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いつもダンジョンに居ます  作者: ねむねむぴよ
第一部 一章 墓守始めました
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6話

まだ工事中です

  夢見の悪い夜だった。

 木枠に押し込められた干し草に敷布が掛けられただけのベッドから起き上がると、眠い目を擦りながら水瓶の水で顔を洗う。


 そして、テーブルに視線を送ると、昨日埋葬したと思われる宝飾品や武具の一部が置かれている。

 「・・・・いや、その、埋めてもまた戻って来るんだろ? 流石に何度も同じ墓を掘りたくないよな・・・・」諦め顔で眩く光るお宝に溜息をつく。


 『そういえばジードとニー何とかさんが来るんだったなぁ』

 セルジオは本日の来客を機に掛けながらも、朝の日課を終わらせる。


 そんな折に村の方から女性の声が聞こえてきた。

 「・・・ルジオさぁ~ん」

 手を振りながら大きなリュックを背負い坂道を上がってくる女性に思わず手を振り返す。

 「はぁ、はぁ、朝一番に出たのですが荷物が重くて・・・はぁ、はぁ」

 息絶え絶えに話しかける女性の名前を思い出そうと眉間に皺を寄せ腕を組む。


 「・・・・セルジオさん? お忘れですか?! ニーニャですよ?!セルジオさん専属、超良心的アドバイザー兼天使のような行商人のニーニャさんですよぉ~?!覚えてまちゅか?!」

 最後の赤ちゃん言葉に少し苛っとするが、確かに親切にして貰ってるのでスルーする事にし、小屋に案内することにした。


 「本当に何もないですが、外よりは良いでしょうから中へ・・・・」

 「はぁ~ぃ、おじゃまらげらぶほぉ!!」

 妙にかわい子ぶるニーニャの女性とは思えない豪快な叫び声に留飲を下ろし、足にガタのあるが唯一まともな椅子を彼女に進める。


 「あ、あっ、あのぉ、これって、その、この前教えて頂けたダンジョンからの回収品ですよね?!」

 指をワキワキさせながら、視線を完全にお宝にロックオンしたニーニャがセルジオに尋ねた。

 「そうなんですが、少し困った話がありまして・・・・話しても良いですか?」

 木箱を裏返し座ったセルジオは、ニーニャに向かい真剣な表情で語りかける。

 「な、なっ、なんでも仰って下さい。す、すごい額のお宝ですよぉ?これ!!」

 今にもお宝に飛びつそうなニーニャは、セルジオの目も見ずに話を聞くと言う。

 セルジオにしてみれば、しっかり事情を説明してからでないと、とても売却の依頼は出せないという思いと、衣類の置手紙の内容も聞いておきたかった。


 彼女は目は前のお宝に釘付けで、話半分にしか聞いてないと思うが、先日の衣類の事から聞くことにした。

 「ニーニャさん、あの衣類は?恥ずかしいのだけど俺字が読めないから・・・・」


 「あ、あれは、先行・・プレゼントです。今の服では地下の探索は危険ですから少しでもと思っていたのですが・・・・もう元手の回収ゅ・・・・探索してるなんて凄いですよ」ニーニャの欲しがっていた現物が目の前にある為か、心の声が駄々洩れなのは商人としてどうかと思うが、確かにシャツもスボンも辛うじて形を止めている現状なので有難く頂くことにし礼を述べた。

まぁ、確かにテーブルの上にある初回の回収品と合わせた全ての宝石類は大迫力だ。

あばら家のボロいテーブルの上で光り輝く財宝、ニーニャの思考がぶっ飛ぶ破壊力を持っているのも分かる気がする。しかし、セルジオには由緒正しき?遺品の数々は結構しっかり呪われている気がしてしょうがない。

何事もなく正規に人手に渡った品々だったとしても、奇縁を手繰り寄せ自らセルジオの元に帰って来そうな気がしてならない。だが、自分に後ろめたい気持ち事を残す事が許せないセルジオは重い口を開いた。


「信じる信じないはニーニャさんに任せますが、これからお話しすることは本当の事です。 俺は、遺体が有ろうが無かろうがその人の持ち物全てを一緒に埋葬するつもりで、実際にそうしたのです。 しかし何故か見ての通り、土中から俺の元にやってくるんです。

