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いつもダンジョンに居ます  作者: ねむねむぴよ
第一部 一章 墓守始めました
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19.5話


 王都にもっとも近い天領地、ゴートヒル。

 王城の場外に居を構えるより、水も緑も豊かなこの街を好む貴族も多く、御用商人の屋敷も実はゴートヒルに多く存在している。


 実はニーニャもセルジオに出会わなければ、ここに屋敷を構えるつもりであった。

 王都より15k、街道は整備されており馬車で一時間ほど、街中に川の水が引かれ計画的に作られた街には整然とした美しさが有る。


 荷と人頭の税金を払い街門を抜けると、商工組合のある荷役場へそのまま馬車を向かわせる。


 馬車に揺られながらターナーがニーニャに話しかける。

 「 追っ手や妨害をうまく引き離せた様ですが、伏魔殿は目と鼻の先です。

 ミオールさんの指示書の用事を済ませるまで荷は預かりますから、用事を済ませて来ては如何ですか?

 それに私達はここに3日程滞在します。上手くいけばお手伝いできるかも知れませんし・・・・ 」


 「 えぇ? いいの任せちゃって・・・・す~んごく助かるんだけど・・・・ 」

 孤立無援のニーニャにとっても大歓迎の提案に二つ返事で頷く。


 「 じゃ急いで鬼百合買に行ってくる! 」

 馬車から降りたニーニャが、ブチに挨拶をしたところで気が付く。

 『 ・・・・なんか私って慎重で、思慮深くて、ちょっと鼻が上向いてるけど結構可愛いし、頭もいい方だと思うんだけど・・・・えっと、何だっけ・・・・ そうそう、なんか凄く運が向いてる気がするのよね・・・・ 』


 ブチが胡乱な目でニーニャを見る。

 『 この娘、頭のネジどっかに落として来たんじゃないの? 』

 ブチが目で訴えながらターナーを見る。

 『 独りで行かせると、色々拙いんじゃない? 』

 目で語るブチがずいっと鼻先で示して、ターナーを促す。


 「 えぇ? 私がフォローするの? 」

 ブルルルル・・・『 あなたがしなくて誰がするの? 私? 私は馬よ? 』とでも言いたそうに鼻をならす。

 それを察したターナーがボソリ呟く。

 「 ブチさんならニーニャさん位の娘さん、大人の魅力で手玉に取るなんて簡単ですよねぇ~・・・・

 そう、掌の上でコロコロ・・・っと 」


 ブルルル・・・『 まぁ、それ位造作もないわねぇ 』

 ブチは褒められるの大好きな馬、褒められるとコロッと乗せられる。

 でも、何だか雲行きが怪しいのも野生の感が” ガォー ”と威嚇してる。

 ・・・・馬なのにガォーなのは謎だ。


 更にターナーが詰める。

「 熟れて蜜の入った美味しそうな、うまうまリンゴを大樽一つぐらい・・・・

この街だったら有るだろうな・・・・頑張ってくれたら、ブチさんに上げちゃおうかなぁ 」


 ブル!? ブチが目を見開き耳をピンと立てる。

 『 何それ? いいの? ホントにいいの? 蜜入りよ?! 間違いないわよね?! 』

 ブチの目がパチパチと瞬き、ターナーを見据える。

 ブルルルル・・・・ブチはレディー、食べ物でなんて釣られない。 義に生きる牝馬、ブチ。

 後ろ髪を引かれる思いを、長い睫毛をきつく閉じ、フルフルと震える。


 ターナーはダメ押しとばかりに、嫌ならしょうがないけど・・・・ブチは馬だし・・・・などと呟く。

 そんな事を言われてしまうと、ブチは居てもたっても居られない。

 ブチの目の前から、樽いっぱいのリンゴに羽が生えて飛んでゆく幻が見える。


 ブルルル・・・ブチは首を左右に振る。

 『 何ですって? 馬の前にレディーなの! ニーニャって子も旅の仲間よ?! 嫌ってわけじゃないのよ?! その言い方、あの子を見捨てるみたいじゃない?! やるわよ!! ほんと馬使い荒いんだから!! ・・・・それとリンゴに釣られた訳じゃないんだからね!? でも一樽よ!? 』

