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いつもダンジョンに居ます  作者: ねむねむぴよ
第一部 一章 墓守始めました
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19-13話

王国の干渉の原因と腕輪の喪失まで追記

話に少しは厚みが増したと思いたい・・・・・

 

 愚者王と成った学長が近衛兵を蹂躙していた頃、宝物倉前では副学長カジミールと錬金ギルド顧問マーキュリオンは解呪に成功し奪われた物に当たりを付けていた。


 その様子を顔色の悪いテヘロがオロオロしながら見つめている。

 カジミールとマーキュリオンは勝手知ったるといった風に整理棚の間を縫い進んでゆく。そして、その後ろをニーニャと副学長の弟子のリモルネとテヘロが続く。


 宝物庫のさらに奥、厳重に閉じられていたはずのマホガニーと鉄の鋲打ちで設えた重厚な扉が出前に引き剥がすように倒されていた。

 一同がその様子を、呆然と眺める中、テヘロのみがガタガタと震えながら除き込んでいる。

「 あんた、いつも強がってる癖に妙に怖がってない?大丈夫? 」

 リモルネがテヘロの顔を除き込み心配そうな声を掛ける。

 テヘロの顔色は蒼白、いつもの強がりも出ず下唇を強くかみしめ何かを必死に堪えようとしている。


「うむ、盗まれた宝物は数点じゃな・・・・」

「その様じゃの・・・・使って居れば、もう人ではなくなっておろうがの・・・・」

「 然り 」

 二人の博識者はギャラリーの他所に、複数のマジックアイテムを使った相乗効果を検討し合っている。


「あのぉ、・・・・何の事か分かる?」

 ニーニャが助け舟を求めてリモルネに尋ねると、彼女も少し困った風にひそひそと小声で説明し始めた。

「一つはリッチロードの王冠っていう、トゲトゲの足の付いた痛そうな冠ね・・・・

 なんでも、自分の血を捧げると、外向きに付いた王冠のトゲトゲが、こうクルっと反り返りグサッツて頭のあちこちに突き刺さるの。その代わりリッチロードと同じ不死者に成れるらしいけど・・・・頭蓋を砕いて延髄や大脳にまで突き刺さるって普通に死ねない?」

 リモルネが嫌そうに顔をゆがめる。小声で『やだやだ、そんなのキモすぎる』と悶えている。「しかも不死者に成ったら瘴気を纏うらしくて、肉が腐り落ちるからもう即席スケルトン製造機ね・・・・好きこのんでそな呪具を持ち出すなんて、最初から頭のネジがぶっ飛んでるわね」


 識者2名の話題が、持ち出された杖に移行している。

「悪魔召喚杖、リッチロードの王冠の持ち主の所持品らしいわね・・・・他者の命を生贄に、ブラックドッグなんかを召喚するらしいけど、魂を使われた人たちも不死者のお友達に成るらしいわね・・・・グールっぽい何かに・・・・それすらも生贄にするとなんか冥界の門?・・・のパチモン?的な何かで瘴気を取り出せるとか何とか言ってるわ、そんなばっちい杖なんて誰が欲しがるのか・・・・そいつアホね」

 リモルネの話を聞いているテヘロが、顔を真っ赤にして震えている。

「あ、最後は少しまともなのかも、ジェネシスリングの劣化版?強力な再生能力があるから、切った手足が生えてくるって・・・・でも呪われてて苦痛はそのままで再生するから治りきる迄ずっと痛いらしい。へぇ・・・・瘴気と相性がいいからゾンビがグールなるって・・・・それって形だけの再生? 魔法の指輪もいくつか無いみたいだけど、月並みな効果みたい・・・・」


 リモルネがそこまで言った所で、テヘロが宝物庫から駆け出した。

「テヘロ?!」彼女も当惑気味に視線を送るが、師匠たちを残すわけには行かず肩を竦めるだけだった。


 ・・・・


 『 嘘だ 嘘だ 嘘だ 嘘だ!! サウジエプカー学長、いやサウジエプカー様はそんなこと言ってなかった!! あの王冠は闇の王になる王冠で、バンパイヤーロードになるんだと仰ってたんだ、指輪はその効果を打ち消し、人の身で不死性を得ることが出来るって・・・・


 でも、なんで? そんな凄いものならみんな欲しがるんじゃ・・・・偉い先生が沢山いて、その事に気が付かない訳なんか無いよね・・・・俺、騙されてたのか?