呪われてるかも、いやきっと呪われてると思うんですが・・・・えっと、聞いてます?」


ニーニャは指輪や金貨の年代、武器の材質の魔鉱化についての考察を呟き、セルジオの話をほぼ聞き流しているように見える。

「は、はい!聞いてます埋葬品が副葬品で呪いが心配なんですね? 任せてください!!しっかり鑑定し必要なら解呪までのコミコミセットプランでお引き受けしますよ!!!」

 ガバッと顔を上げたかと思うと、前のめりでセルジオの手を両手で握りしめ、我欲に塗れたギラギラした目でセルジオの瞳を除き込んできた。


 「・・・・鑑定に解呪ですか・・・・じ、じゃぁ任せてもよいですか?「もちろん!!」」

 彼女の勢いに引き気味のセルジオの言葉に被せるように彼女が答えた。

「では、預かり書を書きます!・・・・数字はわかりますか?」

「え? えぇ、まぁ桁が少ない分は何とか」

「・・・・そうですね、一応写しを2枚作って・・・・村長さんにも預けますね」

「あぁ、そうしてもらえると助かる」


 そんな会話を交わしながら、皮用紙を広げテキパキと金銀銅貨・宝石やアミュレットを仕分けして記載してゆく。

 そう時間を掛けずに、仕分けを終え内訳書に蝋印を垂らすと、ニーニャは自分の指輪を押し付け3枚の書類を完成させた。

 「では、こちらの品々はお預かりしてゆきますね、久々の大口取引でうれしい限りですよ、セルジオさん! また直々顔を出しますから、必要なものがありましたら直ぐに言ってくださいね!!売掛で持ってきますから支払いは売れた財宝の代引き大丈夫ですから!!」

 「・・・・え、あぁ、はい・・・・」

 ニーニャは背嚢の奥から革製のシッカリとした作りのバックを取り出し、財宝を一つ一つ丁寧に持ってきた布で包んで収めてゆく。

 一頻りカバンに収めた後、背嚢をひっくり返し中身をセルジオのベッドの上にぶちまけながら「雑貨とか諸々持ってきたけど、サービスで置いてゆきますね♪わたし用のお弁当も食べちゃっていいので!それじゃ急いで鑑定するので持ってゆきますね♪」

 上機嫌のニーニャは、バックを背嚢に収めると背負わずに腹側に大事に抱えるように腕を通しいそいそとセルジオの小屋を出て行った。


 「・・・・嵐のような勢いだったなぁ・・・・」

 見送りに小屋を出ると、小躍りするように村へ向かうニーニャが時折振り返り手を振りながら坂道を下ってゆく後姿を眺め、セルシオも軽く手を振り返した。

 

