19.10話
錬金術師ギルドの顧問、マーキュリオンがギルドの自室に招き入れたカジミールと言う年配の男性。
彼もまた初老のエルフ族だった。
「 邪魔するぞ! マーキュリオン。
それで火急の要件、しかも誰にも告げるなと・・・・・なっ、何じゃ?
このアホみたいな魔力は・・・・ 」
擦り切れた研究用マントから薬品臭を振りまきながらニーニャの側を通り過ぎ机に張り付く。
「 ・・・・す、すごいぞぉこれは、古代の遺物だな?! うむ、間違いない 」
カジミールは自問自答しながら決してお宝に触れず、自分の身体を動かし観察を続ける。
「 うむ、ゴダール王朝期のマーリン作で間違いない。
それで・・・・うむ、彫金が魔法回路を兼ねて居おる。
・・・・ほうほう宝石の中にも焼き付けてあるのぉ 」
マーキュリオンとニーニャの存在など忘却し、取りつかれたように懐のメモ紙に何やら書き留め始めた。
「 ・・・・マーキュリオン様、この方は? 」
呆気にとられたニーニャが顧問の顔を窺い話しかける。
「 んむ? おぅスマンスマン、此奴は古くからの知り合いでな魔法具大好き爺のカジミールだ。確か魔法大学の副学長などと言う七面倒臭い仕事をしておる 」
魔法大学の名が上がり、ニーニャの表情が凍りつく。
「 マーキュリオンさん・・・・私を売ったのですか? 」
怒気の籠った声色で顧問を睨むニーニャに対し、涼しい顔で受け流すマーキュリオン。
「 何を慌てておる? この爺は古くからの知り合いじゃと言ったはずじゃ。
それこそ、お主の数代前のご先祖様よりも更に前からの知り合いでな、信用できる爺だ。
人の身のお嬢ちゃんが我々を売る事があっても、此奴が我々を売る事は・・・・たぶんない!」
一瞬丸め込まれそうになりながらも、ニーニャが言葉尻を聞き逃さず、再び問いただす。
「 ・・・・今の間は、なんなのですか? 」
ニーニャがズイと顧問に詰め寄った。
「 いやはや、今の様子を見て判らんか? 」
顧問の視線を追う、カジーミル老は一心不乱にメモを取り懐に押し込まれていく。
しかも、そのメモは端からハラハラと懐から零れ落ち床に散乱してゆく。
ニーニャの眉が片方だけヒクリと吊り上がった。
「 研究に没頭するあまり、資料の管理に気が回らない人・・・・だったりします? 」
「 うむ、正鵠を射抜いておるな。しかし見識や魔法具関連ではこの大陸で三本指に入ろうて 」
顧問が、足元のメモ紙を拾い上げ眺める。
「 ほれ、見てみろ。もう粗方、魔法術式の分析は終わっておる様じゃ。
それに考察が書かれておるが・・・・うむ、やはり酷く強力な呪詛が込められてるようだな 」
渡されたメモ紙に幾つかの魔法陣の断片と、彫金のレリーフの類似性が走り書き出されている。
『 所有者の魔力や生気を吸収して力を保存温存するが、所有者以外が装備すれば反転し指向性のある瘴気が体内へ流れ込み対象者を襲う・・・・可能性が高い 』と書かれている。
ニーニャのメモを持つ手が震える。
「 あわわわぁぁ・・・・私、もう呪われてるのでしょうか? 」
青い顔でマーキュリオンを見つめる目に涙が浮かんでいる。
その表情を見て顧問は口角を少し上げて笑った。
「 お主が呪われておるならば、ここに辿り着く前に不死者の同僚となってそこらを徘徊しておるだろうな・・・・ハッハッハ! 」
ニーニャにとっては笑い事ではなく、かなり心臓に悪い話、怒っても当然の事だ。
彼女にしてみれば、皮膚から浸潤する劇薬を素手で持たされていたと言うか、大事な物だと言われ懐に仕舞っていたのが馬糞だったと言えばよいのか、とにかくそんな気持ちなのだ。
目の前では未だにカジミールがメモを取り続けている。
ニーニャは床に手を突き、現状呪われていない事への安堵と、これからそれを持ち歩く不安に震えていた。
・・・・
ある程度納得がゆくまでメモを取り終えたカジミールが、ようやくニーニャに視線を向けた。
目の合った、床に這うニーニャは何とも言えない情けない表情で、副学長に顔を向けた。