 しかも、関係ない守衛まで石像にされて・・・・けど俺が調べたのは巡回時間と宝物庫の扉にかけられた魔法の解き方位だよな・・・・なんであんな事に・・・・』

 テヘロは独り、宝物庫出入口から抜けだそうと後ずさった・・・・その時。


 ズゥゥン・・・・


 宝物庫を含む建物自体が揺さぶられる程の衝撃が通り抜ける。


「きゃぁ!!「ひやぁ!!」」

「「なんじゃ?!」」

 ニーニャ達が衝撃に動揺を隠せない。

 学園の造り、それは魔法はもちろんの事カタパルトの岩如きでは微動だにしない鉄壁の防御を誇るとされていた。その建物の最深部の宝物庫、その陳列棚の宝物が棚から雪崩落ちる衝撃が足元より突き上げた。


「うわぁぁああぁぁ・・・・」

 罪悪感にさいなまれたテヘロはパニックを起こし、只管出口へと向かい這うように駆け出す。

 しかし、出口へ向かう通路より瘴気の渦が噴出し彼を包み込む。


 有害な瘴気を真面に喰らったテヘロの耳目から鮮血が噴き出す、鼻血も止まらず彼のお気に入りのローブに血のシミを作ったところで、心臓を掴まれたような禍々しい声が彼の名を呼んだ。


 『・・・・テ・テヘトか・・・・』


「が・・・学長?! 戻られたのですか!?!」

 自分の名を呼ぶいつもの抑揚で、相手が学長であると察したテヘロだったが、学長の姿は暗い通路の闇に溶け見えない。


 『テヘロよ、今までよく使えてくれた。褒美に最後の仕事を言い伝える』

 唯一の信頼する魔法使いの言葉に幾分安堵するが、瘴気で体調は優れず込み上げる嘔吐物を無理やり飲み込み返事をする。

「は、はい!宝物庫は既に開いてございます、必要なものは直ぐに持ち出してまいります!!」


 『・・・・カジミール魔力を感じる・・・・テヘロよ、最後の仕事だ・・・・』

 その言葉が耳に届くと同時に、暗闇から瘴気で黒く変色した骨の手がテヘロの首を鷲掴みにした。

 『お前の全てを儂に寄こせ・・・・』

 それがテヘロの耳に届いた最後の言葉だった。

 視界が暗転し意識が飛ぶ。

 まだ若いテヘロの体が枯れるように萎んでゆき手足の先からサラサラと塵になり崩れ落ちてゆく。


 テヘロが塵になるに合わせリッチロードは欠損した骨と罅を修復してゆく。

 『これしきの魔力しか持たぬか、小間使いにしてはよく働いてくれたが身にならん奴よ』


 服だけになった亡骸から手を放し、瘴気の上を滑るように足音も立てず宝物庫へ向かう愚者王。その眼光がもう肉眼ではなく虚ろな空洞に揺らめく赤い焔だった。


 ・・・・


「むむ?! ニーニャ女史・リモルネ! 我らが後ろに!!」

 カジミールが、胸元から数本のスクロールを取り出し眼前に投げ広げる。

「マジックシールド!!リフレクション!!ウインドウォール!!」


 投げ広げられたスクロールの魔法陣が瞬くと青白い炎を噴き上げ灰になる。

 同時に魔法が発動しカジミールを中心としたシールと通路を遮る二枚の薄絹のような壁が出現した。


 ドドドドドドドドド!!!


