19.9話
錬金ギルドの顧問がいつしかギルド長となっておりました>顧問で統一します。
だって、ギルドの長がふらふらしてちゃ拙いですもの・・・・
東の空が朝焼けに染まっていく。
真っ暗な空が次第に透けるような青へと変わり、鳥たちの鳴き声が響き始めた。
ブルルル! 『 朝市には早いけど気の早い人ならもう市場に居るはず! 』
気の逸るブチを宥めながら、村長の指示書を紐解く。
” 王都に入るまでに敵の牽制・可能な限り排除せよ。
花屋は気にするな。
4日目の朝に王都に入る事 ”
指示書はここで途切れている。
『 これはきっと、あとは独力で・・・・って事かしら?! 』
これで、いろいろ出し抜いて3日間の時間を稼いだ。
王都の鑑定士にゴダールの指輪や腕輪、銅貨・銀貨を鑑定させ、ゴダール金貨の出土が本当だと知らしめ、そして嘆きの村に店舗を構えそこで商売を可能にする。
あと、魔法具の取り扱いに長けた者をスカウトし鑑定作業と修理作業に取り組んで貰えばマジックアイテムの販売も可能に成る・・・「 ムフ、ムフフフフ 」ニーニャは妄想で顔がにやけている。
ブルルル・・・・『 あなたキモチワル!? 』
ブチから引き気味の流し目で見られてしまう。
ブルル? 『 ニーニャの持ってた紙、裏にも何か書いてあるわよ? 』
「 え? 裏? 」ブチのひっくり返せといったジェスチャーに従い、指示書を裏返す。
「 ・・・・なんで走り書きなの? 」
あまり時間が無かったようで、表とは違い、思いつくまま書きなぐったような字面が、村長の焦りを写している。
” 王都に付いたら錬金ギルドのマーキュリオンを訪ね、割符を見せよ。
鑑定依頼は誰でも良いが、慎重を期して魔法大学関係者は避けよ。 ”
” ニーニャの持ち込んだアイテムは全て呪われていると思え、奪われても深追いは無用 ”
” 戦争に巻き込まれる気配を察したならば、即逃げろ ”
” 時間の余裕は3日、それ以上留まるならば救出は困難心せよ ”
珍しく長い文章が書かれている。
最後に、一筆。
” この度で見聞きした事は他言無用 ミオール:レイクウッド ”
” P.s 尚、この指示書は任務終了後自動的に焼却処分される。 ”
最後の一文が不穏な感じだが、概ね危ないことするな、危なくなったら飛んで帰れと彼女の事を心配するものだ。その心使いが解るからこそニーニャはその好意を素直に受け取る事にし、心配してくれる大人がいる事に少し目頭が熱くなった。
ハンカチで目元を抑え城門へと向かう、朝日を浴び大きく立派な跳ね橋を備えた城門がニーニャ達を出迎えるた。
開け放たれた城門の先には、市街地の街並みが広がっている。
朝一の城門前にはもう野宿組が許可書の発行を求めた短い列を作っており、ニーニャもそれに習い路肩に身を寄せる。
ドロロドロドロドロロロロロ・・・・
だが、その市街地から騎兵と思われる集団がこちらへ向かってくる。
数百の騎兵に囲まれるように多頭立ての馬車が通り過ぎ、一瞬その中に学長の姿が見えた気がした。
軍ともいえる集団が一路ゴートヒル方面へと向かって行った。
ブルルルブルルル!『 嫌な予感がするわね・・・・なるべく早く用事を済ませて帰りましょう。リンゴは忘れずに! 』 ブチに何度も振り返られ釘を刺される為、まずは市場へと向かう。
軍隊の背を見送り、ようやく入都許可を受け取り王都の中に入ったのだがニーニャの最初の印象は、” 空気が淀んでいる ”であった。
ニーニャの中で何かが警鐘を鳴らす、この王都は何かおかしい。
ブルルル? 『 なんだか街臭くない? 』 鳥肌を立てるブチ。
人々は気が付いていないが、うっすらと瘴気が街を覆っている。
ニーニャはブチと同じように感じてみることにした、そうすれば何となく解るかもしれない。
身体の力を抜き風を感じる。
自分には大した事には使えないけど魔力はある!