・・・・


ジードの朝も早い。

父親の大工仕事の手伝いに駆り出されるが、今日は村長の家のひさしの修繕を任され朝一で下見をしていた。

簡単な修理ならと大工道具は持ち込んでいたが、一部が朽ちており必要な部材を取って戻る途中、山側の斜面から背嚢を大事そうに抱え下りてくるミーニャを目にした。


  足取りの軽い彼女の様子をみて、『あぁ、セルジオの所で色々仕入れたのか・・・・』と、一人納得しながら彼女に声を掛けてみることにした。

 「 おぉ~ぃ~!! 」

 ジードが手を振ると、ニーニャも手を振り返してくる。


 「 はぁ はぁ・・・・ジードさん、おはよう!!」

 「如何したんだい? そんなに小走りで走ってきて・・・・急ぎかい?」

 「 はぁ、はぁ、え、えぇ村長さんの所に取りあえず急ぎかな?・・・・」

 ジードが小声でニーニャに呟く、「セルジオんとこのヤツかい?」

 ニーニャも人目を気にしながら小さく頷く。

「丁度村長とこの仕事に行くんだ、一緒に向かうか?」

「えぇ、助かるかも!!一人でドキドキしてたの、ふふふふ」

「そんなにか?!」

「そうなのよ、素質あるわよあの子!迷宮都市の冒険者の稼ぎが霞むくらい♪」

「・・・・おいおい声がでかいって・・・・」

 興奮したニーニャはついつい声が大きくなり、急いで自分の口を手で覆う。

 ジードも横目で周囲を伺うが、ゴシップに飢えた住民の耳にはすでに届いてしまった感がある。周囲がこちらの会話に聞き耳を立てているのがありありと分かるのだ。

「・・・・詳しくは村長の家で・・・・」ジードが呟くと、ニーニャも子声で承諾した。


 ジードに、少し嫌な予感が脳裏を過る。『仕事は早めに片づけてセルジオの様子を見に行くか・・・・』

 ジードとニーニャが連れ立って村長の家に向かう背中を、見つめる二対の眼光があった。


 「ザザ、聞いたか」

 「あぁ、金の匂いがするな」

 「俺もそう思う、飯食った後にでも行ってみるか?!」

 「そりゃいい、小遣い稼ぎになそうだ。へへへ・・・・」

 「偶には早起きも悪かぁねえな・・・・」


 いやらしい薄笑いを浮かべた二人は、村長の家に向かう二人が路地影に消えても下品な冗談を飛ばしふざけていた。



・・・・


日も随分高くなり、畑仕事に一区切り付けようかと考えていたセルジオの耳に呼び声が聞こえてきた。

 珍しく、あまり聞きなれない声だ。

セルジオの小屋の方から聞こえてくる。

 面倒臭いので、居留守を決め込もうとしたセルジオの耳に不穏な言葉が届いてきた。


 「おい!セルジオでてこい!」

 「クヒヒヒ、出て来ねーとボロ家打ち壊すぞ!オラァ!」


 チンピラように声を荒げる、セルジオと同じくらいの青年が二人、玄関先で肩をいからせている。


 「裏の畑に居る!」

 しぶしぶといった、セルジオの張り上げる声が裏の畑から問いに答えた。


 来訪者に声が届いたのか、畑の畝など関係なしに踏み荒し、ズカズカとセルジオに近づく。


 「おぅ、呼びつけやがってお前何様ァ?!」


 「・・・・呼びつけたもなにも勝手に来たのはそっちだろ?」


 「ハ! 口答えしやがんの」

 襟首を掴もうとしても、襟が無い、肩口も服がボロ過ぎて握れば破けてしまいそうだ。


 セルジオより少し背が低い口調の荒い青年が、肩に手を掛け今にも殴り掛かろうとする振りをする。


 「まぁよせ、ザザ」

 「チッ、殴ったりしませんよ、仲はいいんすから、なぁ?!セルジオ、そうだろ? なぁ!」

 とにかく絡んでウザい青年をスルーし、ザザを止めたヤツに目を向ける。


 「それよりセルジオ。おまえ小銭、稼いだらしいな、もっと有んだろ?

 いま俺達お金に困っててな、貸してくれないか?」

 「そうそう、困ってんだ、なぁセルジオ」


 ザザは唾を吐きながら、セルジオに睨み付けた。


 「金?ないよ、種買ったらなくなった」

 