 通路奥から続けざまに迫る火球がこちらに目掛け飛来するのが見えた。

 シールドに入りきれなかった、護衛が直撃を喰らい装備毎一瞬に灰になる。

 しかし、ウインドウォールに触れた火球は悉く蝋燭の炎のように吹き消され、シールド内には余熱すら伝わってこない。


「 サウジエプカーか、人を辞めたようだな・・・・ 」

 顧問が自分の指輪を摩りながら、闇に溶け込む人物に当たりをつけて声をかける。


 『 マーキュリオンも一緒か、丁度よい・・・・お主等の魔力の方が小僧より旨まそうだ・・・・ 』言葉を紡ぎ終える前に、愚者王から噴き出した瘴気が部屋を満たす。


 だが、カジミールの展開したシールドは遺憾なく効果を発揮し、ドーム状の内部に瘴気の浸食はない。

 『 小賢しいカジミール。 力こそ全て、恵まれた魔力、老齢な知識、されど無欲とは妬ましい・・・・残らず我の糧にしてくれよう・・・・「年寄りの長間話は嫌われると知らんのか?」』

 顧問の指輪かキラリと、周囲の瘴気に幾筋もの空隙が作られた。

「我も研鑽を積んで居る、瘴気の浄化は僧侶の専売とは限らんのだよ!」

 閃光の一筋が、愚者王の眉間に突き刺さり、ジュワァと発泡音とともに骨毎瘴気を浄化する。


 『グガァァおのれぇぇぇ錬金術師風情がぁぁぁ』

 学長の瘴気の減少とともに、瘴気によって斑に侵食された骨のみの姿が見え始める。

 その眉間には放射状の亀裂が走り、頬骨の一部が欠け落ちた。

 愚者王の悪あがきか、霧散した瘴気を再び収束し鞭のように、ドーム状のシールドを幾度も打ち据える。しかし、強固なシールドは油が水を弾く様に、瘴気を四散させる。


 『まだまだまだまだぁぁぁぁ、強力な呪詛と魔力を感じるぞ!!!』

「何か仕掛けてくるぞ、各々魔力で身を覆え!!」

 カジミールが激を飛ばす。

 愚者王の両眼が激しく明滅する。

「イービルアイか!?奴を見るな!!」

 咄嗟の忠告であったが、ドロリとした視線をニーニャは真面に直視してしまった。


「 グキュ!! 」窒息するような呼気を吐きニーニャが崩れ落ちる。

「ニーニャさん!!」リモルネが、頭から倒れようとする彼女を支えた。

 その時、ニーニャの懐が橙炎を噴き、セルジオから預かった腕輪がニーニャの全身を包み込んだ。

「ひゃぁ?!・・・・あれ?!あ、熱くない・・・・」

 リモルネが呆然とする中、ニーニャの服一部とその懐の包みが焼け落ち、腕輪がシールドの外へと転がり出た。


 カランカララララ・・・・


 愚者王の視線が腕輪に逸れた。

 『 ふ、ふははははは、古の宝寿、太古の腕輪!これがあれは更なる高みに上れようぞ!!』

 瘴気を触手のように使い、手元へと手繰り寄せる。

 そして、その腕輪を自らの右腕をするりと潜らせた。


 窒息から解放されたニーニャが、咽ながらも腕輪に手を伸ばす。

「だ、だめぇえぇぇぇ!!!」


「焼き払え!!クレネードボム」「縫い留めろ!!アイスランス」

 カジミールとマーキュリオンが無防備な愚者王へ魔法を放つ。


 ッカ!

 ドムムムン!!ズガガガガガガッガガガ!!

