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いつもダンジョンに居ます  作者: ねむねむぴよ
第二部 三章 北方の賢者
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224話

 セルジオは再び意識を取り戻した。相変わらず視界は闇に閉ざされ何も見えない。

 だが、体の痛みは随分和らぎ針で刺すような頭痛は感じない。

 飲まず食わずで体力を消耗したのか、体を起こそうとしてもナワナワと震えるばかりで体を持ち上げることが出来ないが、這うように体を仰向けにし、意識を目に集中する。


 辺りの魔素の流れが青白い靄となって次第に視界を確保してゆく。

 今倒れている場所は、墓所の深部。

 石壁には3段ベッドのような横長の穴が掘られ、其々に遺体が安置かされている。

 下から仰ぎ見る姿勢の為良く見えないが、中には魔法の呪物を身に纏っているのかやけに明るく光る石室ともいえる安置所が、魔素と反応して明るく光っている。


 セルジオは、四肢に意識を集中する。

 その途端周囲の魔素が渦を巻き、セルジオの意思を叶えようとする様に体を支え、立ち上がるのを助けてくれた。


 ・・・・


 横穴の中は案の定、遺体が安置されている。

 青白い光が届く範囲全てが3段重ね、横長の石室となっており、様々な遺体が横たわっていた。

 簡素な衣をまとった者、まだ若く子供と思われる遺体、宝飾品を身に着け着飾っている者、錆の浮いた重そうな鋳物の剣を胸に抱いている者、それこそ様々な遺体が静かに眠っている。いずれの遺体も保存状態がよく黴や腐敗に晒される事もなく一応にミーラ化し生前の面影を色濃く残していた。


 セルジオの脳裏に、夢現のダンジョンの怨嗟の囁きの聞こえる瘴気溢れる場所が蘇るが、彼らにとって、ここは正に安らぎを得て永遠の眠りに就く神聖な場所であることが感じ取れた。


 セルジオは不意に魔素の流れを強く感じる。

 幾重にも枝分かれする墓所の深部、その更に奥の方から渦を巻き細くわれた糸、いや、それよりも更に強く細く綯われた針金のような光の筋がセルジオの胸に潜り込み、絶えず魔力を送り込み続けているのを感じる。

 寄る術のないセルジオにとって、今の体を維持守ろうとしている魔力の繋がりに猜疑心は働かず、その魔力の温かさには親近感すらおぼえる。


「これは、魔素の元を訪ねるしかないか・・・・」


 セルジオは独り言ち、青白く強く光る筋に誘われる様に地下墓地カタコンベを歩き出した。


 ・・・・


 深部のさらに奥、つづら折の通路を降りると広大な空間が開け、壁一面に頭蓋骨と大腿骨の組み合わされた場所へとたどり着く。


 乾燥していた空気に湿り気が混じる。

 湿度が高いせいか、ここにある遺体はすべて白骨化し、虚ろな眼底が四方からこちらを見ている。たぶん白骨化した後に組み上げられたのだろう、瘴気は全く感じない。

 そんな中、唯一清浄な雰囲気を漂わせる存在があった。その存在は空間の中央、ナセスを祭った場所にあった女神像と思われる立像が置かれ、穏やかな表情でこちらを見下ろしている。

 細部に至るまで緻密に彫られた大理石の女神像、滑らかな曲線を多用し今にも語り掛けて来そうな程精巧に作られた表情の口元は、わずかに開いている。


「シルフィアに似ている・・・・少し大人びてるかな・・・・」

 セルジオの第一印象は、彼に縋りつき最後まで自分を支えてくれた少女の姿と重なって見えた。彼女の気配がだんだん強く感じる。

 そんな気持ちを抱きながら、胸から延びる光の筋は、立像を経由し再び地面の中へと続いていた。


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