全身で気配を感じる!
そうすれば何かが解るはず!・・・・ぞわぁ・・・・全身に鳥肌が立った。
「 きた・・来たわ! 感じる!! 解・・・・・ぐふぁぁ・・・・ 」
膝立ちになり両手を地面に手を付く。
『 そうこれはセルジオにも感じる何かの、悪い方に偏った何かだ!・・・・けど、何かって何? 』
ニーニャは脳内で言葉にしてみて理解した、全然解った内に入っていなかった。
只のハズレではないのだが・・・・今のニーニャには知る由もない。
ニーニャはブチを引いて市場に入る。
ゴートヒルと違い、朝から市場周辺には臭気が籠り、人々の喧騒にも薄い膜が這ったような違和感を感じる。
目的の蜜入りリンゴは早々に見つけることができた。
八百屋の前で熟れて蜜の入ったリンゴを買い、ブチに与える。
ブチが喜んでリンゴを頬張るが、少し表情が曇る。
ブルルルブルブル・・・・
『 なんて言うか、味が・・・・じゃなくて存在が軽い?薄い? なんかスカスカした感じなのよねぇ・・・・ 』そんな感想を目と表情で語るブチ。
しかし一応約束だからと、彼女の気に入った樽一個分のリンゴを入手し麻袋に入れて鞍に掛けてもらう。良いリンゴの香りがブチとニーニャを包み込む。
思った味と少々違うが、それでも大好きなリンゴの香りに、うっとり顔にブチ。
彼女に錬金ギルドまで行くけど、どうする?と尋ねると、鼻息荒く付いて来る素振りを見せたので、そのまま二人は錬金ギルドへ向かう事にしてた。
・・・・
素材屋や魔法薬を取り扱う店の並ぶ通り、錬金ギルドの前は、市場と違った賑わいと見せていた。
朝一から、薬の情報を求めて多くの人が列を作り、ギルド職員が対応に追われているのだ。
馬止めてブチさんに待ってもらい、一応ニーニャもその列に並ぶことにする。
朝と言う事もあり周りは早い。
「 アンタも朝から大変だねぇ、師匠の使いかい? 」
唐突に、ニーニャの後ろに付いた薬臭い女性が粗野な感じに話しかけてきた。
ニーニャの腰付近に視線を彷徨わせ、怪訝そうにしている。
「 え? 使いではないのですがマーキュリオンと言う方に。お会いしたくて・・・・ 」
「 おぉ? 顧問に用事なのかい? じゃ、こんなとこに並んじゃ時間の無駄だよ。 ちょっとあんた! 」
薬臭い女性は後ろの男性を捕まえ、前の子が顧問への使いらしくて列を抜けるけど戻ってくるからいいよね?!と強引に納得させ、ニーニャの手を引いてゆく。
ギルドの隅にある喫茶スペースにニーニャを連れ込み、初老の男性に視線向ける。
「 やっぱりいた、彼が顧問のマーキュリオンね、耳を見れば解ると思うけどそういう人だから。」
「 あ! お名前だけでも 」
「 ん? 私? 私はカジミール研究室のリモルネってんだ・・・・これも何かの縁だね!機会があればまた!」
列の後ろに居た男が、此方を見ながら必死に手を振っている順番が来たようだ。
リモルネは、” ゴメンヨゴメン ”と列に割り込み受付カウンターに取りついていた。
・・・・
喫茶スペースの一番奥。
鼻先に眼鏡をかけ、書を読みながらモーニングセットを食べている。
ニーニャは朝食を食べる初老のエルフ男性に、おずおずと話しかけた。
「 お初にお目に掛ります、嘆きの村で商人をしておりますニーニャと申します。
顧問のマーキュリオン様で居られますか?・・・・ 」
書籍から視線を上げ、ニーニャを見る。 ニーニャは懐から取り出した割符を見せる。
「 うむ・・・仔細承知して居る。丁度良い、この後カジミールとも会うからの・・・・ 」