 閃光とともに愚者王が紅蓮の炎に包まれ、幾条もの氷のやり降り注ぐ。

 ブファァァァ・・・・

 熱風と爆煙の渦、氷槍が一気に水蒸気と化し視界が曇る。


 『 く、くっく・・・くはははははははっは!!!効かぬぞ!! なんと優れた腕輪であろうか!!』靄の隙間から五体満足の愚者王が歩み出た。


 ・・・・


 無傷の人外に一同の動揺が隠せない。

「マーキュリオン、手はないか?」「うむ、拙いの・・・・賢者の腕輪、だが・・・・」

「だが?なんじゃ?」

「あれは半端な呪いでは無いぞ・・・・」

 静観する4名に地に足を付けた愚者王が乾いた足音を立て歩み寄ろうとした・・・・が、しかし、異変が起き始めた。


 ブファァァアアアアァァァ・・・・


 賢者の腕輪より、愚者王よりも濃く禍々しい瘴気が鎖のように彼の体に纏わり付く。

 『な、何事?!』

 瘴気の鎖は、骨と化した愚者王の体を削りながら次第にその量を増やし、腕輪を中心に繭のような蠢く塊を作り出してゆく。

 『えぇぃ、道具の分際で我に逆らうか!!おのれぇ』

 愚者王の体を削りながら肥大する瘴気の鎖は既に彼の体の4割を飲み混み、更に肥大化してゆく。


 『 ぬぐ、 ぐぐぐぉ ぐおぉぉおおおぉ・・・・ぐふぅ?! パキッ』

 愚者王の体を完全に繭に収めた瘴気の繭が脈打つように一気に収縮したと、当時に枯れ枝を踏み折ったような乾いた音がした。


 中空で次第に収縮してゆく瘴気の繭。

 その繭が腕輪ほどの大きさまでに収まったところで、パン!と小さな破裂音と共に跡形もなく消えうせた・・・・


 4名は呆然自失、人外の痕跡は微塵もなく。当たりに静寂が訪れる。

「・・・・く、国が買える程の腕輪が・・・・」

 安堵するカジミール等をよそに、白蝋のような顔色でなわなわ伸ばした腕を振るわせるニーニャの姿がなんとも痛々しかった。


 ・・・・


 学園の外へと出た4名は、リッチロードの爪痕を見てため息をつく。

 城壁の一部は崩れ落ち、楼閣は瓦解した瓦礫の山となっている。

 死傷者も居るためか、即席の救護所には、手足の欠損した衛兵・兵士が血の滲む包帯でくるまれうめき声をあげている。


 治癒魔法の使える一団が、次々と重傷者から応急処置を行っており、つぶれた体を切り開き内蔵の場所を整え、無理やり治癒魔法を施している。

 その荒治療は麻酔など使っておらず、激痛に耐え兼ね気を失うものが殆どであるようだ。


 パカラ、パカラ・・・・ブルルルル(遅かったわね?犬の餌は始末した?)

 ニーニャ達を見つけたブチがスキップするように駆け寄り、流し目で訪ねてくる。

「うむ、宝珠の腕輪のお陰で事なきを得たが、腕輪そのものを失くしてしおうての・・・・」

 カジミールが平然と馬と会話する。

 ブルルル・・・・(しょうがないわよ、犬の餌にしちゃ骨の折れる相手だったから・・・・)

 ブルル・・・・(もう少し時間があれば、私がケチョンケチョンに蹴り上げてあげたのに・・・・)

 そんな会話を見守る顧問とリモルネの傍には、真っ白に燃え尽きたニーニャが念仏のように何かを呟いている。

 『どうしよう、どうしよう、私の全財産でも無理よ・・・・身売り?奴隷?私の夢は?』

 そんな彼女の背中を摩りながら、リモルネがニーニャを励ますように優しく諭す。

「取られた?失くした物はしょうがないじゃない? まず、素直に謝るのが先だと思うわ」

 カジミールと顧問が、そっと視線を逸らす。

『『誤って許してもらえる代物では無かろうて』』心の声が聞こえてきそうな見事なスルーっぷりで、我関せずを通すようだ。


「まぁ、ニーニャ?もうここでの用事はないのだから、宿で休んでたら?顔色最悪よ?」

 ぶるるるる・・・・(女の子の顔じゃないわね、蜜入りリンゴ樽くれるなら送迎するわよ?)