「 して、このお嬢さんがこれを運んで来た・・・・と考えて良いのか? 」
「 ひゃぁぃ~? 」 ニーニャが力の抜けた声で返事をする。
返事を聞きニーニャに歩み寄る。そしてニーニャの手を握り、ローブの内側から取り出したモノクルでしげしげと眺めはじめた。
「 うむ、魔力などの残滓はないか・・・・しかし何であろう、腕輪を触っても良い何かが刻まれておるのだろうか、だが腕輪の持ち主としては魔力的つながりが希薄過ぎる・・・・!!?お嬢さん、この腕輪の持ち主は貴女ではないな? 」
ニーニャは突然爺エルフに詰め寄られ仰け反りながら頷く。
「 はい、正式な持ち主は他におります。
持ち主より、どのような物か鑑定をお願いしたく王都に持ち込みましたが・・・・ 」「 お前んとこの学長が裏に手を回したらしい 」」
話しにくい内容を顧問が補った。
「 ・・・・はぁ、下らん。 権力など精々数百年保つかどうかと言った物になぜ妄執するのか理解できんが・・・・奴にとっては良い物なのだろうな 」
副学長は何とも物憂げな表情で腕を組み思案する素振りを見せるが、彼にとって学長の事は優先順位が低位らしく、5秒後には腕輪の事をブツブツと考察し始めていた。
再び副学長が自分の世界に戻ってしまい、ニーニャは当初の目的を履行する事にする。
「 ところで顧問、少々お願いしたいことがあるのですが・・・ 」
「 なんだね? 言ってみなさい 」
「 今回持ち込みました遺物は、ここに有る物が全てです。
そして私には、たぶん・・・・追っ手が掛ってます。
ですから早急にこれらの遺物を鑑定、可能であれば現金化して嘆きの村へ戻れたらと考えてます 」
「 うむ、続けなさい 」
顧問は目を瞑り、ニーニャの話に傾注する。
ニーニャも背筋を正し、顧問へ説明し始めた。
「 私の実家の伝手で、王都のオークションへ出店します。少なくとも出品の手続き位は、私の方で行っておきたい所です。
また、高価な遺物に関しては私の一存では決めかねますので持ち帰りたいと思います。
そこで相談なのですが・・・・ 」
「 ・・・・王都で活動中に、持ち歩く危険を犯したくないか? 」
「 その通りです。 私を狙う商人は魔法学院の学長と繋がっているようです。
そして、どうしても欲しい物を手に入れるには、手段を選ばす・・・・が現学長の様ですし 」
ニーニャは目を伏せ心の内を吐露する。
「 学長の手の者と調べてくれたのはターニャさんですし、確証が持てたのもターナーさん達が私を庇って敵の目を引いてくれてるお陰です。
旅の商人としての仕事もあるのに今もゴートヒルで頑張ってくれてると思うし・・・・大事な馬まで借りてます。
命の危険を感じずに済んでるのも、たぶんそんな仲間のおかげです。
ですからなるべく早く、できれば明日の夜にはゴートヒルへ発ちたいと考えているのです 」
「 それは・・・・錬金ギルド毎巻き込むつもりか? それは出来ない相談だな 」
顧問がゆっくりと目を開き、告げた言葉は、ニーニャの申し出を拒絶するものだった。
・・・・重苦しい空気の中、副学長のメモを取る紙擦れの音がやけに大きく聞こえる。
ニーニャは、当然とばかりに頷いた。
「 断られて当然です。当初は私では目利きが効かない遺物の鑑定が目的でした。
村長さんの好意で紹介頂いたといえ、何の準備もなく王国の権力者と戦争紛いのトラブルに巻き込む事は、私の本意ではありません 」
「 では儂が預かろうか? 」
副学長はメモを取りながら、口を挟んできた。
「「 ・・・・ 」」
いやいやそれは無いだろう・・・・と思いつつも、目から鱗が落ちる気がした。
敵の本陣にわざわざ持ち込む、『 まさかここに有ったとは?! 』と学長も虚を突かれるだろう。
「 では、所持していても問題ない其処のお嬢さんに付いて来てもらうとして・・・・どうする? 」
副学長がメモを取りつつ顧問に水を向けた。
「 ・・・・仕方ないのぉ、か弱い女子供が矢面に立つとゆうに、老いぼれが風よけも出来んとはいえん 」
