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いつもダンジョンに居ます  作者: ねむねむぴよ
第一部 一章 墓守始めました
33/256

19.2話


 蹄が地を削る。 くつわを咥えた口元から泡を噴き、馬体から湯気が立ち上る。


 「 頑張って! もう少しで村に付くから・・・・ 」

 手綱を握るニーニャの手に力が入る。


 村長から聞いた言葉 ” 襲撃 ” の二文字より ” 悪い筋から御者を雇った ”が頭に木霊する。

 そう、取引先より手配された人物が寝首を掻こうとしているのだ。


 黒くモヤモヤとしたものが心に渦巻くニーニャの頭の中で、犯人捜しをする。

 王都の御用商人、その紹介先の鑑定士、紹介された宿の主人・・・・誰もが疑わしい。


 『 少なくとも御用商人とその配下は真っ黒、その依頼を受けた護衛と御者も黒・・・・

 まだ見ぬ鑑定士は灰色、手配先の宿屋は商人の定宿だから限りなく黒・・・・』


 遅めの朝に嘆きの村を出発、旅程にて50km何度か小休止を入れたが昼を少し回った頃に最初の村が見えてきた。


 村の入り口に差し掛かり、ニーニャは無理をさせた馬を労う様に降りた。


 「 ごめんね、無理させて・・・・指示書になるべく早く訪れる様にって書かれてて 」

 馬に対して思わず言い訳を述べる。

 ほぼ馬に乗りっぱなしでお尻がゴワゴワに強張っており、ちょこちょことした足取りで村に入った。


 書類に書かれた村の名は、モダ。

 別紙の地図でも赤く点が打たれたのみの街道から少し離れた辺鄙な村。

 ニーニャは村長のメモを見る。


 ” 鍛冶屋のベドを訪ねよ、そこで割符を見せろ ” それ以外に何も書かれていない。


 他に頼るものもなく、馬を引きながらその足で、村に唯一ある鍛冶屋に向かう。

 小さな村で子供に尋ねても、野良鍛冶のベドの家は直ぐに分かった。 


 「 もっときちんと書いててもいいのに・・・・ 」


 村長の指示書は簡潔過ぎて、ニーニャも不安になる。

 念の為、村の子供に銅貨を掴ませベドの家に案内してもらった。


 ベドの家は町はずれの林のほとりにあった。


 ・・・・

 

 「 ごめんください! ベドさんはご在宅ですか? 」

 「 応! 何だね嬢ちゃん、馬の蹄鉄でも外れたかい? 」

 小太りの中年男性が、作業場から顔を出し、ニーニャを値踏みする。


 「 えっと、これを・・・・」 ニーニャは懐から丁寧に布で包んだ割符を見せた。


 ベドは一瞬険しい表情を見せるが、特段なにも誰何せずに顎をしゃくる。

 「 ・・・・ミオールん所の使いか・・・・ほれ家の裏にある厩で連れが待ってる、行ってやんな!」


 ニーニャは割符をぺこりと頭を下げ、馬を引いて厩に向かった。


 ・・・・


 家の裏には、鍛冶屋にしては大きな厩があった。

 そういえば鍛冶屋の家にしては大きく、部屋数もあるように見える。

 「 ・・・・宿も営んでるのかしら・・・・ 」


 馬を連れて厩に着くと、馬房の掃除をしている若そうな男性がいた。


 「 あのぉ・・・・ 」 ニーニャが恐る恐る声を掛ける。

 「 ?? 何か御用ですか? お嬢様。 宿にお泊りでしたらベド親方にお尋ねください 」

 敷き藁を掻き集める作業の手を止め、慇懃いんぎんにお辞儀する。


 「 いや、ベドさんに連れが待っているからと・・・・こちらに? 」

 ニーニャは訳が分からず男性の表情を窺う。

 「 あぁ、なるほど! でしたらこちらの部屋に・・・・ 」

 男は馬を預かり馬房に連れて行き積んである荷物を背負うと、宿の丁稚のように丁寧な所作で厩舎小屋を示しニーニャを案内する。


 薄暗い部屋には、簡易なベットと少しの荷物があるのみ・・・・人影は無い。


 バタン!