「 え? あ、はい・・・・リモルネさんの先生のカジミールさんですか? 」
顧問は聞きなれない人物名に首を傾げるが、まぁ誰かを師事していても変ではないが、などと呟きニーニャを顧問の部屋へと連れて行く。
・・・・
標本に几帳面な文字でラベルが貼られカラスのケースに飾られた展示室の様な部屋が顧問の部屋だった。展示物が日に焼けるのを嫌ってか、北向きの窓には薄手のカーテンがかかり部屋を更に薄暗くしている。
部屋に置かれた柱時計がまだ早い時間を指しており、とても来客を迎える時間ではなさそうに思える。
「 さて儂も色々在ってな、時間が惜しい。まずは、お主の腰の物を見せてくれんか・・・・ 」
眼鏡を押し上げ、ニーニャの腰の袋を見ている。
「 解りました 」
ニーニャは腰の袋を取り外し、テーブルの上に広げて見せる。
幾つもの宝石が散りばめられた腕輪
ミスリルの様なネックレス
宝石の付いた指輪を数点
固着して固まった古銭
ゴダール金貨、5枚
ゴダール銀貨と銅貨数枚。
マーキュリオンの視線が険しくなる。
「 ニーニャと言ったね、その腕輪や指輪を持っても何ともないのかね? 」
「 はい、かれこれ数日間は盗まれない様に身に付けております 」
ニーニャはドキドキしながら問いに答える。
「 ・・・・持ち主を選ぶか・・・・いやはや長生きしてみる物だな 」
顧問は、布を取り出し腕輪に直接触れない様にしてつつく。
特段の反応が無いのを確認し、ルーペを取り出して調べはじめる。
顧問の額に玉のような汗がふつふつと沸き立つ。
「 お、お、お嬢さんこれは何処で手に入れた?! 」
ずれた眼鏡を直そうとせず、ニーニャを睨む。
「 えっと、その・・・・村長が伝えていないのであれば答えられません 」
「 ・・・・あぁ、嘆きの村の迷宮か、話は誠なのだな 」
少し落ち着き顧問が腕輪を見ながら、ニーニャに解説し始める。
「 儂も錬金術を扱う者であると共に魔法師でもある。この腕輪はいつの時代の物か位はわかるのであろう? 」
「 はい、ゴダール王朝全盛期の物だと思いますが・・・・ 」
「 うむ、儂の見立てもその通りだ。
しかもこの腕輪の製作者はゴダール・ベルガラス・マーリンという稀代の大賢者で、古の迷宮に挑み命と引き換えにダンジョンを鎮めたと言われておる。
失われた錬金術の秘術も多用されており、この腕は一つでも信じれん価値があろう 」
ニーニャは実感が湧かず、顧問に尋ねる。
「 顧問でしたら、お幾ら位の値を付けられますか? 」
「 正直値は付けられん。国宝級どころか戦争してても手に入れたいと思う国も出てくるだろう。
それでも値を付けよと言うなら、手の届かぬお断り価格にするじゃろう。
そうさな、精霊銀貨一千万枚とかでどうじゃろうか・・・・ 」
顧問は腕輪を静かにテーブルに戻し、手にしていた布で額の汗を拭った。
「 儂でも可能ならば手に入れたい。 だが、これはいかん! ニーニャ殿は、魔力と瘴気は見えるかね? 」
「 いいえ、見えません。少し悪寒を感じる位でしょうか? 」
「 ・・・・そうか、少し謎であるが、所有者からの許可が出ているのであれば強ちおかしくは無いか・・・・、いやすまん。 要するにこの腕はには凄まじい魔力と念が籠っており、不心得者が無理に所有すればかなり愉快な結果に成るじゃろう・・・・そろそろか 」
顧問が話を打ち切るのと当時に、戸を叩く音が響いた。
「 カジミールだ、マーキュリオン殿はご在室か? 」
「 中に居る、入られよ 」
ニーニャが机の上の物を急いで片付けるのを止め、来客を受け入れた。