顧問は、やれやれといった風に数度ゴキゴキと首で音を立て姿勢を正す。
「 思い立ったが吉日、早速カジミールの研究室へ向かおうか 」
顧問は椅子に掛けた上着を羽織、早くしろとカジミールとニーニャへニマリと笑いかけた。
・・・・
ニーニャを待つ八の字眉毛のブチは器用に自分の鞍に結わえられた袋からリンゴを取り出し、シャリシャリと小気味よい音を立て食んでいた。
そのブチの目の前を小走りで、初老のエルフが錬金ギルドに入ってゆく。
更に、そのエルフを追って来たのか少し距離を置き挙動の不審な青年・・・・青年と言うには少し若い栗毛で目つきの悪い少年が、辺りに気を巡らせながら錬金ギルドの様子を窺っていた。
ブルル・・・・『 瘴気臭いわね・・・・ 』
ブリは前足で鼻先を数度擦ると、臭いを上書きするため次のリンゴを取り出す。
ブルルルル・・・・『 そう言えばリンゴの味が薄いのは何でなのぉ?・・・・ 』
取り出したリンゴを鼻先に置き、不思議そうに首を傾げる馬に錬金ギルドを訪れる人々が微笑ましく視線を送る。
本来ならば馬止めに繋いで置かないと盗馬や馬自身の逃走の心配だけでなく、馬自体が暴れ他者を害する事もある為馬房の者に色々小言を言われるのだが、ブチに至ってはニーニャが錬金ギルドに入ってから今まで邪魔にならない場所に座り込み自前のリンゴでピクニック気分・・・・もとい、不審者探しの人間観察をしていた。
ブルル・・・・『 あの子は黒ね・・・・ 』
ブチは可視範囲の広い馬の視覚内に、彼の姿を常に入れ警戒を怠らないはずだが・・・・
ブルル!・・・・『 味薄いけど、やっぱり蜜入りのリンゴって最高! 』
ブチの瞳は心なしかリンゴ型になっている気がする。
ブチの耳が、女性の声でビシッと立ち上がり会話に聞き耳を立てる。
「 あんた、こんな所で何してんの? 」
目つきの悪い少年はビクリと竦み上がり、女性の方へ恐る恐る振り返る。
そこには錬金ギルドでニーニャに声を掛けた女性、リモルネが布袋を肩に掛け立っていた。
「 え、あぁ、あの俺は、その・・・・リ、リモルネ先輩、こ、こそ、何で? 」
「 ヘテロ、お前相変わらず挙動不審だな・・・・ハハハッ 」
リモルネは然程疑問に思わず、ヘテロの背中をバシッと叩き布袋を渡す。
馬の耳には” 男の子は女の子の荷物を持つものだ ” とか、” もっと背筋を伸ばせ ”とか講釈を垂れるリモルネに対し、一見従順に聞いているヘテロだがその目が憎悪で濁っている。話の内容に関してまったく興味のないブチだが、その様子を見聞きしやるせない気持ちを鼻息で吹き飛ばした。
そうこうしていると、ニーニャの足音らしい音が店内から響いてくる。
ブルルル・・・・『 そろそろかしら 』
ブチは器用に鼻先でリンゴの袋を閉じ、立ち上がった際の鞍のゆがみを何度か身震いして直す。
その様子を見て、通行人が呆れた表情を見せるが、ブチはつぶらな瞳をパチパチと瞬き誤魔化した。
・・・・
ヘテロが仕入れ帰りのリモルネと錬金ギルド前で鉢合わせしたところへ、顧問を先頭にカジミールとニーニャが出くわした。
「 ふむ、リモルネとヘテロか、二人ともこんな所で何をしておる? 」
カジミール副学長、この面子の場合、二人が師事する先生であった。
「 せ、せ、先生! も、も、申し訳ありません。す、少しでも、おや、お役に立ちたくて付いて・・・・」
「 ハッハッハ、ヘテロは師匠の追っかけ? みたいな奴? ハッハッハ! 相変わらず師匠大好きだなぁ! おっと、因みに私は師匠言いつけにあった薬草などの仕入れです! 」
ヘテロを笑い飛ばすリモルネは、無理やり彼に持たせた布袋の上からグリグリ押さえつけている。
ニーニャと錬金顧問が、彼らのじゃれ合う姿を微笑ましくみていると、ブチがニーニャに擦り寄る。
ブルルル・・・・『 あの目つきの悪い子、黒よ・・・・ 』
「 ・・・・拙いじゃな!? 」 ニーニャは声に出そうになり口元を抑える。
『 ・・・・はて、珍しいな、馬のテレパスか? 』顧問は視線を合わさず、一人と一頭に話しかける。
