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いつもダンジョンに居ます  作者: ねむねむぴよ
第一部 一章 墓守始めました
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19.3話


 パカラ、パカラ・・・・・


 馬が、夜道を歩く。

 背中にはニーニャと僅かな荷物。

 満月でもない夜道は墨を零したように闇が深く、時々聞こえる夜鷹や虎鶫トラツグミの声が不安感を助長させるのだが・・・・


 村長の指示書は、こんな暗がりでは確認しようも無く、ニーニャは厩を出る前に見た内容を頭の中で反芻する。


 ” 馬に任せ好きにさせろ、馬が商隊を勝手に見つける。 そこで割符を見せろ ”


 「 前の指示も酷かったけど、今度のもいい加減よね・・・・でも、多分何とかなるんでしょ? 」


 馬の首を摩ると、気持ちよさそうに鼻を鳴らす。


 この馬、白と黒のブチ毛で顔に掛かる黒が何とも愛嬌のあるパターンを作っている。

 ・・・・白地に、鼻先が飼桶に墨でもはいってたか?と言った感じに黒く染まっていて、眉の上辺りが八の字に位置するように黒い楕円のブチがある。


 性格は温厚でボーっとした感じなのだが、やたらと感が良いようで魔物や獣にまったく遭遇しない。


 パカラ、パカラと眠気を誘う歩調、人の歩く速度より少し早い程度だが、その歩き方は夜の散歩かスキップかといった具合に気分良さそうに歩く。

 強行軍の前の馬に比べ騎手を労わる風もあり、ニーニャが眠気でうつらうつらすると、落ちないように止まったりもする。


 日没から4~5時間、文字通り道草を食いながらそんな調子で歩いておりニーニャも緊張感が抜けて来た。


 馬がもし歌えるなら、絶対に鼻歌を歌ってそうな軽い足取り。

 ニーニャは準備されていた背嚢から食べ物を取り出し馬上で口にする。


 『 何食べてるの? それって美味しい? 私も少し食べていい? 』

 そんな風に、垂れ眉ブチ毛馬が振り返ってニーニャを見る。


 「 ぶふっ!・・・・今のは卑怯よ! 反則!! フフフフ 」

 あまりに情け無さそうな表情に見えるので、食べてた固焼きパンを吹き出すが、どうしても怒る気になれない。


 ブチは、『 あら勿体ない・・・・私貰うわよ?! 』と言わんばかりに、落ちたパンとニーニャを交互に見る。


 「 はいはい、食べていいわよ・・・・で、どうなの? まだまだ掛かるの? 」


 ブルルルルル・・・・ パンをモゴモゴさせながら頭を振る。


 「 え? 人の言葉分ったりするの? 」

 あまりに良い反応をするブチに話しかけると、ブチがニーニャを見ながら耳をパタパタさせる。

 「 ほんと憎めない顔ねぇ、あなた女の子なんでしょ? 性格いいから結構もてるんじゃない? 」

