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いつもダンジョンに居ます  作者: ねむねむぴよ
第一部 一章 墓守始めました
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4話

5話を加筆統合

 昨晩、両親の塚の横に小さな塚が増えた。 遺体は無いが、その遺品を埋葬したはずだった。

 疲れていたといえ、確かに埋葬したのだが・・・・改めて遺品を埋葬し直した。

『勝手にとってごめんなさい。近いうちに体と合わせて埋葬するから許してください』 等と心の中で念じたりもした。

 そして、両親と遺品の塚に野花捧げ、セルジオは祈りと謝罪を捧げ、戻って来たはずだった。


 「 だから、なんでここにあるんだ?!!!! 」

先ほど埋めたはずの遺品が、セルジオの小屋のテーブルの上に再び無造作に置かれているのだ。

嫌な汗が額から首筋へと伝う。

 死者が、この持ち物はセルジオにと囁く声が聞こえた気がする。

もう朝なのだ。 朝日こそ刺してはいないが、対面の南向きの斜面から眩い緑光が目に飛び込んでくる。

そんな小屋の入り口で、ざわざわとした幾人かの人の気配囁き声が聞こえた。

『・・・・が・・・・とう・・・・』

朝靄に数人の兵士のような影が掛かっているように見える。

それは風と共に霧散し、錯覚であったと思わせるに十分な束の間の出来事だった。

背中から全身に寒気が走る。

それは朝露に濡れた為では、絶対にないと確信するセルジオだった。


・・・・

不可思議な現象が起きたといえ、間もなく牧童が家畜を迎えに来る。

送り出す前に水をくれてやる毎日の習慣だ。

小屋の唯一の貴重品置き場である、床板の一枚をずらし、宝石類をシャツの切れ端に包み急ぎしまい込む。

・・・・セルジオのシャツは事ある毎に割かれ利用される為、ほとんど上半身裸体といって良い状態になってる。

舞い戻った宝石類も気にかかる為、家畜の水やりのあと再び墓所を見て回り、ようやく小屋に戻り一息つくと表に人の気配がした。


 「あのぉ! おられますか!?」

 朝早く、戸口で女性の声がする。


 「はい」

 隙間から外の見える扉を開け出迎えた。



 「品物を届けに来ました」

 「あっ、ありがとう。代金は・・・・・これ」

 銀貨5枚を渡し、品物を受け取る。


 「使い方わかりますよね?」

 少し首を傾げニーニャがセルジオ問う。


 「壊すと嫌なので、よかったら教えてくれますか?」

 「では、ここを開けて、そう、そこ・・・ここに油を、これくらい。

 この線以上いれると危ないから。

 で、ここを開けて火を・・・・燃えさしあります?」


 「無いです」

 「・・・・そうですか」

 彼女はポーチから、金属と砥石の工具を取り出しバリリリと火花を散らして火を付ける。


 「それ、便利ですね」

 「でしょ? 都の工房で作られる技ものよ」

 「どれくらいするのですか?」


 「銀貨10枚・・・・買われます?」

 「お、お金がないです」

 うつむき加減で返事をする青年に、少し考えてニーニャはそれを手渡す。


 「先行投資! 次も何か見つけたら必ず持ってきてくれる?」

 「・・・・はい」

 「私はニーニャ、あなたはセルシオさんでよかったっけ?」

 「セルジオです」

 ニーニャは、名前を呼び間違えたのを勢いと笑顔でスルーする。

 「あ、ごめんなさいセルジオさん、よかったら見つけた場所を見せてもらえる?」

 「はい」 良くしてくれるニーニャに躊躇いなくセルジオは答えた。



 ・・・・


 裏の畑、坂を下りニーニャと二人で大石の蓋の前に佇む。

 「ここです」


 セルジオは何も感じないが、ニーニャにはその場所が回りより少し暗く感じる。

 光を遮る物は何もないのに湿った穴蔵を連想させる、そんな感覚に襲われる。


 「昔の人のお墓かしら・・・・中は?」


 「・・・・真っ暗で、まだあるとは思いますが、でも死んだ人の物だから」

 暗に盗掘したと告げ、抵抗があるのかセルジオが言い淀む。


 巨岩が動くようには見えない。

 しかし中に入ったような事を青年は言う。

 どこかに横穴でも有るのか・・・・仕掛けでも・・・・

 ニーニャは逡巡するセルジオの顔を見ながら、言葉を選び話しかける。


 『ダンジョンは危険だし、折角の商機ね・・・・私を騙そうともしてなさそうだけど・・・・』


 ニーニャの頭の中で、幾つもの思考が刹那の間に巡る。


 『・・・・直感ね、女の感?! 彼は裏切りそうには無さそうだし、女は度胸!!』

 ニーニャは心の中で折り合いをつけた。


 「そうね、ダンジョン産の何かで構わないわ。

 物珍しいもの、壊れた石像とか、壊れた昔の武器とかでもいいし。

 私一週間は村に居るつもりだから、何か見つけて、持ち帰れたら、よろしくね?」


 やっぱり商売の匂いがすると感が囁く。


 「困ったら言ってね、絶対よ!

