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いつもダンジョンに居ます  作者: ねむねむぴよ
第一部 一章 墓守始めました
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19.6話


 花屋からの帰路、ニーニャは歩きながら村長からの指示書を読む。


 ” 王都に入るまでに敵の牽制・可能な限り排除せよ。

  花屋は気にするな。

  4日目の朝に王都に入る事 ”


 村を出てから本日で3日目、しかもかなり日が傾いて来ている。

 『 これまで一番長い指示内容だけど、これって無理っぽくない? 』

 革用紙を仕舞い込み、宝石商店の軒先で小さな紙片を読む。


 ” 明日の明朝までに準備を済ませお待ちください、【 ザニー何某なにがし 】はそれまでに ”


 「 怖! 」

 思わず零れた呟きを、口を急いで押さえて辺りを窺う。

 『 ・・・・なんなのターニャさんとこの従業員。 何でかザニードの事まで知ってるし 』

 背中を嫌な汗が伝う。

 『 そ、” それまでに ”ってどういう意味なんだろう・・・・片付けるって意味よね?! 』

 たぶんそのままの意味である。

 いや退場頂くと言う点ではあっているが、闇に葬るっていう点までは確信が持てない。


 しかし既にそのミッションは何日も前に発動しているのだがニーニャの知る所ではない。


 ・・・・


 ターナーと別れた倉庫街から少し離れた宿屋街、大小様々な飯場を備えた木賃宿・その先には商人達が利用する瀟洒な造りの旅籠はたご・さらに通りの奥には貴族様専用の超高級宿が有ったりする。


 ニーニャは荷役場でターナーの宿を訪ね、彼らと合流した。

 奮発したのか、そこは貴族も利用することがある大旅籠。

 中庭パティオの女神像から水が流れ落ち、大理石に囲まれた池には極彩色の魚が泳ぐ。

 子供の頃に似たような宿を何度か使ったことのあるが、旅商人となってからは久しく利用しておらす少々挙動不審になっていた。


 店の中に入ると、カウンターから身なりの良い初老の紳士が声を掛けてくる。

 「 お嬢様、何かお困りでしょうか? 」

 コンシエルジュと思われる男に声を掛けられターナーの名を出すと、慇懃にカウンターの横の喫茶スペースへ通された。


 「 紅茶とコーヒーが在りますが、どちらがお好みでしょうか? 」

 ミルクティーは出来るかと問うと、勿論ですともと微笑む。

 「 少しですが茶葉も揃えておりますが、お好みはございますか? 」

 耳障りに成らない穏やかな声が尋ねてくる。

 「 お任せしますのでお勧めの物を、お茶の葉で入れ方も変わるようですしお任せしますわ 」

 老紳士が会釈し静かに手を上げると、数分も立たずに女給が茶器と綺麗なクッキーを持って現れた。

  女給が老紳士にアイコンタクトを取る。それを受けて老紳士が口を開いた。


 「 ターナー様からニーニャ様が訪れる旨、お聞きしておりましたが、ターナー様は生憎ご来客の様でございます、しばしこちらでおくつろぎ頂きたく存じます。また、何かご用向きの際はよしなにお呼び付けください 」

 静かに頭を下げ気配もなく下がっていく。


 何とも所在無げに中庭の水の流れに顔を向け、お洒落なテーブルに掛けられてテーブルクロスに視線を落とす。 緻密なレース編みのテーブルクロスが全ての席にさり気無く配されており、この内装を手がけた人物のセンスの良さを語っている。


 砂時計が静かに砂を落としていく。


 銀製のトレイに真っ白な皿、クッキーは焼き立ての様で粗熱を取って直ぐなのかほんのり暖かい。

 傍には、ティーポットとミルクポットが置かれ、豊かな紅茶の香りが漂う。

 ニーニャは上品な雰囲気に気持ちが寛いでくる。

 