 ニーニャは馬相手にガールズトークを繰り広げ、眠気を晴らそうとするが、あまりにタイミングよく首を振ったり耳をパタパタさせるので、笑いっぱなし・・・・


 深夜の街道に馬の鼻息と女性の笑い声が響く・・・・第三者から見れば、かなり奇妙な状況が続いた。


 「 ハハハハハ・・・・えぇ、それって雄馬の方に気が合ったんじゃない? ん?違うの? 雌じゃない? 雄? 雄が好きな雄馬? えぇ?!そうなの やだぁ ハハハハ 」


 何だか会話が成立しだしているのは、この際気にしない事にし・・・・遠くに焚火の灯がみえてきた。


 「 もしかして、あれ? 」 ブチが耳をパタパタする。


  遠くから声がする。

 「 ・・・・ブチ! お客を連れてきたかい?! ここまで笑い声が聞こえてたよ! 」


 ブチ毛のブチも歩みを早め、不寝番をしていた彼に合流する。

 馬から降りて、男に挨拶をしようとするが・・・・

 「 疲れただろう・・・・って、ぶふっ! その顔は卑怯だぞ!! 水はいるかい? 」

 不寝番の男がブチと楽し気に話し始めニーニャは苦笑するが、向こうから護衛と商人風の男が駆けてくる。


 ・・・・


 「 ニーニャさんでいいかな? 一応割符を見せてくれる? 」

 本当に勝手に歩かせて、商隊と合流できてしまった事に驚きを隠せないニーニャはおろおろとしながら割符を見せる。


 「 うんうん 間違いないみたいだね。 私はターナー、ソルトコートのお嬢様と同じ商人だけどしがない行商人だよ、お会いできて光栄です! 」

 ターナーが感動しながら握手をもとめてくる。

 ニーニャも自己紹介を済ませるがターナーもブチをチラ見しているの思わず零してしまう。

 「 凄い馬ね・・・・もしかしてみんな大好き? 」

 「 もちろんですよ! ブチがいるから店を構えず行商人してるんですから! 」

 皮肉っぽく言ったつもりが、予想の斜め上? いや直球で返されてしまいニーニャも面食らう。


 その後、ブチのおもしろ話が次々と提供され、焚火を囲んだ大話が日の出まで続いてしまった。


 ・・・・


 「 ふぁあぁ・・・・さすがに徹夜だと眠たくなるわね・・・・ 」

 ニーニャが背伸びをしながら、不寝番(結局みんな起きだしてきて交代ではなくなったのだが)が簡単な干し肉を戻したスープと固焼きパンを差し出してくる。


 「 ニーニャさんは我々と王都二つ前の村まで移動する・・・・で良いのですよね? 」

  尋ねてきたターナーも眠い目を擦り乍らパンを頬張る。

 「 ・・・・村長の指示書には詳しく書かれてなくて・・・・ バターナまで移動としか・・・・」

 「 うんうん、それで合ってるっぽいですよ。 私もこんなに早く合流してくると思わなかったからビックリしたんだけど、ブチも頑張ったんだね・・・・あとで果物でもあげようかな。

