37話
美味しそうな料理がプレートに盛られている。
レェブラーシカの料理だ。
そのプレートを3枚の内1枚を左内肘に乗せ、両手にプレートを持つ姿が可愛く優雅に見える。
タタタタタ と、ちょこちょこ駆けてくる、ちんまい子。
「どうぞ、召し上がりください」
子供用のサイズのエプロンのポケットから、フォークスプーンを3本取り出し並べていく。
エプロンとメイド服が捲れてないか、両腕を挙げて左右交互に半身ほどくねらせ、パッパと裾を叩いた。それから彼女にはちょっと高い商談室の椅子に飛び上がるようにして、ちょこんと座わる。
三十路であるが、仕種が可愛い。
セルジオの最近の晩ごはんは、彼女のお手製と前に聞かされていた。
彼女は料理が上手い。
だから、このプレートも楽しみなのだが、朝一の逆切れ執事が気になり、ニーニャに話を振った。
「ニーニャさん?」
「ふぉい?」
口いっぱいにパスタのような物を押し込みモゴモゴさせながら返事をする。
独身男性の前、以前に女として、それで良いのか?
と、突っ込みを入れたそうなレェブラーシカさんがセルジオの視線に気が付き、首を振り、溜息をつく。
「金貨って溶けるんですね? 知らなかった・・・・」
セルジオは、ちんまい子の動作をまね、フォークスプーンでパスタを絡め掬いながら問うた。
「ん? 簡単には溶けないわよ?」
口の中のパスタを無理やり飲み込んでニーニャが答える。
「え? けど溶けましたよね?」
「あれ? あぁ、あれね、あの金貨はメッキだったのよ、フフフ」
金貨がメッキかなんて分からない、セルジオはドキドキしながら話しかける。
「後から出した金貨も溶けて綺麗になったのはなぜです?」
「ん?(ごっくん)、あれもあの執事の金貨よ?」
そう言うと、ずーっと右手を伸ばし、スーツの様な上着の袖口から二枚の金貨をテーブルに転がす。
訳のわからない様子のセルジオに、舌を出してニコリと微笑むニーニャ。
「うぅ~と、あの人ダマす気満々だったから、こっちもそれなりの対応をしただけよ」
「溶けたのは、鉛に金のメッキの硬貨ね。
掻き回して少しメッキが剥げたのが解ったから選んだの。
で、後の金貨はワール金貨の初期の物かしら、まだ質が良かった頃のもので汚れてただけよ。
それで、この二枚は検査手数料。
これまでの取引で紛れていた悪貨と入替たから枚数はお・な・じ・よ♪」
ニーニャは悪びれず風もなく、プレートの食事を口に運ぶ。
そして、口にフォークスプーンを咥えまま両手を前に出す。
テーブルの貨幣を一枚取り上げ、手のひらを開く。
そこには何もない。
再びテーブルの金貨を掴み、掌を開くと2枚の金貨が手の中にある。
再度握り、左右に振り、手を開くと金貨が消えてなくなる。
「手品ね♪」
再び金貨を手のひらから出して、テーブルに置く。
「これ、二枚とも悪貨よ」
セルジオには全く見分けが付かない。
「ダマそうとした方が悪いの、そして見抜けないなら金貨を扱う商売には向いてないわ。
ダマされたら商人は務まらないし、厳しい世界よ♪」
ニーニャはハーブティーを啜り、再びニコリと微笑んだ。
「俺には無理だなぁ・・・・」
セルジオは鮮やかな手品に目を見開く。
隣で話を聞くレェブラーシカは床につかない足をブラブラしながら、耳にかかる髪を左手で耳に掛けながら、小さな口に食べ物を運んでいる。
セルジオの視線に気が付き、少し赤く成りニコリと微笑んだ。
『・・・・なんか癒されるけど、結構年上なんだよなぁ』
セルジオも少し赤く成り、舌鼓をうった。
独り、さっさと食事を終え再びカウンターに向かうニーニャ。
「フフフ、今日もまだ稼ぐわよ?
国中の金貨を全部集めちゃうんだから! フッフッフ」
「わぁ笑顔が怖い・・・・」
「あのぉ、よく解らないのだけど、すごく儲かっているの・・・・ですよね?」
「ん? 無茶苦茶儲かってるわよ?
たぶん、この国の国家予算の3年分くらいを一月で稼いだ感じ?」
セルジオはまだ良く解っていない。
―――――読者にも解るようにイメージで解説しよう。
隣のおじさんが隣国で古びた皿を10個ほど拾いそのまま持ち帰り(いろいろ問題はあるが)。
お土産といって数枚持って来たとしよう。
そのお土産を目利きの古美術店に持ち込むと(出所を聞かれるがそこはスルーして)とても良い物だから全て買い取ると言ってくる。
しかし、高額で現金の用意が無いから、欲しい品物でと言う話になり、スマホが良いと答える。
翌日家に最新機種のスマホが10台、しかもその全てが通話料と通信費が生涯無料という・・・・
こんなことが、セルジオがダンジョンに潜る度に起こると思って欲しい。
とにかく、そんな訳のわからない感じの状況なのだ。
しかも、セルジオが手に入れる物は、そんな古美術的な価値以上の魔法の装飾品。
国の貨幣経済がおかしく成るレベルでセルジオの元にお金が集まっているのだ。
結局理解できないまま、少し引き笑いをしながら昼食を食べ終えるセルジオだった。
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