 「なぁセルジオ、お前の両親が病気の時、わざわざ薬を探して売ってやっただろう?」

 「ファフナーの兄貴のおかげで全部うっぱらったよ」


 石鋤を地に突け、踏み荒らされる畑を苦々しく見ながらセルジオが答える。


 「そういうなって、お前は恩を忘れない奴だと知ってるさ、困ったときはお互い様だろ?」

 肩に腕を回し、馴れ馴れしく話しかける青年。


 「おぃ! お前たち、なにやってる!!」

 苛立ちの感情かこもる叫び声が近付いてくる。


 「ッチ、面倒なのが来た。セルジオまた来るからな」

 ジードが急いで駆け寄って来る。


 ザザが舐めるようにジードを見ながらすれ違った。

 険悪な雰囲気が立ち込める。

 「ケェ、チキン野郎」 ザザが小声で挑発してくる。


 ジードはそれを無視してセルジオの元まで駆け寄り声を掛けた。


 「大丈夫か?」

 「あぁ、なんともないよ」

 セルジオは踏み荒らされた畑を、どうしたものかと頭を掻きながら、ジードに答えた。


 セルジオには失う物がないと思っている。

 いやカンテラ壊されると嫌だな位にしか思っていない。

 借金で家畜や作物もいずれは売ることに成るだろう・・・・そう考えている。


 「あいつらまだお前にたかるつもりか、畜生!」

 ジードは強く拳を握り締めとても悔しそうに、沸々と怒る。

 そのやり場無い気持ちを足元の土塊を蹴飛ばし紛らす。


 ジードが怒ってくれて嬉しい。

 「ありがとう、俺の為に怒ってくれて」


 「あ、いや・・・・ハ、ハハハ」

 少し照れる幼馴染に少しホッコリした。


 「あ、忘れる前に伝えとくぞ、村長が昼に顔を出すらしい、だから家に居ろよ」

 ジードは持ってきた包みを押し付けながらセルジオに伝え、用事があるからとまた駆け戻っていった。


 包みには固焼きのパンとチーズだった。


 ありがたかった。

 セルジオはジードのいつもの同じ気遣いが、なぜか嬉しく少し涙ぐんだ。


 ・・・・


 セルジオと別れたジードは、村へと続く坂道を駆けていた。


 「くそ、くそ! なんでセルジオばかりばちを被るんだよ?!

 なんで、彼奴達は許されてんだよ!? くそぉ!!気に入らねぇ!!!!」


 走りながらも憤りが収まらず、叫びながら村長の家を目指す。


 ジードは休む事もせず一気に村へと駆け込み、汗が目に入るのも構わず通りを走り抜ける。

 村人は、そんな必死の形相のジードに怯み、道を空けては振り返っていた。


 広場から一つ通りを挟んだ場所にある村長宅が見えてくる。

 ジードは守衛の顔が見える所まで駆け寄り、漸く歩みを止めた。


 「はぁ・・・はぁ・・・そ、村長・・・は、い、いますか?」

 ジードは荒い息を無理やり抑え込み、額の汗を拭い村長宅の守衛に話しかけた。


 ・・・・


 村長宅の執務室は、狭いながらも整然としていた。

 部屋の壁を埋め尽くす本棚には、書類の束が紐で閉じられ並べられている。

 紙と革用紙とインクの香りが部屋に漂い、年代物の書類もしっかり風通しがされているのか黴臭さを感じない。


 村長の居る執務机には多くの書類が積まれており、何かを見比べては木板に書き取り何かを計算している様に見える。


 コンコンコン!


 まかないのおばさんが、トレイに乗せた小さな水瓶とコップを持って室内に入って来た。

「あら、ジードちゃん。 随分慌ててどうした・・・・」


 まだ息の落ち着かないジードに声を掛ける女性に、村長が軽く手を振り退室を促した。

 彼女が、ジードに水の入ったコップを渡し、退室したのを確認して口を開いた。


 「セルジオに何かあったか?」

 本棚から書類の束を取り出し、再び書類に目を落とす。


 噴き出す汗はまだ引かないが、息は落ち着いてきたジードが村長に話し始めた。


「バルザードの弟が取り巻きのザザと一緒に、セルジオ集りに来てたんだ。 くそ! 村長!彼奴達何とかならんの??・・・・ですか?」

ジードは拳を握り締め、睨みつけ村長に詰め寄る。

そんな彼を一瞥もせず、執務机の引出しからセルジオの借金台帳をとりだし、当月の支払いを確認した。


「約定通り履行しておる。元本までは手が付かぬが、無体な事は儂が許さん!」

老人の域に達する年齢にも関わらずその眼光は鋭く、覇気の籠る言葉にジードも仰け反った。


「ジード、儂の立場を解っておるか?」

 村長は押し黙ったジードを諭すような口調で語り掛ける。


 「この村には多くの住民が居る。

 大抵が自分よがりで意地汚く、他の者より自分の事ばかりを気にして居る。

 それでも無辜の民じゃ。

  儂も、ジードも、バルザードにしてもそうだ。

 だが、セルジオとその両親は特称な者だ。・・・・両親はだったじゃがな・・・・

 自分が困っていても何かと労をいとわぬ者を儂はそれ程知らん。

 だからだ、儂がセルジオの借金の管理をしている。それは解って居ろう?


 これを意地汚く罵る村人も多い、儂ががめつく美味い汁を吸って居るだとか、セルジオだけを特別視して居るだとか、それこそ好きに言わせておればよい。


 ただ、この度の件は、始まりじゃろうてな・・・・

 気に掛けておくし、何らかの手を打つ心算じゃ、ジードも早まるでないぞ?」


 ジードは俯き、ただ頷くことしかできなかった。


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