 ブチがそう言っているのが解ったのか、顧問が懐から豆金貨を10枚程ブチの首に下がる袋にそっと忍ばせてくれた。

「後の事情徴収などは我々に任せておくがよい、彼女の事はよろしく頼む・・・・」

 ぶるるるる・・・・(任されたわ)

 ブチが唸り、ニーニャが乗り安くする為その場にしゃがみ込むと、リモルネがニーニャを促すようにその背に乗せた。


 パカラパカラ・・・・

 軽快な蹄のおと、兵士たちは何故がブチに敬礼をして見送る。

 騒然とした学園の正門をフリーパスで抜ける、人馬を一同は何とも言えない表情で見送った。


 ・・・・


 どれくらい寝ていたのだろう、気が付くとニーニャは宿のベッドで天井を見上げていた。

 上着の内ポケットの周辺に大きな穴が開いており、腕はを失くした事が現実だったと改めて認識させられる。


 コンコン! 徐に部屋の戸がノックされた。


「 お客様? もうお目覚めに成っておられますが? ターナー様が食堂でお待ちなのですが・・・・

 まだ御就寝中であれば、待たれると申されておられますが・・・・」

 部屋の外から、様子を探る女給の声がする。


「 お、起きてます? 私、どれくらい寝てたのでしょう? 」

 ニーニャが女給に答える。

「 かれこれ半日程でしょうか? 身支度はお済ですか? 」

「 い、いいえ、直ぐに済ませて食堂へ向かいます。その旨伝えておいてちょうだい」

「 畏まりました。そのようにお伝えします」

 戸の外から遠ざかる足音に、ニーニャに気持ちがさらに沈んでゆく。


 部屋に置かれた水差しから水を飲み、姿見で自分の佇まいを確認する。

 髪は乱れ、上着の穴から下着が見えている。

 心労のせいか顔色は青ざめたまま、目の下に隈も出来ている。

「はぁ・・・・なんて謝罪すれば許してくれるかしら・・・・もうお店を出すことなんで無理よね・・・はぁぁぁぁ」

 深いため息とともに服を脱ぎ捨て、替えの服を急ぎ身に着ける。

 髪の毛に櫛を通し、少しでも顔色がよくなるようにと、両手でパチンと自分の頬を張る。

 この先の事を考えると、吐き気しかしない。

 胃液が上がってきているのか、喉の奥から酸っぱい臭いがする。

 水差しの水を口に含みうがいをし、取り敢えずある程度見れる姿になったのを確認してから、彼女は食堂へと向かった。


「ニーニャ・・・・さん? 大丈夫ですか?」

 ターナーがやつれたニーニャを見て発した第一声はそれだった。

 少しもたつく足取りで食堂に続く階段を降り、ターナーに向け気の抜けた挨拶をすると、フラフラと席に着いた。


「はぁ・・・・私もうダメかも・・・・」

 バタリとテーブルに倒れこみ口から魂が抜けるような声で、ターナーに語り掛ける。

「・・・・大変な惨事だったと伺っています。こちらも愚者王に大被害を被しましたし。

 とはいえお互いケガがなくて何よりです。生きてさえいれば如何様にでもなりましょう」

 ターナーが飲み物を進めるが、胸やけが止まらないニーニャは首を横に振る。


「・・・・気落ちされている所、仕事の話で恐縮ですが、一応すべてのゴダール金貨は売り切りました。都市の被害も限定的でしたので貯えのある貴族はまだ沢山おりますので当面は値崩れせずに売り抜けるでしょうが・・・・それも後数か月の事でしょう」

