表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いつもダンジョンに居ます  作者: ねむねむぴよ
第一部 一章 墓守始めました
3/256

2話

3話~4話統合加筆


  「セルジオ、どこか痛いのか?」

 膝を抱えて蹲るセルジオを、心配そうにジードが覗き込む。


 ジードは、セルジオが落ち着くまでとしばらく見つめて居たが、なかなか顔を上げない彼の傍らに腰掛け語り始めた。


 牧歌的な風景が眼前に広がる。

 耕された畑の土の匂い、気持ちの良い風が頬を撫でる。


 ジードは込み上げ、絞り出すような声で口を開く。


 「あのさ、お前が一人になって、たいした物も食べずに居るのを知ってても・・・・

 俺、何にも出来なくってさ、すごく情けなかったんだ。


 お前の両親が死んだ時もさ・・・・

 お前、全然泣かなくてさ、「 墓穴掘らないと 」とかってその鋤もって塚作ったろ?


 俺さ、追っかけて、お前を手伝おうとしてたんだぜ。


 けど、流行り病だから手伝うなって親父や親戚に言われて・・・・

 ハッハッハ・・・・簀巻きにされて、一晩家に閉じ込められてさ・・・・


 それでも手伝えば良かったって、今でも思っててさ・・・・

 今更だけど・・・・いや何でもない」


 ジードは何かを逡巡し言葉を飲み込んだ。

 そして再び口を開く。


 「時々食べ物持ってきても、お前のいつもと替わらない態度にさ・・・・


 無理してるんじゃないかって、凄く心配してたんだ。


 けど、お前のガキの頃と同じ泣き顔みれて、少し安心したよ」


 ジードが背中を摩りながらセルジオを見ている。


 「あ、あぁ・・・・落ち着いた、ありがとう」

 ジードの独白を聞き、セルジオは漸く顔を上げた。


 「いいって、お前とは幼馴染だからさ、お前がどう思おうと、お前は俺のダチさ・・・・」

 ジードは少し悲しげにセルジオの方を向かずに彼の背中を摩っている。


 『あぁ・・・・ジードは何も悪くないのに、俺に負い目を感じてたのか・・・・』

 セルジオは石鋤を持つと、立ち上がった。


 「ありがとな、ジード。お前みたいな友達が居てくれて、俺って恵まれてるな」

 「・・・・良いって事よ・・・・」

 そう言って、そっぽを向いたジードが、上を向いたまま鼻を啜った。



 ・・・・・・・・ 


 家へと戻る道すがら、ジードに話そうか逡巡していた。


 『こいつを巻き込むの嫌だな・・・・』


 そんな気持ちを他所に、ジードが気付いてしまう。

 「お前の懐のそれ、どうした?」


 懐から金色の腕輪の様な物が、顔を出している。


 「あぁ・・・・さっき拾った」

 「少し見ていいか?」

 「あぁ」

 瀟洒な装飾が施され、見た事もない文字がビッシリ刻まれた幅の狭い腕輪には幾つもの宝石が埋め込まれている。


 「お、おいこれで借金返せるんじゃないか?」

 「でも、これは俺のじゃない」

 「そんな事言ってる場合じゃないだろ? おまえ今日食う物もないんだろ?」


 「でも・・・・盗った物で飯を食っても嬉しくない」

 セルジオは空腹感がないのに驚きながら、改めてジードに言う。


 「・・・・そうか? いや、一応行商人に目利きも居るだろうから見せるだけ見せてみろよ」


 「因みに拾ったのはそれだけか?」

 ジードは懐の膨らみをみながら問いかける。


 「いや、これも」

 懐から革袋と思って拾った物を取り出す。


 「あっ・・・・」

 取り出したものは、元革袋だった、といったものだった。


 ボロボロの皮と紐の様な物が、金属に噛みこみ塊になっている。


 「そこのは、銀貨か?」

 塊の中には、銅と銀と数枚の金貨の様な顔を覗かせている。


 ベリリ・・・・


 手前の緑色に変色した銅貨を剥ぎ取る。

 他の硬貨は固着して外れない。


 「見ない硬貨だな・・・・腕輪と似たような文字が書いてある」


 ジードが渡された銅貨を透かし眺める。


 硬貨の見えていた部分は古い銅貨特有のりょくが吹き、奥の方が銅貨の様な名残を見せているが、輝き方は銅貨にしては随分明るく光っている。


 「・・・・これ、銅貨だよな・・・・銅貨ならいいだろう? これ行商人に見せてみようぜ?


 ただの銅貨だぜ?