 

 そんな事を言われてしまうと、ブチは居てもたっても居られない。

 前足で地面を掻き、馬具を早く外せとターナーの袖口をガジガジ噛む。


 「 いやぁ、流石面倒見のいいブチさんですね。私もそんなブチさんと一緒に旅が出来てうれしい限りです 」そんな、おべんちゃらを口にしながらターナーが馬具を外すと、ブチがスキップするようにニーニャの去った方へと消えて行った。

 ・・・・街中で馬を放す、通常では考えられない暴挙、何故かそれが平然と行われた。


 ・・・・


 目抜き通り、商店の立ち並ぶ街並みをニーニャが歩いている。

 柱が表に見える雰囲気のある建物が街並みに統一感を与え、一目で生業が判る看板が良い雰囲気にアクセントを付けている。

 通りには人通りも多く、ニーニャは買い物籠を下げた親子連れの夫人に市場の場所を訪ねその足で向かって行く。


 市場は昼を過ぎても活気があり、食事を提供する屋台から良い臭いが漂う。


 市場には野菜や肉、魚の生鮮食料品が並び、各食品のハム・ソーセージ、香料に雑貨と様々な物が並ぶ。

 その中には生花を扱う店も点在し、野花だけでなくバラやカーネーション、見た目の派手な南国風の物まで多彩な品ぞろえであった。


 「 ・・・・白ユリは多いのに、鬼百合は余りないわね・・・・ 」

 鮮やかな赤身の強いオレンジにゴマが降ったような斑点の鬼百合は目立つのだが、朝一で持ち込まれたそれらは少し元気が無く” 売れ残りです! ”と主張している。


 そんな店頭の花から、まだしっかりとした物を一本ずつ物色し購入し、最後の店で幾ばくかの心付けと共に5本の花束にしてもらう。


 「 ・・・・花束は出来たけど、この花束を欲しがる誰かって・・・・どうやって探すのかしら? 」

 ニーニャは、これまでの露店でそれとなく世間話で鎌を掛けるがピントのずれた反応しかなく途方に暮れていた。


 市場の食事を提供するブースで干しブドウの入ったパンを買い。空いたオープンテラスに見える様に花束を置いて少しずつ摘まむ。

 スイーツを提供する露店も多く、ニーニャと同じくらいの女の子達が黄色い声を上げ話し込む姿が見える。喧騒の中にも平和な空気が漂っていた。


 『 本当に戦争の準備をしてるのかしら・・・・ 』

 小声で呟くニーニャの眼に、花屋のワゴンが目に飛び込む。


 花屋の売り子と目が合った。

 可愛いフリルの付いた衣装。

 その見覚えがある衣装は、嘆きの村で良く知るターニャ花店の制服。


 売り子が微笑みながら、こちらに近づいてくる。

 「 お嬢様、とてもきれいな鬼百合をお持ちですね。

 先程、とあるお屋敷から注文を受けたのですが、数が足りず困っております。

 差支えが無ければ、その花束を御譲りいただけませんか? 」


  一見、ローティーンに見える少女が慇懃にお辞儀してニーニャに声を掛けて来た。

 周囲の視線が集まるが、時折見かける風景なのか直ぐに視線が逸れた。


 ニーニャは葡萄パンを懐に収める素振りで取り出した布包みをだし、その布に包む流れで割符だを見せた。


 少女がニコリと頷き、口を開く。

 「 店の者が代金を払いますので、お時間頂いてもよろしいですか? 」

 「 そうね、困ってる様ですから宜しくってよ。 どちらに伺えば良いですか? 」

 少女が視線をワゴンに向けると、背の高い細身の女性が深々とお辞儀をしているのが見える。


 「 いいわよ・・・・あちらね? 」

 ニーニャは少女に従いワゴンへと向かった。


 ・・・・


 ブルルル・・・・『 無事合流を確認! 第一ミッション完了!』

 市場の中、幾つかのブロックを挟んだ果物屋の前で、” キリリィ ”と音がしそうな視線でニーニャのオープンテラスを見つめる瞳。ビシっと揃えた耳で首を伸ばした凛々しい姿のブチ。