ブチが目を見開き、顧問を見る。
顧問が視線に気が付き、まじまじと馬の顔を見ると・・・・
「 ブファ! ・・・・ハハハハ その表情は卑怯だ!! ハハハハ!! 」
何とも情けない感じに下がった眉のある馬顔が近距離にあるのだ。
両目を見開き口が少し開いた状態、表情だけで色々伝わって来るだけに顧問は過呼吸寸前までのダメージを受けていた。
ブルルル・・・・蹄で地を掻くブチから『 何よ! 私だってレディーなの! ちょっと変顔したくらいでそんなに笑われるとショックなの! 』と伝わって来る。
「 ・・・・そうだったんだ、妙に話が通じてるから不思議だったんだけど、ブチってすごい御馬さんなんですね 」ニーニャが褒めると、ブチの尾がフルフルし始めた。
ブルルル・・・・『 私って頑張るお馬さんよ! すごいのよ! だから、その子はダメなの! 』
機嫌は良くなったが草食動物的な挙動で危険な敵を常に意識している。
ニーニャが、ブチを思い詰めた様に見つめている。
『 ・・・・解ったは、気を付けるわね・・・・これって通じてる? 』
ブルルル・・・・『 私は空気が読めるお馬さんなの! お嬢ちゃんに能力が無くても私がちゃんと読んであげるから安心ね♪ 』
ブチが首を縦に振っている。
能力なしの判定&馬に気を使われる。
がっつり慰めの感情がヒシヒシと伝わるニーニャは地面に両手を突いていた。
・・・・
何とか立ち直ったニーニャがヒソヒソと顧問に話しかける。
「 副学長には教えなくてもよいのですか? 」
『 残念ながら、カジミールにはテレパス系の感受性が低い。 たぶん伝わらんだろうから、直接話さねばならん 』
そんな話をしている彼らの前方、カジミールの懐から幾つもの紙片が舞い落ちる。
それをヘテロが拾っては凍り付きメモに目を通す。
そして、次の紙片が落ちるとそれに飛びつき再び固まる奇妙な行動を繰り返し、カジミールの後を歩いて行く・・・・
「 ・・・・速攻でバレテルわね・・・・ 」
「 そうだな・・・ 」
ブルルル・・・・『 まったく(笑)愉快なエルフのおじさん♪ 』
前を行くカジミール一門の後ろ、ニーニャ達はこの後どのように身を振るか、テレパス(一部なんちゃって)で話し込むのだった。
・・・・
「 着いちゃいましたね・・・・ 」
「 うむ 」
ブルルル・・・・『 まぁ何とかなるんじゃない? 私馬なんだから変な期待しちゃだめよ? 』
魔法大学の本建屋はまさに城そのもの、王都には二つの城が存在していた。
長い歴史を誇る王都ならではの年月を経て色味の増した石材が、古都の風格と洗練された雰囲気を醸していた。
魔法大学と錬金ギルドはその性質上、頻繁に行き来があり( 蜜月という訳ではないが )比較的近い位置に立地していた。
その為ニーニャ達の話は纏まらず、” 出たとこ勝負 ”のなし崩し的展開に転がっていた。
とは言え、案が全く出なかった訳ではない。
議案1:テヘロ誘拐軟禁
証拠がない段階で王都で誘拐事件を起こせばこちらがお尋ね者・・・・で、却下。
議案2:宝物を抱え逃走
既に面が割れている為、追撃は容赦なく嘆きの村まで伸びるだろう。
火の粉は極力払う方向・・・・で、却下。
議案3:第三者の手を借り、宝物分散
ニーニャの縁故、彼女の弟がもう王都に入っているはずと言うが、連絡方法が無い。
できれば、この足で商業ギルドへと赴きたいのだが、テヘロから目を離すのは危険だろう・・・・と、ここまでの話をしている内に到着してしまったのだ。
・・・・
城の様な様相の魔法大学構内は広く、まばらに点在する研究軒や職員等の宿泊施設、オープンテラスを持つ喫茶や馬丁の休憩所などを通り過ぎた。
カジミール副学長は相変わらず、何かを思い浮かべてはメモを取り胸元に押し込むが、その内の数枚が風に舞う。
それをテヘロが空中でキャッチし、中身に目を通しては歩みを止める。
カジミールはそんなテヘロに構いもせず、布袋を肩に掛けるリモルネと何かを離しながら先へと進む。
