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いつもダンジョンに居ます  作者: ねむねむぴよ
第一部 一章 墓守始めました
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18話

 セルジオが、朝起きて顔を洗い、テーブルの上を見て溜息をつく。


 幽霊が置いて行く財宝がキラキラと朝日を浴びて輝いているのだ。

 ジード等には考えにくい事だが、セルジオは遺品の扱いに頭を抱えていた。


 セルジオはそれらが当然、お金に成る事は承知している。

 お金にも困っている。

 だから、作物と家畜を育てて売り、少しでもお金を返せたらなんて考えていた。


 しかし、彼のずれている所は『その全ての己が手で稼いだ金で返さなければならない』と頑なに思っている所だった。


 彼にしてみれば、もらった物ではあるが、どこか自分の物と思えずにいる節があり、置いて行った幽霊の墓にまた埋め戻そうかと、随分迷っていたのだ。


 「セルジオ!いるかぁ!!」

 戸口でジードの声がする。


 「あぁ! 今日はまた随分早いな」

 「あぁ、今日は隣町の工事に人手が足りないって言うんで手伝いに行くことに成ったんだが、その前にと思ってな」

 いつものように包みを投げて寄こす。

 「あ、いつもすまん」

 「気にすんな、たいした物じゃないしなぁ、それ、また遺品か?」


 「・・・・あぁ」少し顔を曇らすセルジオ。

 「なんか、あったのか?」心配そうにジードがのぞき込む。


 「これ、また埋め戻しちゃダメかな・・・・」

 「な! 勿体ない。要らないなら俺が貰ってもいいぞ・・・って、遺品だったな。

 気持ちのいい物じゃないか・・・・」ジードが彼の物差しでセルジオの気持ちを推し量る。


 「いや、兵隊さん達の気持ちは嬉しくおもってるんだ・・・・ただ・・・・」

 「ただ?」

 「たぶん色々思い入れのあった品物だと思うんだ・・・・」

 「・・・・だから墓に埋め戻す?」

 「・・・・」頷くセルジオ。


 「お前って、本当に人が良いよなぁ・・・・食う物に困ってる奴が言う事じゃないぞ?」

 「・・・・それも、解ってるつもりなんだが・・・・」


 頭を掻きながらジードが唸る。

 「うぅ~ん、解らんが、わかった! 亀の甲より年の功!村長のとこに行くぞ!」


 ジードは食料を包んだ包みを空け、セルジオにお宝を包ませて二人坂を下り村長の屋敷に向かった。


 ・・・・


 村長の家の前、小さな子が朝から植込みの地面をスコップでほじくり返している。

 「よう!リリル、朝からダンゴ虫か?」

 「うん!お部屋に持って帰ったの逃げちゃったから、また探してるの!

