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いつもダンジョンに居ます  作者: ねむねむぴよ
第一部 一章 墓守始めました
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19.4話


 蔓巻く大樽亭の厩に人影が蠢く。

 寝静まった馬達の飼葉に、何かを仕込んだ青いリンゴそっくりの果物を投げ込んでいく。


 無味無臭の毒。

 これを食べれば馬が泡を吹き、下手すると死んでしまうそんな毒。


 それを、見ているブチ毛の八の字眉のブチがつぶらな瞳で彼等を見つめる。

 賊はその視線を感じビクリと固まる。


 『 ・・・・おい、もうかなり遅い時間だよな? なんでこいつ起きてるんだ? 』

 『 ・・・・知らねーよ でも愛嬌のある顔だよな・・・・ 』

 『 それは、俺も思った。 で、そいつ涎垂れてるよな? 『 あぁ果物すきなのか? 』』


 夜にめっぽう強いブチが、ブンブン頭を上下に振る。


 『 こいつ賢いぞ?! 俺たちの話解ってるみたいだ。『 ほんとかよ? 』』

 『 それ、一つやってみろ・・・・ 』


 賊が青いリンゴを飼葉桶に投げ入れる。


 ブルルル・・・・ ブチが首を横に振る。


 目が訴えている。 『 熟れたリンゴの匂いがするのよ? そっちを頂戴?! 』

 どう見てもそう言ってる気がする。


 実際にその通り、夜食代わりに数個のリンゴを懐に隠し持っている。

 視線に気が付き、賊の一人が懐のリンゴに手を添えると、ブチがブンブン頷く。


 『 こいつ、解ってるぞ? 『それは獣だから匂いでわかるんじゃね?』』

 騒がれると面倒なので、赤いリンゴを一つ差し出す。


 ブチの八の字眉毛が更に垂れ下がりウットリとリンゴを眺め、賊の手からリンゴを頂く。


 鼻からゆっくり息を吸いこみ、味わうようにゆっくり食む。

 慌てず、少しずつゆっくり嚥下し、体をブルブル震わせながら最後に一際大きく鼻息を吹き出す。

 ・・・・大きな目がトロンと蕩け、長い眉毛をバチバチさせる。


 『 ・・・・愛嬌がある上に、こいつ可愛いな・・・・昔買ってた馬でもこんな表情しなかったなぁ 』 おもわず、もう一つリンゴを与える。

 男は首を摩りながら、ブチに話す。

 『 お前には悪いが、雇い主が馬を使い物に成らなくしろってんだ。すまんな・・・・お前の飼葉桶にも青りんご入れるが、食べるなよ? 』


 ブチが頷く。 『 もちろんよ、そんな酸っぱそうなリンゴなんか食べないわよ 』

 男はブチの声が聞こえた気がする。


 賊の一人が振り向きながら呟く。

 『 ・・・・なぁ、こいつ連れてっちゃ拙いかな? 』

 『 おいおい、こいつ特徴有り過ぎるから、直ぐに足が付くぞ? 』

 『 でもよぉ、こいつが死んじまうのって嫌じゃないか? 『・・・・お、おう、確かにな 』』

 何だかんだ言いながら、もう一人も自分のリンゴを与えている。 

 『 ・・・・いかんいかん! 親分に殺されるぞ!? さっさと撤収するぞ! 』

 男たちは、後ろ髪引かれ乍ら馬房を離れようとする。


 男達の懐には、まだリンゴが一つずつ残っている。

 ブチの眼がキラリと深夜の馬房で輝いた。


 ・・・・


 飲み屋を営む店も店終いをする時刻、通りには人通りは無く。

 闇を縫うように人影が二つ動いている。


 その人影が立ち止まる。

 その後ろには馬が一頭。


 三馬身程の距離を置き、馬が付いてゆく。

 彼等が止まれば、馬も止る。

 彼等が忍び足で歩けば、馬も真似をし足音を立てないように付き従う。

 『 ・・・・馬房に閂かかってたよな? 『 あぁ、こいつ自分で外しやがったんじゃね? 』』

 『 無茶苦茶賢い馬じゃんか!? 』


 ブチが目をパチパチしながら見つめる。

 『 こいつ、俺らに付いてくるつもりじゃねぇか? 』

 『 でもよ、このまま連れてけないだろ? 』

 『 勝手に付いてくる分はいいんじゃねぇ? 可愛いし・・・・このままついて来たら迷い馬って飼っちまえば良くないか? 『 それいいな! 』』

 賊は意気投合し、そのままアジトに向かう。・・・・ブチを連れたまま。


 ・・・・


 「 で、アレは何なんだ? 馬を潰せって言ったはずだがなぁ?! あ”ぁ? 」

 町の外れ、炭焼き小屋風の賊の隠れ家。

 その前で二人の男がドヤされている。

 厳つい、顔に大きな傷のある男が、彼等に親分と言われている。


 「 それがさぁ親分、いつの間にか勝手に付いて来ちまったんだ! 毒リンゴもちゃんと飼葉桶に入れたんだぜ?! こいつ賢くって喰わねぇんだ!! 」


 ドカァ!


 言い訳をした男を親分が殴り飛ばす。

 横面よこっつらを思いっきり殴られ地面を転がった。

 ブチの眼がムッとした感じに吊り上がる。


 「 ほんとでさぁ・・・・ 」 


 ズガァ!!