 ニーニャの後ろで戸が閉まる。


 「 さて、時間がねェ さっさと服を脱げ! 」

 「 えぇ?! 」

 若い男の声だったはずが、壮年の男性の声のように皺枯れている。


 男はいそいそと服を脱ぎ始める。

 そしてニーニャの荷物から、衣服を取り出す・・・・女性物の意匠とウイッグ・・・・


 「 ほら早くしろ、こっちも帝国からここにきてトンボ返りしなけりゃならん! 」

 「 えっ? えっと何を?! 」 男はパニックに成りそうなニーニャに鋭い視線を向ける。

 「 服を脱げ! 何度も言わせるな!! 」

 「 は、はい! 」


 訳も解らず、ニーニャは男に背を向け着ている物を脱ぎ始た。

 外套、ベルト、上着にズボン・・・・シャツに手を掛け、男を振り返る。


 若い男・・・・腕組みをした二十歳前に見える線の細い男性が、パンツだけでニーニャを睨んでいる。


 「 ひぃっ・・・・ 」 一瞬襲われるんじゃないかと、身を小さくする。

 「 そういうのは要らん、全裸になる必要もない。 先ずは片足で立て! 」


 「 はい? 」

 「 ・・・・お前はあほか? 何度も言わせるな! 」

 「 は・・・はい! 」

 男は、ニーニャに意味不明な挙動を取らせる。


 「 そのまま何度かジャンプしろ! 」

 「 はい 」

 ここまで来てはニーニャも、その指示に従う。


 「 反対の足でも 同じように・・・・そのまま足踏み・・・・物を投げるように腕を振り回せ、反対の手もだ!」


 前屈したり仰け反ったり、歩いたり走ったりと部屋の中で変な運動をさせられたニーニャは心労も祟りグッタリする。

 「 あぁ、大体解った・・・・良い線でいけるだろう 」

 「 ??? 何が良い線なのですか? 」


 「 あ”ぁ? 見てれば解る。 その間にこの文章を読め! 」

 「 本当に訳が分からないだけど? これ何の意味があるの? 」

 何の脈略もない文章が延々綴られている革用紙の束。


 「 ん? お前は一度、村で見てるんじゃないのか? 」

 男はそう言うと少し不思議そうにするが、そんな事どうでも良いと首を振り自分自身の左肩を掴んだ。


 ゴリゴリゴクン! 肩から尋常じゃない音を響かせる。

 次は右の肩でも・・・・


 股裂きのように足を開き、曲がってはいけない方角へ足を曲げて行く。

 ゴクン! ゴリゴリゴリ!!!ゴクン!

 男の額から脂汗が滴り落ちる。声には出さないがかなり痛いようだ。


 そして、立ち上がる男の姿は・・・・

 「 え?! えぇ?!! 」 ニーニャが混乱する。


 先ほどまで居た肩幅の広い若い男が、なで肩の華奢な女性姿に成っている。


 「 あうあう、いういう・・・・あ”い”う”え”お”・・・・いいから早く続きを読みなさい! 」

 声が若い女性の声に変わってゆく。


 「 あわわ・・・わかったは・・・・ 私は酸っぱいピクルスを、親の皿にうつし・・・・」


 「 わぁわぁわ・・・私は、私は・・・ 」

 男はウイッグを身に付けながら 発声練習をする。

 そして、片足で軽く飛び跳ねながら、体を揺らし重心を調整し、包みから取り出した下着用の胸当てを身に付ける。


 「 買い物の代金を売掛ではらうのに、ベスタのブラトニーに・・・・・って、えぇ?! 」


 既に自分の姿と、殆ど同じ人物が立っている。

 「 本当はもっと長く声を聴かないとだめなのに、最小限に絞ったんだから!