 たかが知れてるんだから、無くしても俺が銅貨一枚ぐらい何とかしてやるよ」


 ジードはセルジオの背を押し、村の広場へ行くぞとせっつく。

 「・・・・わかった、銅貨位なら」


 セルジオは再び塊を丁寧に懐に収め、銅貨を握り締めジードに付いて行った。


 昼を回ったのか、日差しが随分と強くなっている。

 弾むような足取りのジードと対照的に、セルジオの歩みは重い。


 勾配を縫うような村への坂道を下り、林を抜けると視界が開けた。


 村の広場には、数台の馬車が荷物を広げ、客寄きゃくよせの声が響く。

 この村に、こんなに人が居たのかと思うほど人々が集い華やいだ雰囲気だ。


 ジードがセルジオの前を、露払いの様に歩いている。

 すれ違う村人がセルジオを見てヒソヒソと何かを話しているが、ジードは路傍の石である様に無視を決め込んでいた。

 幾人もの村人とセルジオはすれ違うが、バツが悪いと言わんばかりに人々は目を逸らし見なかったことにする。


 流行り病の為、彼と彼の両親に手を差し伸べなかった集落の面々。

 セルジオは別に気にしていなかったが、彼等は後ろめたい気持ちからここしばらく彼とは疎遠になっていた。


 「セルジオ、あそこだ!」


 村の中心、轍で凸凹にひずんだ広場の一角に大小様々な木箱が並べられ、カウンターの様に設えられている。

 その後ろ天幕に覆われた仮設店舗には、布の掛けられた段積の木箱を商品棚に見たて、様々な日用雑貨などが並べられていた。


 ジードが青年の手を引いて行商人の所へ急ぐ。


 「これは都から持ってきた上物ですよ、よかったら買って行ってください!」

 反物を掲げ、声を張り上げる衣類商人。

 「その髪飾り、奥さんにいかがですか?! 安くしますよ!!」

 小間物雑貨を扱う恰幅の良い女性の売り子。


 荷馬車の前に棚を並べながら、客引きをする数名の行商人とは別に、慌ただしく指図をしながら荷卸しをする初老の男に、ジードが声を掛けた。


 「あの、目利きをお願いできますか?」


 厳しい目つきが急に接客用に切り替わる初老の商人。

 「ん? 鑑定かい? 鑑定書は有料だよ?」

 初老の男性が目を細めて返答する。


 「いや、値打ちもんか、どうか見てもらえればそれでいいから・・・・だめか?」

 ジードが粘る。


 「そうかい? ニーニャ! おまえ見てやれ!」

 初老の商人が時折荷物が運び出されるホロ付き馬車に声を掛け、「悪いがまだ開店準備中で済まないね、お客さん・・・・」と営業スマイルでその場を立ち去ろうとする。

 幌付きの荷馬車からひょっこりと、少し鼻が上を向いた愛嬌のある女性が顔を出す。

 「なに? おじさん」


 「おまえ鑑定できるだろう? 鑑定書は要らんから見るだけ見てやれんか?」

 「はぁい!」

 検品でもしていたのか、彼女は皮用紙のロールを首から下げたカバンに押し込むと馬車から身軽に飛び降りた。そして、アクセサリーのように襟首に下げた方眼鏡を掛け、とぼとぼとジードに歩み寄る。

