48話
セルジオの血液が、赤い玉となって蝋封の上に落ちていく。
ピト・・・・
ブワァアアアアアアアアア!!!!
執務室に居るはずなのに、世界が闇に閉ざされ集団の争う音が聞こえてくる。
「ほう、これはスゴイな・・・・」
男前女エルフが、セルジオの傍らに立ち、その風景を一緒に眺める。
ニーニャと元村長、スタッフ一同も加わる。
「な、なんですの? これは?!」
レェブラーシカと男エルフにジードが闇の中から靄のように現れる。
「過去の記憶、その残滓だ。 前を見ろ、そろそろ始る!」
「あっ! ここダンジョンの中です」指差してセルジオが言う。
「たしかゴーレムがこの先に居るんです」
「おい、セルジオ!そんな危険が有ると、わしは聞いておらんぞ!」
「・・・・はい、言ってませんから」
「そろそろ、戦場ね」
ニーニャが爪を噛みながら正面を見据える。
松明を掲げた数多くの兵士が隊列を組んでいる。
松明の光は奥の方まで続き、暗い神殿のような室内を幻想的に照らし出している。
『来るぞ!』 言葉は違うのだが意味が分かる。
奥の方から人間だった何かが放物線を描きながら飛び散ってくる。
ドォオオオオォオオオン!!ゴン!!ドゴン! ドゴン、ドゴン!!
兵士をすりつぶしながら何体ものゴーレムが松明に浮かび上がる。
兵士達の悲鳴、鎧ごとミンチになる男達。
幾つもの剣が石に弾かれ、圧し曲がり、砕けて飛び散る。
剣も、槍も、弓も、魔法も全てが無力だ。
豪華なローブの魔法使いが、慌てて駆け戻ってくる。
長い木の柄の魔法の杖を振り回し、空中に円を描くと魔力の残滓が綺麗なサークルを作りだし、詠唱を始める。
ドドドン、ドドン、ドンドドドン
重い足音が地響きとなって反響する中を、ゴーレムの大群がこちらへ向かって来る。
魔法使いは必死の形相で詠唱を続ける。
その震える手が、彼の緊張と恐怖を見る者に伝えてくる。
戦闘の音が次第に小さくなる・・・・
叫び声、呻き声も、次々と途絶えた。
魔法使いの後ろで戦っていたはずの兵士達は、もうまともに原型が残っていない。
聞こえるのは魔法使いの詠唱と、ゴーレムの蠢く音だけ。
最後の呪文の一言を口にする直前、魔法使いの胴を岩の塊のような腕でゴーレムが払う。
立っていた魔法使いの体が上下に分かれ飛び散る。
しかし、その最中、魔法使いは詠唱を最後まで唱え切った。
「こいつ、いい男じゃないか!」 女エルフが彼の最後を称える。
壁の高い位置に叩きつけられた上半身は、重力で再び床に打ち付けられ、転がる。
手には、セルジオの腕に有るものと同じ腕輪が光っていた。
魔法使いの目にはもう光は無い。
しかし、魔法の効果は既に発動していた。
出口方向と思われる、長い長い神殿のような大回廊の遥か向こうが押しつぶされ、砕かれる轟音とともに土煙が風の壁となって襲ってくる。
一番手前の一回り大きなゴーレムが風圧で回廊を圧し戻され、足を取られ倒れ伏す。
後続の小柄のゴーレムは次々と吹き飛ばされダンジョンの奥へと消えていく。
ガガガッガガ、ガリガリ・・・ザザザザァ
異音と共に、正面の風景が激しく歪む。
とても巨大な地震がダンジョンを襲い、揺れがしばらく続く。
収まったかと思うと、即座に濃厚な何かが大量に流れ込んでくる。
死体の中から幽鬼のように立ち上がり掛けた兵士達が次々とまた、ただの死体に戻っていく。
濃厚な何かが更に濃くなり、映像がブラックアウトした。
地面のそこから響くような声が聞こえる。
『我は夢現ダンジョンの管理者である。
当代墓守に告ぐ。
かつて虐げし墓守にまずは謝罪を。
血脈が残りし事に感謝を。
迫りし敵には、恐怖の先にある芳醇なる死を。
当代墓守に指輪を与える。
古の血脈を辿るがよい。
地の底の心配は無用と知るべし。
再びの邂逅、努々(ゆめゆめ)忘るる事無かれ』
王冠を頭に掲げる骸骨の王が、闇の中で佇む姿が見えた。
「ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ!!めちゃくちゃヤバイじゃない!」
ニーニャが鳥肌のたった腕を摩りながら足踏みしている。
元村長も、開いた口が閉まってない。
スタッフは、数名気を失って倒れている。
セルジオは2度目でもあり、それほどショックは受けてないが、ジードとレェブラーシカが気になり視線を向ける。
『あぁあぁぁ何この可愛い生き物?』
男前女エルフが、いつの間にか気を失ったレェブラーシカさんを縫いぐるのように抱き、大きな胸に押し付けうっとり頬ずりしている。
『やっぱり胸の薄い若い男の子って、す・て・き♪』
紳士男エルフが、・・・・凍ったように固まったジードの腕にすがりつき内股でうっとりした表情をする、しかも彼のうなじの匂いを嗅いでいたりする。
レェブラーシカさんは気を失ってるから、よしとして・・・・・
闇の王より変態紳士が怖いと思う、セルジオだった。
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