 早く読んでくれない? 」

 自分と瓜二つの人物にそっくりな声で叱られる、とても奇妙な経験をしながら読み進む。


 偽ニーニャは、再度本物の胸をしげしげ眺め、胸の偽乳から綿を抜く。

 「 ・・・し、失礼な! 」その様子に本物が思わず反応するが、偽ニーニャはその反応の真似をする。

 「 ・・・し、失礼な! 」・・・・時間差で鏡に映ったような反応。


 「 ・・・・凄い、完璧じゃない 」 もう感心するしかない。

 「 そう? まぁ確かに、女性として2年程女子寮で過ごしたけどばれなかったわね・・・・ 」

 本物とそっくりな表情と態度をトレースする偽ニーニャ。


 ニーニャは、文章を最後まで読み終えた。

 二人並ぶと双子の姉妹に見えるし、誰もがそう思うだろう。その違いは元より背の高かった偽ニーニャの方が拳二つ分身長が高い位。並ばなければまず判らない誤差だ。


 「 じゃ、荷物を準備して私はあなたの馬で帝国に向かうわね。 あなたは日没まで待って私の馬、えっと頭に白い大きなブチの在るのね、それに乗って次の村へ向かうといいわ。 荷物はそこにあるのが全てだから、次の村まで十分に持つはずよ? あと、解ってるでしょうけど村の人に顔を見られてはだめよ? 」


 ショックの余りニーニャの頭は既に煮えている。

 何時ものニーニャなら的確に本質を質問しそうだが、すっ飛んだ事を口走る。

 「 え? あ、あの・・・・貴方の名前を聞いていい? 」

 「 ん? 私はニーニャよ? 」

 『 うわぁ、私ってこんな顔で応対してるんだ・・・・ 』勝手に動く自分の姿を見て急に恥ずかしくなる。

 「 ニーニャさん、次に急ぎなさい。

 そろそろ馬車が襲われる場所に差し掛かっている・・・・はず? だから、私が昼間に姿を見せて色々引き付けるから、安心していいけど。 王都での時間は少ないでしょ? 時間は作んなきゃね? 」

 「 ・・・・あぁぁぁぁぁああぁぁぁ!!! 気持ち悪い!!! 私って確かにそんな言い方するかもしれないけど、私より私っぽいってなんなの?! 」

 ニーニャの両腕にぶわぁっと鳥肌が沸き立つ。


 そんな本物にウインクしながら戸から出ていく偽物。

 すれ違い様にニーニャに呟く。

 「 ドッペルゲンガー・・・・私を見たら死ぬと言われてる。気を付けなさいニーニャ 」

 ククククと笑いながら、偽物はニーニャが持ってきた荷物の殆どを抱え馬房へと去って行った。


 「 ・・・・ え、縁起でもない事言わないでよ! た、只でさえ幽霊とか呪われたチョメチョメとかテンコ盛りなんだから!!! 」


 今度は悪寒で鳥肌が立つのを、ニーニャは自分で体を摩り紛らわせるしか出来なかった。


 ・・・・


 小屋の中で早めの夕食を取る。

 荷物は来た時よりも減っていたが、それでも大切な売り物と一日分の飲み水に食糧、それにブランケットを含めるとソコソコの量になる。特に国宝級のお宝はズシリと重い箱に収まっており、小さな酒樽に収められて偽装されているので馬に乗せるのに苦労しそうだ。


 日が落ちたのを確認し馬房へ向かうとブチ馬には既に蔵が乗せられており、そこに一輪の野花が鞍に活けてある。

 よく見ると、手紙も付いている。


 『 お見送りできなくてごめんなさいね。

 書く場所が少ないから端的にゆきます。

 あなたの馬車が襲われました。

 身代わりの子はしっかり回収したから心配しなくても大丈夫。

 貴方を嵌めた御者と護衛は押さえた。

 忍んでいる間者も根こそぎドッペル君が帝都に誘導中。

 王都に罠あり、割符以外信じるな。


 P.s ドッペル君が失礼な事してたら教えてね、フフフフフ

        花売りのターニャより 』


 「 ・・・・嘆きの村って、ちょっとおかしくない? いやおかしいってのは違うわよね。

 異様? 奇異? 奇妙? 不思議!そう不思議なのよ、なんなのやたら優秀な村民って・・・・

 しかもしれっとターニャさん私の居場所を知ってるし、怖いわよ! 」


 ニーニャは、どこかで聞いているかもしれない伝令役に何気なく毒を吐いて、鞍に樽を何とか積み込んだ。

  

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