 口の広いティーカップに茶漉ストレイナーしを添え紅茶を注ぐ。

 ミルクが渦を描き、カップの底の絵を美しいミルキーブラウンが隠してゆく。

 ニーニャはゆったりとカップを口に運び、その美味しさに目を見開いた。


 ・・・・


 当日、日没直前 ゴートヒル経由王都行きの貸切馬車がゴートヒルを素通りして走り去る。

 4頭立ての駅馬車は無理な旅程で車軸がぶれ、今にも車輪が外れ飛ぶのではと思うほどにガタが来ている。 馬達は泡を噴き、目が血走り、汗が靄を作り尾を引いていた。

 「 もう少しで王都だ! 急げ!! もっと早く!!ニザームさんへ伝えなくては!! 」

 雇い主はずっと急げと叫び続けている。


 悪寒が背筋を駆け抜ける。

 御者は地の底から響く様な嘶きを聞いた気がした。


 「「「「ヒィヒィィィン!!」」」」

 ガガガガ・・・・・馬車が軋みを上げて急停車する。

 「 どぉ?! どうした!? 」手配主が馬車の中から叫ぶ。

 「 突然、馬が、何かを恐れて立ち止まったんです!! ま、魔物でも出たのでしょうか?! 」

 御者も滅多にこのような事がなく、激しく狼狽する。


 馬の首が揃って、丘の上をみている。


 「 ・・・・あれは、なんだ? 」雇い主が尋ねる。

 「 モ・・・モノケロース?! 」・・・・御者が呟く。


 丘の上の馬影。

 日没直前の残光が、丘を舐める。


 長々と伸びる馬影、その額には一本の角があり、捻じれ長く伸び寄る角影が馬車を貫く。


 その瞬間、馬達が恐慌を起した。

 気も狂わんといった暴れ方で、くびきの金具が弾け飛び、ながえを圧し折る。

 馬車も4頭の馬の暴走に耐えきれず、元よりガタの来ていた車軸が折れ馬車が転倒した。


 引きずられるように、倒れる馬達は更に暴れ、馬具を引きちぎり逃げ出した。


 衝撃で気負失った御者が激痛で覚醒する。

 頭からヒタヒタ零れ落ちる自分の血を拭おうと右手を挙げるが、手首の上付近で不自然に曲がる形状に血の気が引く。

 転倒事故直後の為か、痛みはあまり感じない。

 馬のいななきの方向へ緩慢に視線を向けると、今まで馬車をいていた馬が走り去る姿があった。

 呆然と見送る御者が、思い出したように丘の上に視線を戻す。

 全身に悪寒が走る。


 馬車の戸口から逃げ出そうとしたのか、雇い主は馬車の下敷きになり飛び出した手首がダラリと垂れ下がっている。

 

 逆光で浮き上がる影は、雄々しいモノケロースその物。

 強大な魔物にも悠然と挑みかかり、立ったまま絶命する程の凶暴魔獣。

 御者は目を見開き巨大な影を見ていたが、骨折の痛みが突然全身を包み込む。

 頭部の血もなかなか止まらず目の前が暗くなり気を失った。






 ・・・・


 ブルルル・・・・『 はぁ、遅くなっちゃったじゃない 悪い奴が街に入って来ないように見張っておかないといけないのに・・・・』と、言いたげに眉を八の字にし不服そうな鼻息を吐く。


 頭にパーティー用の三角帽子を乗せたブチが丘の上に立って居る。

 三角帽子は子供達が作ったものでヨレヨレに螺子曲がっており、ブチ毛の八の字眉毛馬は途轍もない破壊力を発揮している。

 実際、街中ですれ違う人々が皆吹き出していたのだから間違いない。


 ブチは街で子供たちに揉みくちゃにされ、抜け出せたと安堵したら軍隊顔負けに組織化された追跡オニゴッコに発展、漸く街の外に逃れて一息ついていた。


 ブルルル・・・・

 土煙を上げて走ってくる4頭立ての馬車が、急なカーブに差し掛かろうとしてる。


 『 はぁ・・・あれじゃ危ないでしょ? 何やってんのあの御者は 』

 ブチは、胸一杯に息を吸い込みここ一番の嘶きを披露する。


 ヒヒヒィィィィィィィィィィィン!! 

 『 この先カーブ!スピード注意!! 危ないわよぉ~!! 』

 目いっぱい力んで嘶いたので、思わず棹立ちに成ってしまう。


 「「「「ヒィヒィィィン!!」」」」

 『『『『 うわぁ!! あぶねぇ 助かったありがとう!! 』』』』

 といった感じの嘶きが帰ってくる。


 ブチの視線が、立ち止まった馬達と目が合った。

 『 命助かったぁ・・・・この職場嫌だ!『んだ!』『職業選択の自由!』『明日からリクルート!』』

 ・・・・といった訳の分からない感じで、まばたきが返ってくる。


 ブルル・・・・

 『 はぁ、世の中そんなに甘くないわよ、けど、そこより良い職場もあるかもね知れないわね 』

 『『『『 そうか?! ヤッター 』』』』

 ブチの鼻息に、キラキラした目で見返す馬達が一斉に、そして全力で逃避を計る。


 4馬力はバカにできない。

 馬車の部品が砕け飛ぶ、その力は凄まじく馬車本体も壊れ横転した。

 ブチも同族に酷い扱いをする奴になんの同情心もわかない。


 喜び駆けていく馬達を、完全に日が沈むまで見送った。


 ブルルル・・・・『 さっきから、首に掛る紐が気持ち悪くて・・・・もうぉ エイ! 』

 激しく首を振り邪魔な帽子を引きちぎる。


 人知れず活躍するブチが、夜の草原で楽しげに草を食む。


 月光がブチの影を地に落とす。

 その影は、黄昏を歩く魔女の姿に見えた。

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