出し、種を買えたお礼にちゃんと塵となった遺体も埋葬しようと大石へ向かう準備を始めた。



 ・・・・


 畑仕事を終え、まだ新しいカンテラに油を注ぎ、ダンジョンに潜る準備をする。

 目の粗い麻袋と綿袋を数枚、荒縄で腰に結わえ付け、着古したボロボロの上着を羽織る。

 そして、唯一の武器となる石鋤を抱えて家を出た。


 畔の野草の花を踏まない様に避け、大石のある場所に辿り着く。


 石鋤で蓋をずらす。


 闇が外まで広がるような錯覚を覚える。

 暗闇が呼吸をするように外の空気を吸い込み、闇を吐き出す。


 しかし、今回はそれだけでは無かった。



 「!!!!」


 ずらした大石のすぐ下に、赤ちゃん程の小さな生き物がしゃがみ込んで居た。


 「な、なんだ?」


 ガリガリに痩せ目が落ち窪んだ赤ちゃん程の大きさの生き物が、大石のすぐ下に居た。

 日の光に驚き飛び起きたその生き物、蝋封を施された巻物とメダリオンをもった手足は異様細く、病人のような浅い息をしている。


 「わぁ!」

 セルジオと魔物双方が驚くが、その生き物は『ピギィ』と軽く鳴き、持っている物をおずおずと掲げ、その場にかしずいた。


 「・・・・俺に?」

 頷くインプ。


 セルジオは余りにも小さい魔物に害意があるように思えず、掲げられた物を屈んで受け取った。


 インプはようやく仕事が終わったとばかりに、踵を返し戻ろうとするが、3歩も戻らないうちに倒れ込み、ガタガタを震えだした。


 「・・・・大丈夫か?」 セルジオがインプに問いかけるが返事はない。


 セルジオはその小さな生き物に触れるかどうか戸惑うが、眺めているうちにケガをした子猫を見ているような気分になり、魔物を摘まみ上げ、大石を閉じ家畜小屋へと連れ戻った。


 魔物の震えは収まったが随分弱っている風だった。

 子どもの頃拾って来た仔犬を思い出す。

 震える仔犬は次第に冷たくなり微かな末期の鳴き声と共に眠りについた。 そんな記憶と、魔物が重なる。

 魔物は、そこらの犬猫より生命力が、昔の様にみとる気には慣れなかった。


 セルジオは、ジードから渡されたパンとチーズを半分に分け、魔物の傍らに置き、巻物を見る。


 革用紙に精巧な紋章の蝋封がなされた巻物。


 セルジオは小屋に戻り、蝋封に触れた。

 パラパラと封印が崩れ落ち革用紙が勢いよく広がる。


 「・・・・」


 見た事もない文字、その前にセルジオは文字が読めなかった。

 文字から、何なら切実な物が伝わる。


 巻物を、家の葛籠に収め、石鋤に触れる。


 グワァン!


 脈動するような衝撃と共に視界が歪んだ。


 まともに立って居れない程の眩暈、セルジオはその場に倒れ込みそのまま意識を失った。


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