 小声で話しかけてくるターナーに、生返事をするニーニャ。


 ターナーにしても混乱するゴートヒルで早急に話を纏め、代金を受け取り、粉塵舞い上がる学園を遠めに見ながら駆け付けたのだ。

 村長に頼まれた依頼料の全ては、愚者王の撃退に使用した仲間の装備に補填され実入りは殆ど無。散々な目にあっているのだが、あの腕輪の損失を考えると、同情したくもなる。

 しかし、そこは商人。取り分は取り分。自分の身銭を切ってまでニーニャを庇うことは出来ない。せめて、ブチを付けて早めに嘆きの村近くまで送ってやる・・・・位が関の山なのだ。


「ニーニャさん、これが売り上げです。嵩張るので精霊銀貨に変えてありますあから注意して下さいね」

 そういうと革袋をニーニャの顔の前に差し出すと、彼女も流れるように収める。

「私たちも混乱に巻き込まれないように、これからすぐ南へ向かいます。ニーニャさんも早めに王都を立たれるようにお勧めします」

「え、えぇ・・・・もう奴隷にでもなんにでもなるわ。ありがとターナーさん」

「旅支度は、ブチにさせていますので、できればすぐにでも出立されて下さいね」

 そう言うとターナーは、机に飲み物の代金を置いて席を立った。

 宿を出るまで、何度か振り返りはしたが、生気のないニーニャに溜息を一つつき姿を消した。


 ターナーがあれ程念を押したのだ、ニーニャも商人の端くれキナ臭い空気を感じ取り、その足で荷物を纏めチェックアウトし、厩へ向かう。


 ブルルル・・・・( 遅かったわね、急ぐわよ )

「そんなに拙いの?」

 ブルルル・・・・( 下手すると王都から出られなくなるわよ、戒厳令が何時ででもおかしくないんだから)

「分ったわ、じゃ村まで宜しくね?」

 ブルルルルル・・・・(あら、村までは無理ね、ターナーに追いつけなくなるから嘆きの村の一つ手前までかしら、そこからの馬車は村長が手配してるはずよ)

「それでも助かるわ・・・・では宜しくね」


 日の傾き始めた王都、目貫通りでは今回の騒動の噂話で花が咲いており、噂好きの主婦たちがこぞって立ち話をしている。

 貴族の女中だろうか、嘆きの村に遠征する話があるなんて噂まで耳に届くのはただ事ではない。

 ニーニャは行き交う旅人に紛れ、何事もなく王都を出ることに成功した。

 ・・・・ただ、軽快なブチの足取りとは真逆に気持ちだけは沈んだままだった。 


 ・・・・

 

 王都元老院会議室。

 元学長であった魔物が現れたその日の夕刻。

 そこでは激甚災害と認識されたこの度の事件に関する人々が犇めいていた。


 魔法学院とゴートヒルでの騒動後の後始末に担当地域を収める貴族他家臣が喧々諤々と議論を繰り広げる姿を、王はため息交じりで眺める。

 講堂のような広い会議室、一段高い玉座に座る王に向け、ここぞとばかり各方面から声を張り上げ主張しあう。


「 各建造物の被害は甚大、商工ギルドを筆頭に王国からの補助金の拠出を求める陳情が後を絶ちません!」


「 そんな財政の余裕がどこにある!それより学園の管理体制はどうなっておるのだ?! 発端は学長にあるというではないか!?

 学長選などに公金を使い、自営出来ぬほどに切迫した運営になっていると言うではないか!!」


「 魔に落ちたものは既に打たれたのであろう、王都の市街地に被害はなかったが、それを成しえたのは副学長が学園内でリッチロードを撃退した功績であろうに!?

