20.4話
ニーニャはレラの居る寮の自室に戻り、博士の手紙の封を切る。
『 昨日は、話す時間が取れず申し訳なかった。
ハミルトンから貴女が母の面影を追っている事は聞いている。
世界一の商人になって全てのお金を集める、などと幼い子が言うのもどうかと思うが、その金を何に使おうと言うのかは大凡検討は付く。
しかしあえて書くが、貴女はまだ若く力は無い。
ダンジョンの深淵を覗くのは、まだまだ研鑽を積んでからでも遅くない。
そして、そんな貴女が母の遺品を探しに行こうなどとは努々(ゆめゆめ)考えぬことだ。
先にも話したが、貴女の母がどうなったか・・・・それはそう遠くない内に話して聞かせる。
それまで学問に励み、商才を磨くがよいだろう。
今回のフィールドワークは、城塞都市マーカスベルの生きたダンジョンだ。
遺跡型で派内が低層はダンジョンを知る上で良い経験になるだろう。
講義ではあえて触れないが、参加者は殆どいないはずだ。
貴女の参加承諾はハミルトンより既に得ているから、あとは貴女が決めると良いだろう。
参加するならば少しは話す時間も取れよう。
貴女の参加を楽しみにしている
P.s レポートの提出期限は厳守の事 』
手紙を見るニーニャの目から、涙が伝う。
・・・・ばれてた・・・・ちくしょう。
ニーニャが幼心に導き出した、母を求める方法論は至極単純であった。
女の子の自分がどんなに頑張っても、母の行方が不明になった深層に降りる事は難しい。
どんなに凄い人を雇ったとしても、再び訪れる事が出来ない程のダンジョンの深層階。
なら、ダンジョンごと改造して、なんなら直通のリフトを付けてしまえばいい。
それにはどれくらいお金が要るだろう・・・・・沢山いる。
沢山ってどれくらい? 国が買える程? それでも無理? なら世界中のお金を集めたら出来る?
かつて父が戯れに答えた内容・・・・『 そりゃ世界中のお金があれば、ダンジョンごと改造できるだろうな、はっはっは』
それを真に受けた幼女は固く決意した。
” 世界中のお金を動かせる。大商人になって、ダンジョンの底からお母さんを助け出す! ”
それから、母はどこ?と聞かなくなったニーニャは、口癖の様に ” 世界中のお金を集める ”と言うようになったのだ。
・・・・
セルジオに許して貰い、泣き疲れたニーニャは夢を見ていた。
大富豪商人となり、稼いだお金でダンジョンに垂直な縦穴を掘り、ミスリル性の鎖と巨大な櫓を組み、地下へと降りてゆく夢。
そこには何故だかセルジオとレラが居て、頑丈な籠に収まり地下の大空間に降りてゆく。
「 母さん もうすぐ迎えに行くからね・・・・ 」
そんな夢だった・・・・