 そうそう、ブチって甘い果物あげるとデレデレになるんだよ?! 」

 「 え? それ、ちょっと見てみたいかも?・・・・って、そうじゃなくて、今度は片足で立たなくていいの? 」

 ドッペル君の事を思い出し、ターナーに尋ねる。


 「 ん? 片足で立ってどうするの? 」

 「 へ? 変装とかってレベルじゃないけと、変装とか? 」

 「 ・・・・良く解らないけど、変装したいの? 」

 「 いや、そうじゃなくて・・・・ってなんか噛み合っていないわね・・・・ 」


 ターナーも乾いた笑いを零す。


 「 で、指示書に有るのは今回の費用として、ゴダール金貨を一枚換金・・・・って有るんだけど? 」

 ニーニャが訝しげにターナーを見る。


 ターナーの表情が固くなる。

 「 ・・・・一応、ここに居るみんなは古い付き合いばかりだけど、大きな声ではちょっと・・・・こちらへ来て頂けますか? 」

 ニーニャを幌の付いた馬車へと誘う。

 驚かされ続けて” どうとでも成れ! ”的な状況のニーニャも躊躇なく付いていく。


 「 ・・・・うわぁ・・・・武器ばっかり。 」

 馬車の中は武器色々、立派な長剣に短剣、斧に盾・・・・槍が薪のように積んである馬車をみて驚く。

 「 近く大規模に軍が動きそうなんだ・・・・ニーニャさんは知ってるよね? 」

 「 えぇもちろん、どこの国と戦うかは知らないけど・・・・ 」

 「 ・・・・そうですか、念の為に伝えて置きますね。 私の見立てだと、多分嘆きの村のダンジョン攻略準備と思います 」

 「 ・・・・そうなるのね・・・・ 」

 ニーニャは蟀谷を手で押さえ、最悪のシナリオが進行していることに頭痛を感じる。


 「 ミオールさんやターニャさんには色々助けて頂いたので、私の方でも攪乱を画策してみようかと思いまして・・・そこで、その金貨の話になるんですが・・・・ 」

 馬車の床板を捲り、平たいトラ箱の蓋を開けて見せる。

 「 ここに豆金貨で30000枚あります。 後払いで良ければ精霊銀貨もご用意できます、ですからゴダール金貨を可能なだけ譲って頂けませんか? 」


 ニーニャが面食らう。

 「 ・・・・村長はどこまで絵を描いてるのかしら、私ほとんど乗せられてるだけじゃない・・・・ 」

 頭を抱えるニーニャをターナーが覗きこむ。


 この国の流通貨幣は、銅貨・銀貨・豆金貨 商取引や蓄財向けの金貨・大金貨・精霊銀貨・各種宝石類と様々で、大きさ比重共に統一性があまりない。

 こと銀貨・豆金貨に至っては悪貨も多く、後払いはよほどの事や王侯貴族の取引でない限り行わない。


 ニーニャはターナーの目を見る。

 幼い頃から磨いてきた観察眼。特に人を見る目には自信があった・・・・のだが、先の御者の件で少し揺らいでいる。

 「 ・・・・はぁ・・・・いいわよ、村長の紹介ですもの、10枚で良ければ預けるわ 」


 精霊銀が混じる純度が高い古代王朝のゴダール金貨は精巧な造りでもあり骨董的価値も高い。

 今では入手も困難で、貴族のステータスとしてネックレスやインテリアとして、またその枚数が家の財力を示す指標となる。

 新たに出土した金貨があれば、何としてても手に入れたい貴族がゴマンといるのだ。


 「 ありがとうございます。 ・・・・しかし・・・・10枚ですか、手持ちの貨幣では賄いきれませんが・・・・如何しましょう? 」

 ターナーが申し訳なさそうに、上目使いでニーニャを見る。

 「 後払いで良いわ、精霊銀貨で100枚ってところでどうかしら? 」


 ターナーが少し考える。


 宿では銅貨4~5枚で4品付の定食が食べられる。

 質にもよるのだが銅貨10枚が銀貨1枚、銀貨10枚相当で豆金貨、豆金貨10枚で金貨 金貨10枚で大金貨が大まかな相場だ。

 そして精霊銀貨はミスリルの多く含まれた貨幣で、大金貨100枚相当。ただ流通量が少なく、ゴダール金貨と同様に蓄財用として用いられることが多い貨幣なのだ。


 「 ・・・・わかりました。 後払いなら取引を精霊銀貨幣を優先すれば賄えるでしょう 」


 ターナーも厳しい駆け引きが想定される取引に、表情が固くなる。 

 そんなターナーとニーニャは握手を交わした。


 ・・・・


 何事もなく、商隊の馬車が王都へ向かう。

 ブチも船を漕ぐニーニャの乗る馬車を引きその日は野営、次の日は何事もなく日のあるうちに目的の町へ到着した。


 王都より100k程離れたこの町クリーグスでは、古くから交易で栄え、通りは人混みが絶えず、そのの喧騒が華やいだ雰囲気を醸していた。


 ターナー達が定宿にしている旅籠はたご” 蔓巻く大樽亭 ”に入ると、女性も数名いるキャラバンなのにターナー達は大部屋を貸切、ニーニャは一人部屋へと通された。

 程なくして、夕食の準備が整ったと給仕の女性が各部屋を回り、各部屋の宿泊客が食堂へと移動し始めた。

 ターナー達は毎度の事と護衛の半分が荷物番を受け持ち、女給に食事の手配を頼んでいる。

商人が利用する老舗の旅籠であっても、部屋に金目の物放置するなど論外だ。 残りは他の交易商人と情報交換を目的に一階の食堂へと向いだした。

 ターナーはニーニャを誘い食堂に入るが、この宿の名物料理を自慢げにニーニャに語って聞かせ、周りの話を聞いている風がなく、ニーニャが呆れ顔で出された食事に匙を付けた。