 そなたの耳目は飾りかぁ?!」


「 なぁ何?! 王都の玄関市街であるゴートヒルでは市街壁に大きな損害、まして住民や貴族の屋敷にいくつもの傷跡を残したまま放置せよというのか? 自作自演の責任を我々に押し付けるか?!」


「 建物は雨露凌ぐ程度の補修でよいではないか!? 問題は100名を超す死傷者出して居る。まずは人命を優先し、手厚い保護と早急な人員補充、王都のもう一つでもある学園の補修が急務!! 各国の使節がいかように現状を自国に伝えているものか・・・・

 ここで王国の威信を示さずして何をもって臣民忠誠心を問う!」


「 そのまえに財政面ではないか!? 嘆きの村では高価な財宝の出土が相次いでいると聞く。その把握に財務省は誰も派遣しておらんのか?!」


「 その通りでございます!!至急嘆きの村のダンジョンを国有にし、兵を使い財務改善を図るが急務かと存じます!!」

「「「 その通り!!」」」


「 ならん!!彼の地は古文書にあるように触れては成らぬ禁断の土地、史実を見らぬ浅慮な行動は慎まねばならん!! 最近の若造はそんなことも知らぬのか!?」


「 カビの生えた古書で国民の糊口を賄えるのであれば、如何様にでも誹りを受けましょうぞ!!

 このままであれば国民に重税を重役課し、多大な不満が国へと募りましょうぞ!!」



 王は、玉座でゴダール王朝の末期の伝承に思いを馳せる。


 当時の王朝は魔法術・マジックアイテム製造技術においても過去に類を見ない繁栄を誇ったという。

 その王都は、あろうことが“始まりのダンジョン・夢現のダンジョン“という現在どこにあるか分からないダンジョンへ大軍を派遣し魔術の神髄ともいえるコアの略奪に手を付けた。

 ・・・・が、その結果、大地を埋め尽くす死霊と化け物に一夜にして王都は飲まれ、嘆きの湖に沈んだと伝承されている。

 そのダンジョンの主はノーライフキング。手を出せばどこへ隠れようとも死霊に取り殺される決して触れなざらなる者として口伝・回顧録などの古書などに再三に渡触れられている。



 シャン!!

 王は金輪の付いた錫杖で床を叩き、注目を集める。


「 余は思う。この度のダンジョンは”始まりのダンジョン”ではないかと、金を生む鶏を縊り殺す必要が、どこにあるや 」


 水を打ったような議会堂であったが、キツネ目の家臣が声を張り上げる。


「 現状、一村民が貴重な文化的遺構を好き勝手に荒らしております。

 それこそ、無礼千万! しかとした知識をもつ聖職者、その護衛とともに現地の保護と調査を行うのは王国臣民の務めであります!

 たとえ僻地の寒村であろうと王国国民である以上、我が国に呪いという災禍が降り注ぐことは未然に防がねばなりません。

 どうか、有志を募り現地への調査団を組織ししかるべき対策をとるのは、国防を考えるうえでも必須!!

 そこには当然、調査資料の収集も含みますが決して、遺跡を踏み荒らす所業を行うものではありません!!

 どうか、私目に保護と調査の権限を賜りたく、何卒ご一考賜りたく上申いたします」


 一見筋が通った上申に思えるが、目付を付けぬ行動を許すほど王も愚かではない。

 予算の目途がつかない復旧費用、それを賄いえるエサが目の前にぶら下がっている。実際には喉から手が出るほど手に入れたい。

 国庫は長年に渡る各貴族の自治・放任により決して豊かではない。(困窮もしていないのだが)しかし、その利権を一部のものに許せば、それは更なる災いの種を巻くことになる。


 古い文献を熟考しつつも危機感の乏しい昨今、切迫する目の前の財政難に対し王には魅力の在りすぎる提案だった。

 そこから、過去の警鐘をないがしろにする訳ではないと自身に言い訳をし、小規模であればと此の者に、調査団の編成を許した。


 ・・・・この時王は、後悔するにはさほど時間がかからない愚かな決断をこの時下してしまった。


 ・・・・


 キツネ目の文官に、屯する周辺貴族。

 いずれも世襲を何代も迎え、過去の文献もおとぎ話位にしか考えていない新興貴族達は、この機に乗じ嘆きの村への食指を巡らすのであった。




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