 あ!おはようございます!セルジオ兄ちゃんとジード」

 「呼び捨てかよ! しかもついで?」

  少し凹むジードに、『にへへ♪』と笑う幼女。


 「あ、村長いる? 俺用事があるからさぁ、セルジオ案内してくれるかな?」

 「いいよ!」

 見つけたダンゴ虫を急いでポケットに収め、スカートで手を拭うとセルジオの手をぎゅっと握る。


 「じゃぁな! セルジオ、ちゃんと自分の考えを言うんだぞ! リリルよろしくな!」

 「うん! えっと、がってんしょうち!!にへへ♪」

 「くわぁ、だれが教えたんだか・・・・じゃ、行ってくる!」

 ジードが振り返らず走って行く。


 「えっとね、セルジオ兄ちゃん、こっちだよ! あ、兄ちゃんもダンゴ虫いる?」

 キラキラした目でダンゴ虫教の布教を行おうとするリリルを宥めながら、セルジオは屋敷に上がった。


 ・・・・


 「で、用向きはなんだ?」

 村長宅の執務室はそれ程広くはないが、いろんな書籍が収められた本棚がいくつも並び、いかにもと言った佇まいを醸していた。

 「はい、あ、あの遺品の事なんですが・・・・」

 セルジオはジードと話した事を掻い摘んで説明した。


 「なる程の。 ジードが人が好過ぎると言うのも頷ける」

 苦笑いをする村長に、セルジオも何を言ったらいいのか戸惑ってしまう。

 「わしの考えを言おう。

 お前に知らせてない事だが、村人のなかにも守銭奴が居ってな、お前の見つけたお宝を取り上げろと煩く言うてくるアホも居るんじゃ。

 借金の形に抑えろとな。

 ちゃんと返済しとるというのに、情のない話じゃ」

 村長が少し怒った風に零す。


 「ニーニャと言う商人が居たろう、あれに取り入りお前の物を更に巻き上げようとするんじゃ。

 わしはそれが許せんでの・・・・

 だか、このままじゃお前を他所に、自分らで墓を建てるとまで言う輩も次々に出てきての」


 そう言って、手紙の束を指さす。

 「その嘆願書じゃ、今の所わしが握っておる」


 いろいろ思うところがあるのか、村長の口調が重い。


 「誰かに許可を与えれば、他のものが不平不満を言うじゃろう。

 皆に埋葬を許可すれば、取り合いも起きよう。

 血の気の多いやつになると、刃傷沙汰にんじょうざたにもなりかねんでな」

 そう言うとまた苦い顔をする。

 「そこに来て、お前がそんな事言う。村の奴らにお前の爪の垢でも飲ませたいもんじゃて」


 コンコン


 賄いの中年女性が、お茶をもってくる。

 「お前は結局どうしたい?」

 村長はお茶を受け取り、一口すすると尋ねた。


 「あの、良く解らないのですが、村のみんなは俺の借金のせいで困っているのですか?」

 「は? ・・・ハハハハハハ、本当にお前と言う奴はなぁ」


 笑うと涙が出るのか、村長は笑い泣きしながら、そんなこと有るはずがなかろうと笑い声を上げる。


 そして、ひとしきり笑った後、ぽつりと零す。


 「わしも村長という役回りであるから、堪えては居るが奴らの言い分には腹を据えかねて居る。

 かといって、一人では生きて行けんと言うのもわかるか? セルジオ」

 「はい、十分に」

 セルジオが思い浮かべるのはジードやその両親、村長やその使用人の顔が浮かぶ。

 『そう考えると俺ってみんなに助けられてるなぁ』そうしみじみ思う。


 「癪だと思うが、どうだ村の為に少し金を回さんか?」

 「どういう言う事ですか?」

 「うむ、村の上水の補修や飢饉の為の蓄えと言った、村の連中が渋って金を出さん物にお前が扶助するといった事をするんじゃ」

 「?俺、金なんかないですよ?」

 「かぁ、お前の所の作物や家畜じゃ回らんわい!

 今後売れるであろう売上の一部を回してはどうか?と問うておる。」


 「・・・・良く解らないのですが、それで何とかなるのですか?」

 「なんとか成るレベルではないじゃろうの・・・・・」

 村長は、セルジオが見つけた貴金属は全てがマジックアイテムで、ニーニャが悲鳴を上げていた事を話す。


 「では、色々面倒をおかけしますが、お任せしてもよいですか?」

 「うむ、任された! おっと、全てお前の名前で行うがよいか?」

 「はい、借金を直ぐに返せないのですから、何かあれば俺のせいにしてください」


 「かぁ! セルジオ前は物分かりがいいのか悪いのかわからんのぉ、ハハハハハ!

 まぁ悪い事にはならんじゃろう。 わしに任せとけ!」


 機嫌良く話す村長に、間髪入れず新たな遺物を入れた袋を見せた。


 「じゃぁこれも・・・・」

 「なんじゃ?」


 包みを空けて、お宝をみせる。


 「これはなんと・・・・おまえの言っていた幽霊の置き土産か?」

 「はい」

 「儂の家の蔵でも、ちとおっかないの・・・・」

 そう言うと、幾つかの資料を取り出し、名簿を捲る。


 「うむ、少し値が張るが仕方なかろう。

 そのお宝は、わしが預かった事にするが、今日は持って帰るがいい。

 しばらくは村には来るな? お前の家もそうさな・・・・(護衛の者の賃金は)後払いで良い。

 売れたら代金から支払うとしよう。よいかの?」


 「なんだか、良くわかりませんが上手く行くのならお任せします」

 セルジオは肩の荷が下りた気分で、全てを村長にまかせた。


 「収支はつけておく、知りたかったらジードにでも言えば使い位はしてくれよう」

 「・・・・見せられても字が読めませんから要らないです」

 「・・・・そうじゃったの」少し悲しい顔をする村長。


 「まぁ、儂をニーニャが、ニーニャを儂が見ておく、それでよかろう。

 そろそろ、儂もあちこち見て回らんと成らんでなぁ」


 そう言うと村長は席を立った。


 「朝から突然すみませんでした」

 「かまわん、かまわん。 また何かあればジードでも寄こすと良い。では、またの!」



 ・・・・・・・・


 セルジオはもってきた包みを、再び食料と合わせ包んだ荷として渡され、また来た道を戻っていく。

 『村長は頼りになる(面倒な事を全部やっていくれる)人だ』そう思うセルジオだった。


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