 もう一人の男も蹴り飛ばされ、地面に蹲る。

 「 おうおう!偉くなったもんだなぁ?おい! 何時から口答え出来る程偉くなったんだ? あ”ぁ 」


 ブチの眼が三角になっている。

 『 おいしいリンゴくれたいい人を、可愛がってくれたわね?! あぁ~ん? 』

 賊の二人には、そんな声が聞こえた気がした。


 炭焼き小屋から、分不相応な綺麗なローブを着た濁った目の男が出てくる。

 「 何を騒いでおる。 金は払ったんだしっかり仕事しろ! 馬ぐらいで何を騒ぐ?! 」

 これだから盗賊風情は下らん・・・・などと呟き、ブチに向かい窒息の魔法を放とうと詠唱を始める。


 ブチの姿が一瞬ブレる。


 ローブの男の男の首が二回半程回転する。

 彼の首の位置高さにブチの後ろ脚の蹄が有り、ローブの男が崩れ落ちるのと同時にブチが足を戻す。


 「 なんだ?!この馬、只の馬じゃねえぞ?! 」

 親方が、腰のショートソードを抜こうとする。


 ドン!

 剣を抜こうとする腕を、馬の胸が押し留める。


 仰け反る親方。

 ダルメシアン柄に、ビチビチと幾つもの血管が浮き上がり熱を放つ。


 彼の頭の上にある馬の口から「 コォォォ 」と覇気漏れ、据わった眼が見下ろす。


 「 ・・・・く、ぅそぉ!! 」


 バックステップと同時にショートソードを抜き去る。

 彼は視線を外した訳ではない。


 ダルメシアン柄を至近距離で見つめた為か、遠近感おかしい。

 そう感じた親方の視界に地面と夜空が何度も通り過ぎた。

 ブチ柄の馬の尻が彼の最後に見た風景、暗転する世界、彼はもう二度と目覚める事はなかった。



 ・・・・


 賊の二人は見ていた。

 フェイントを掛けるように足音をさせず飛びあがったブチ。

 その跳躍は大きく、ローブの男の側面に降り立ち、流れるような動作の回し蹴りで首を狩る。


 それを見た叫ぶ親方に2歩で迫り蔑むように威圧する馬。

 彼のバックステップと同時に振り向き、先より力の篭った蹴りで親方の首を刎ねた。


 傭兵の経験のある腕っぷしが自慢の親方が、赤子の手を捻るように潰されたのだ。

 ・・・・しかも八の字眉の馬に。


 二人は、ブチをみながらガタガタと震える。


 ブルルル・・・・

 『 リンゴのお礼よ!? まだあるなら嬉しいかも・・・・ 』

 二人にはそう聞こえた。

 其々が、自分の分のリンゴ差し出す。


 ブチは眉を垂れさせ、うっとりとリンゴを食べると、二人の頭を軽くガジガジして夜道をスキップするように帰って行く。

 『 またどこかでねぇ♪ リンゴ美味しかったわ♪ 』振り向き様にパチパチする大きな目がそう言っていた。


 「 ・・・・俺、盗賊なんてやめるわ・・・・ 」

 「 ・・・・あぁ、俺、馬大事にする 」


 尻尾をフリフリ、とても楽し気に去って行く馬の姿が消えるまで二人は立ち尽くしていた。



 ・・・・


 静かな馬房。

 先ほど無理に起こした馬丁に伝えたがパニックに成っている。


 「 馬達が泡を吹いてるが、何か有ったのか? 」

 馬房からブチを引き出しながら、ターナーがブチに話しかけた。

 何故だか、馬房に居るターナーの馬以外が全て泡を吹いている。


 ブチは、『 バカな馬は馬じゃないわ 』とでも言いたげにツンと澄ましている。


 「 まぁ、これで追跡は出来ないから、良いのじゃない? 」

 ニーニャも首を傾げるが、村長から指示書を受けてから不思議なこと続き。

 もう感覚が麻痺してそれ程疑問に感じない。

 「 たぶんブチが、賊を返り討ちにでもしたんじゃない? 」

 ニーニャが正鵠を射た冗談を飛ばすが、ターナーはそうかもしれませんねと真に受けた。


 「 私たちは次の街で武器を納め辺境へと向かいます。予定よりかなり早く着きますが良いですか? 」

 「 えぇ、・・・・それにしても指示書ってこうも簡潔だと何が何だか・・・・ 」


 ” 花屋で鬼百合の花を5本買え。 ユリを欲しがる者に、割符を見せろ! ”

 「 ターニャさんの店なのかしら・・・・ 」

 さすがにニーニャも慣れてきたのか、推理してみる。


 「 どうでしょうか・・・・この時期は鬼百合が沢山咲いてますから、そこら中で売ってますよ? 」

 だけど、それ以上書かれて無いのと指示書を見せようとする彼女をターナーが止める。

 「 私はそれを見ない方が良いのです。 知らなければ、捕まっても正直に話せば済みます。

 知っていれば、見る者が見ればバレてしまいますから・・・・ 」


 ターナーは指示書を見ないように、ニーニャに閉じさせ未明の街道へと馬車を進めるのだった。


 ・・・・


 ニーニャ達が危惧していた追撃は無く。

 昼を少し回った時刻にターナーとの旅の終わりを示す、ゴードヒルの街へと到着した。 

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