 彼女の回りには子供がたむろっている。

 「 ねぇねぇ ブチちゃん! 葡萄もっとたべる?! 」

 ブルルル・・・・『 えぇもちろん! 頂けるだけ、いくらでも! 』

 「 キャハハ! 食いしん坊さんだねぇ 」

 子供達の手には、柔らかい草や屋台の店主から持たされた餌が握られている。


 女の子が小さな手でブドウの粒を差し出すと、ブチは彼女の手を傷つけないように唇で啄み嬉しそうに頂く。


 「 早く!! こちらです!! 」露天商が数人、5名の守衛を引き連れやってくる。

 「 あれですが・・・・ 」露天商の指さすのは、ブチ・・・・の前足の下。


 「 くそぉ!! 何だこの馬!! ぶっ殺してや・・・・ぐげぇ!? 」

 ブチが体重を掛け、足の下の小柄な男を踏みつける。


 少し前、買い物の女給からスリを働き逃げる男を華麗なステップでん付け、地面に縫い付けていた。

 「 ・・・・おぉ、ブチちゃんか?! 今回もお手柄だね!? 何時も悪いねぇ 」

 隊長らしい人物が、ブチを褒める。


 ブルルル・・・・ 『 もっと褒めてもよくってよ?! 』

 尻尾と耳をハタハタさせる。

 「 ブチちゃんが居てくれると、なんでだろうな・・・・犯罪者が減るんだよ、いっその事この街に住まないかい? 」

 守衛の一人が、嬉しそうにブチを撫でる。


 ブルル・・・・ 『 ごめんねぇ、私って旅する女なの。 一つの場所には留まれないのよぉ 』

 ブチの目を見る周りの人には、そう聞こえた気がした。


 「 そうだよな、馬は草原にいるもんだよな・・・・ブチちゃんならいつでも大歓迎だからな! 」

 ここでも不思議と会話が成立する。

 和やかな雰囲気の中、スリを引っ立る守衛達が何度も振り返り手を振る。


 ブルルル・・・・『 さて、もう一仕事しなきゃ・・・・はぁ、リンゴ食べたい 』

 そんな雰囲気を醸し、ブチは子供達に囲まれて人込みに消えて行った。


 ・・・・


 少女に案内され、ワゴンの側を訪れたニーニャに、容姿の整った女性が可愛らしくお辞儀をする。

 その視線が一瞬遠くを射抜くように見据えたが、表情は全く崩れずにこやかに微笑む。

 

 「 ニーニャ様ですね? ターニャ花店王都出張所のマルガリータです。百合の件ありがとう御座います。『 ここでは耳目がありますので、後ほど使いを出しますので、いつでも発てるご準備下さい 』」


 独特な発声方法なのか、良く通る声が耳元から聞こえた。


 「 ・・・・もう、不思議いっぱいで慣れてきたけど・・・・分ったわ、宜しくお願いします 」

 金額のすり合わせは花屋の言い値、それでも購入金額の2倍程。

 店主はエプロンの様な前掛けから代金を取り出し、ニーニャの手にそっと握らす。


 幾つかの硬貨と小さな紙切れを握らされたのを感触で感じたニーニャも表情を崩さず、また良い花が有ったら買い取ってね!?と適当な話をし、念の為にウインドーショッピングをするふりで、追っ手が無いのを警戒しつつターナーの所へと戻ることにした。 

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