本立建屋は重厚な佇まいの建造物であり、リモルネの話では数多の貴重な書物や標本、一部の危険な魔法具が封印されているのがこの大学の本建屋だと言う。
ニーニャ一行は正面門ではなく、城の西側にある通用門へと向かう。
正門と違い、通用門は馬車が一台がなんとか通り過ぎる事の出来る程度ではあるが、馬車の出入りが頻繁に行われている。
数名の守衛が書類と積荷の検品を行い、その周りを無言で佇む護衛の兵士が半眼の視線を虚空へ向けていた。
本建屋から、一台の馬車がでると外の馬車が一台は入っていく。
御者たちは慣れた者の様で、パイプを取り出し一服している者もチラホラ見られた。
カジミールが一人の守衛に近付いた。
「 急用にて通用門を使う、当番の隊長を呼んでくれ 」
ちょうど検品を終えた守衛は、一目で声の主がカジミールと判り敬礼をして事務棟へと走りゆく。
そして、間をまたず駆け出してきた隊長に何やら打ち合わせをし始めた。
・・・・
「 ニーニャと顧問!! このメダリオンを首から下げといて、防犯魔法のギチギチの部屋に向かうから・・・・ 」
リモルネは、複雑な文字と紋様を浮かべるメダルが輝く首飾りをニーニャに渡し、もう一つを顧問の首に掛けるからと彼を守衛詰所の椅子に座らせた。
副学長は幾つかの書類にサインをする。
身体検査の為近寄る守衛達をカジミールが制し、城門を潜るとニーニャが尋ねた。
「 ルモルネ、私達を何処へ連れてくつもり? 」
4名の護衛が随行するニーニャ達の先頭を副学長が歩いて行く。
「 もう少ししたら説明するわね 」
ルモルネはカジミールから掻い摘んで話を聞いたらしく、表情が硬い。
その後ろに、何とも言えない表情のテヘロがオロオロと付従う。
極力人と出会わないルートを敢えて選んでいるのだろう。
使用人等内部の者しか通らない狭い通路を一列になり通り過ぎる。
物置のように資材の詰まれた通路、増改築で生まれた段差に後付けされた階段。
旧城壁に利便性の為無理やり作られた通を抜けると、ようやく学内の大きな通路へと出た。
そこで一行が目にしたものは、物言わぬ石となって立ち尽くす幾人もの衛兵と使用人達の彫像だった。
・・・・
「 魔法の気配がする! 魔法はまだ生きておる、皆の者は下がれ・・・・ 」
カジミールがワンドを取り出し、詠唱をを始める。
『 見えぬ物は見えぬ物、有る物は有る物、有るならば見える物、その片鱗を示せ、サーチ 』
カジミールの目には、糸の様な幾つもの魔力線が蜘蛛の巣のように室内に張られているのが見える。
その先の厳重保管庫の扉は歪み崩れ、何者かの侵入を阻止できなかった事を示していた。
石像にされた守衛達は一様にこちらを向いて抜刀すらしていない、不意打ちかまたは顔見知りの手に掛った可能性が高いとカジミールは考える。
罠は守衛を石化させた後に張られた物。
守衛の後退までまだ少し時間がある。しかし発覚は時間の問題である。では時間を稼ぐ為の本命の足止めは今見ている罠の方だろう。
カジミールは考える。
『 私ならばどうする、何らかの貴重なレリックを盗み出す。
それは何のため?、当然利用する為。
何を恐れる? 発覚・・・・いや発覚を恐れるならばこのようにあからさまな暴挙にはでない。
では、何故? 雑で荒い仕事なのだ? 何故?・・・・急ぐ必要がある。うむ、違和感は無いな。
それで目的は達成した。では何故罠を? 私ならばどうする? 証拠を隠滅する為全てを破壊する。
しかし、レリックでは完全な破壊は無理であろう。
では、犯人が誰だか解らぬように罠を張るだろう。
応援や救助に来た者全てを挽肉にし犯人が誰なのか知らべる時間を少しでも稼ぐだろうよな・・・』
中央の床に一際濃い魔力を孕む蜘蛛と蛇の意匠が施されたブローチが落ちていた。
魔力線に沿って瘴気が纏わり付いている。
「 誰かが、強力な呪詛が籠ったアイテムを使ったようだ 」
カジミールは顎を撫でながら一行を振り向き、下らん事をすると首を竦ませた。
魔法大学に着きました、もう少し加筆予定です。
王都、リッチロード襲撃直前まであとカウントダウン。