 「それで、見てもらいたいってのは、どれ?」

 ツンとした態度も、愛嬌のある表情が嫌味に感じない。


 「あっ、おれんじゃなくて、こいつの」

 セルジオをずいっと彼女の前に押し出す。


 「あ、え、その・・・・これです」

 あまり若い女性と話す機会も無かったセルジオが、少し照れながら銅貨を差し出した。

 懐にはまだ腕輪や指輪などもあるのだが、とりあえずジードに見せた物を手渡した。


 「・・・・古そうな銅貨ね」

 女性は手に取った硬貨の重さを確かめる様に、掌を数度軽く握り、商人特有の鋭い目つきで銅貨をかざして眺めた。


 「随分古い硬貨ね、緑が出てるし、半分は魔鉱化してるみたい。

 それに・・・・・あっ!この文字は・・・・え?!お、おじさん!!」


 「あぁ、なんだ?」

 荷卸しの手を止め、おじさんと呼ばれた商人が顔を向ける。


 「ほとんど潰れてるけど、これってゴダール文字じゃない?」

 男に歩み寄り、ニーニャが声を掛けた。


 「ん? どれどれ」

 首から下げた手拭で額の汗を拭きながら、セルジオ達の所に歩んできた男が銅貨を受け取る。

 「!?ゴダール文字だな・・・・お客さんこれはどこで」

 女性と同じように、日に翳して表面の凹凸を確認して目を見開いた。


 「う、裏の畑で見つけました」

 セルジオは商人に詰め寄られ、仰け反りながら答える。


 「都じゃ好事家が収集用や見栄を張るため集めてる代物でなぁ、そこそこ値が張るもんなんだ。

 確か、近くの湖にゴダールにまつわる伝承もあったな・・・・お客さんの畑は、昔の墓跡かもしれん。

 他にもあるなら、うちが買い取るが持ってないか? 」


 ジードが肘で小突く。


 「いや、あのぉ・・・・それだけです」 セルジオは気まずそうに答える。


 ジードはため息をつき、セルジオの肩をポンポンたたき首を振る。


 「そうか、残念だとりあえず、銀貨9枚出そう。

 買い取ってもいいかい? 」


 「えぇ? 銀貨9枚ですか?」ジードが声を荒げた為衆目を集める。


 「・・・・あ、うぅ、はい」

 勢いに押され、セルジオが返事をすると、畳みこむ様に話が進む。


 「よし決まりだ!ニーニャ」

 「はい、おじさん。これ 革袋はサービスねぇ♪」

 目の前で銀貨を数え革袋に収め、有無をいわせずセルジオに握らせた。


 「お客さん、しばらくこの村に居るから、見つけたらまた売ってくれ」


 幾分強引に思えなくもないが、商人は人当たりのよさそうな笑顔を二人に向けた。


 「・・・・あの、できれば、このお金であれを売ってくれませんか?」

 「どれだい?」

 おじさんと呼ばれた初老の男性が商品棚のカンテラを指さす、セルジオの視線を辿った。


 「えっと、カンテラと油を多めに、あと種と麻袋も」

 「どれどれ、これと併せて銀貨5枚と銅貨4枚・・・・

 銅貨はまけとくよ、ニーニャ、油はどこにしまった?」


 「そこらの箱の中よ」

 どこから取り出したのか、ルーペのような物で銅貨をしげしげ眺めていたニーニャが振り向きもせず答えた。


 その様子に、気まずそうに頭を掻く男が口を開く。

 「・・・・すまん、まだ荷解きが済んで無くてな、届けさせるよ。

 どこに住んでるんだい?」


 「あ、あそこです」

 セルジオは、村より更に山へ登った先に僅かに見える小屋を指差した。


 「・・・・あれか? ちょっと有るな、分かったよ暇を見てニーニャに持って行かせる」

 その後、簡単な挨拶をし、品物はまとめて代金と交換する話をまとめセルジオ達は帰路に付いた。


 ジードが何故かついてくる。


 「おまえ、本当に欲が無いなぁ」

 「もともと俺のじゃないし」


 セルジオはこの後、両親の墓の傍に腕輪と一緒に埋めて弔ってあげようと考えていた。

 しかし、ジードが騒ぎそうなので言わずに居ることにした。


 「残りの硬貨も相当な額に成るんだから気を付けろよ」


 「あぁ、心配ないよ・・・・」

 「そ、そうか、それならいいが」


 ジードはセルジオの両親の薬を売りつけた灰汁どい村人を知っていた。


 その男は、薬が効く効かないを別として、青年から持てる財産の殆ど全てを巻き上げ姿をくらまましたのだ。


 もともと素行が良くない奴だったが、その取り巻きがまだこの村にいる。

 そしてセルジオが何か金目の物を手に入れた事を広場で嗅ぎ付けたはずだ。


 『拙ったな、あれだと予想以上に高価なもんじゃないか』

 ジードでも金貨交じりの塊と腕輪が高価なものだと容易に想像がつく。


 「何かあったら、言うんだぞ!」

 ジードは念の為にと村はずれ迄セルジオを送り、振りながら来た道を駆け戻る。

 『やっぱり拙いな、嫌な予感しかしない』

 彼は、その足でセルジオの後見をする村長の所に行くことにしたのだった。


 ・・・・


 嘗て、この村に原因不明の伝染病が流行った。

 遠くから医術の心得のある司祭や学者を招き、治療に当たったがそのかいも無く多くの村人が二度と目覚める事は無かった。


 村長の家族もその病に倒れたが、村長他の機転により村の病人は一か所に集められ治療を行い村の伝染病は広がる事無く収束していった。

 治療が功を奏したのではない。

 それは多くの死去といった結果をもってであり、その中には村長の息子とその妻も含まれていた。


 村人の憤りは収まらず、伝染病に纏わる様々な流言飛語が飛び交う。


 その中で、村から離れた場所に住むセルジオの両親の名が噂された。


 村から離れている事もあり、患いながらも他の者より生をながらえた夫婦を、死者の家族が妬んだのだ。

 噂はいつしか、彼等が伝染病の元だったのではないか?きっとそうに違いない・・・・と。


 村長も家族を失ったが、そこまで愚かではなかった。

 一人息子のセルジオが、全てをなげうって金策し、八方手を尽くし薬を手に入れ両親に与える。

 その姿を知っていた。


 しかし、セルジオの願いも虚しく、彼の両親も息を引き取った。


 病気で家族を亡くした者は多い、村長の立場上、一人の住人に肩入れをする事は出来なかった。

 しかし、孫の懐いている若者を余りにも不憫に思い、理不尽な物言いの村人から彼を遠ざけ影ながら支える事を良しとしたのだった。


 村長は一人に成ったセルジオの後見人となり借金の分割交渉をし、取り立てを自ら買って出て不当な要求を排除するなど、正に彼を影ながら助けていたのだ。


 そんな人となりを知っているジードは、面倒事が起きる前に知らせておきたかったのだ。


 ・・・・


 「じゃーな!」

 「あぁ!また!」

 セルジオは、坂を下り村に戻るジードの背を見送り家に入る。


 「はぁ、村は人が多くて落ち着かないなぁ」

 割れた水甕から柄杓で水を飲みため息をつく。


 そして彼は石鋤をもって両親の塚へ向かった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