 それに、そのシャツ、もうシャツって呼べる物じゃないわよ!!近いうちに見繕っておくわね!!」

 彼女は小走りで、坂を上り手を振りながら去って行った。


 セルジオは『騒がしい人だ』などと思いながら、彼女の背中を見送る。

 その日は畑を耕し、買った種を撒き、水を撒くと日が暮れた。


 ・・・・


 ニーニャは、坂道を下り自分の私室件店舗の馬車へと駆けこんだ。


 馬車の中は、まるで研究室といった雰囲気・・・・と言いたいところだが、数々の書籍と試薬の入った瓶の隙間を、ファンシーな縫いぐるみやインテリアが所狭しと置かれ独特な空気を醸していた。


 「すごい!すごい! 絶対なんかいろいろ出て来ちゃうかも?! いやでてくる!!」


 ブーツを脱ぐのもまどろっこしく、本棚から古びた手帳を取り出すと、縫いぐるみで埋め尽くされたベッドへとダイブした


 器用に、片足だけでブーツをゲシゲシと脱ぎ捨て、ぺらぺらと手帳を捲る。

 その手帳は、どこかの冒険者が書いたのか、小さい文字と挿絵でびっしりと埋め尽くされ、幾つものゴダール硬貨年代別の模写が掛かれていた。


 ふんふんと鼻歌を歌いながら、足を延ばし、台の上の何か入っている封筒の隅を足の指でつまみあげ、ヒョイと頭上に放り投げると、封筒はまるで吸い込まれるように手帳の上へと落ちて来た。


 流れる様な一連の動きは止まらない。

 枕の下から紙包みを取り出し、中からクッキーを取り出すと一口で頬張る。


 「 ひゃっぱり、ははりしょきのほうかじゃない!!!(やっぱりかなり初期の硬貨じゃない) 」


 封筒の中から出てきたのは、先日買い取ったゴダール硬貨。

 それと手記の記述と照らし合わせ、かなり上機嫌でふんふんと鼻歌を歌う。

 とても大商家の御令嬢と言えない、なんとも行儀の悪いプライベートの姿であった。


 ・・・・


 商人見習いのニーニャは、ソルトコーストの街でも有数な商家の子、三男三女の二女。

 家を継ぐのは年の離れた長男と決まっており、実質的な経営は既に兄がおこなっていた。


 元々は寂れた田舎の漁村で、どこでも見受けられる干物と塩が主要な生産物であったが、大陸でも有名なダンジョン研究者の学者がこの村に研究室を興し、ダンジョン研究の最前線の街としてにぎわい始めたのがニーニャの父の代からであった。


 小さい頃から利発で、語学や算術にも優れていたため、家長である父親は密かに店を継がせようかと考えていたが、妾腹であるニーニャを妬む正妻とその子供達に害されるのを恐れ、王国でも有数な寄宿学校へと物心つくのと略同時に入学させた。


 彼女は学校でもその才能は陰りを見せず、算術・複数の語学・歴史・地政学と次々と収め、飛び級をしてゆく。

 時の学園長からの、「ニーニャさんは研究者になるべきだ!」との誘い水を、「私は商人になって大陸のお金を全部集めるの!」と宣言したのが12歳の時だった。

 この時ニーニャの父は酷く後悔したが、時すでに遅く、長男はすでに30を超えており、店の実権を殆ど譲ってしまっていた。


 ニーニャの父も、一代で豪商となった男だけは有り、ニーニャの才能の芽を摘ませない様にと一計を案じ、出入りの行商人でも古参、ニーニャが子供の頃からおじさんと慕う行商人に娘を預け、自分の子等からのいらぬ誹りから遠ざけて今に至る。


 ちなみにニーニャの父は健在である。


 ・・・・


 ニーニャは手帳をパンと閉じ、徐に机へと向かう。

 縫いぐるみの下敷きになった皮用紙を取り出し、特殊なインクでカリカリと手紙をしたためだした。


 時折書く、父への手紙。


 そこには、「とある村で古代ゴダールの大規模遺跡の発見・可能性濃厚、今後遺跡からの出土品にて市場経済の混乱が想定される為、事前準備を怠るべからず」と走り書きをし、息を吹きかける。


 文字は乾くと同時に、紙の上から消えて行く。


 その上から、普通のインクでとりとめのない日常の雑事をつらつらと書き綴り、仲間の行商人への謝礼と一緒に渡す準備を終わらせた。


 「くぅ!!! 燃える! 萌える?わよぉ!!

 稼ぎまくるんだから!! 父さんなんか俊足で追い抜くんだから!!」


 にまぁと笑みを浮かべ、再びベッドにダイブして上機嫌で鼻歌を歌いだす、ニーニャだった。


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