 ニーニャの周りでは、夕食にはまだ少し早い時間だが、旅で疲れた人達が常温のエールを煽り与太話を繰り広げている。


 「 でさぁ・・・・何年か前に流行った病気があったろ? あれと似たのがまた出始めたって知ってるか? 「あぁ俺も聞いたよ、なんでも帝都が酷い有様だって、けどあの薬は眉唾だろ?」それがさ・・・」


 「 花畑の” ウサギの尻尾 ”のエリザベスがさぁ・・・・明日は朝から来てくれって「そりゃリップサービスだろ?」いやいや・・・・」


 「 ソルトコート商会に喧嘩を売った貴族がいるらしいぞ?!なんでも博士の研究が自分の・・・・ 」


 「 ・・・・何とかの湖にある村で結構な枚数のゴダール金貨が出土したってな?「そうそう、俺も掘りに行こうかって真剣に考えたよ」なんでも侯爵幾つかが手をまわして・・・・ 」


 「 今年の麦は豊作らしいが誰かが買い占めてるのか相場が下がらん、そちらさんの領地では動きは無いかい?「そうなのか? 俺のとこは不作らしくて、店のある・・・・」 」


 雑然とした食堂の中でも、気になる内容の会話が幾つも耳に入る。


 そして、ニーニャが思わず固まる内容の会話が耳に飛び込んできた。

 目元を隠して彼らの姿を確認する。

 体格の良い男と恰幅の良い男が周りを気にせずに内輪ネタを話しているが、気になる名が上がった。

 ニーニャは彼らに見覚えがないが、そっと耳をそばたてる。


 「 何でも、ザニードのとこがゴダール金貨を大量に手に入れる伝手を手に入れたって吹聴しまくってるらしいぞ 」

 「 っけ、眉唾だろ? そんな与太信じてっと足元掬われるぞ? 」

 「 それがよぉ、その話に貴族が絡んだって聞いてよ? あながち嘘とは言い切れんのじゃないかってな? どう思う? 」

 「 ・・・・俺はやめとくわ、どうせあれだろ? 私兵かなんか動かしてるってパターンだろ? 」

 「 お?! おぉ・・・・まぁそうなんだけどさぁ 」

 「 それって、正規の手順じゃなくてよ、ぶっ殺してでも巻き上げるパターンだろ? まっとうな商売人が手を出す話じゃないって思うけどなぁ 」

 「 ってことは、ザニードの奴は危ない橋を渡ってるって事か・・・・そうなると魔法大学もヤバいのか? 」

 「 王国魔法アカデミーがどうしたんだ? 」

 「 ん? あぁこの前さ、ザニードが魔法大学の御用商人に成るって話を酔った本人から聞いたんだよ。これってグルって感じじゃね? 」

 中年の恰幅の良い商人が、やりきれないといった風に一気にエールを飲み干す。

 「 あぁ、そうだな王国もいよいよヤバい感じになって来たな・・・・ザニードと親しいそうだからお前も気を付けろよ? お前と酒を飲むのが今日で最後なんて湿っぽいじゃねーか 」

 口角が少し上がってる。冗談の様だが、言われた体格のいい男の方は青い顔をしている。


 「 おいおいおい! 縁起でもない・・・・かぁ、酔いが醒めちまった。飲み直しだ!お前のおごりだからな!? 」

 「 げぇ?! ハハハハ まぁ仕方ないな ハハハハ 」


 ・・・・


 ターナーが恍けた眼差しで、呟く。

 『 ニーニャさん 挙動が不審ですよ? さっきの話の関係者だってバレバレです・・・・

 拙いですね・・・・3、4・・・もう一人あなたを見てます 』


 ニーニャも開き直り、微笑みながら呟く。

 『 結構名前が知れてるから、顔見知りかもしれなくてよ? 』


 ターナーはワインの色を眺める素振りでグラスに映る人物を見る。

 『 滅茶苦茶殺気を感じますよ、黒ですねあれは・・・・襲撃失敗の情報はまだここまで届いていないはずですが、さっきの魔法大学絡みでしょうかね。 早いとこ発ちましょう 』


 ニーニャはターナーの勧める焼き立てパンを上品に食べながら、微笑みを崩さずに頷いた。

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