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いつもダンジョンに居ます  作者: ねむねむぴよ
第二部 三章 北方の賢者
254/256

222話

 玄室の奥に女神像が祭られた墓所にしては、清浄な空気の漂う穏やかな雰囲気の中でナセスの葬儀が行われていく。


 玄室の手前の石造りの棺に移されたナセスは頬に綿を詰められ、穏やかな表情に成っており、最後の別れを村民総出で行っている。

 傍らにはフェルミナが泣き腫らした目で参列者に頭を下げ、いろんな慰めの言葉を掛けられていた。

「最後の意地で村に帰ってきたんだ、ナセスはすごいよ。あんたの旦那は家族思いで・・・・うぅぅぅ・・・・」

 村人のおばさん連中も、フェルミナの子供たちが無邪気にはしゃぐ姿をみて思わず涙をこぼす。「最後を皆さんで見送って頂き、しゅ、主人も喜んでいると思います」

 フェルミナも尽きることのない涙がハラハラと頬を伝い顎から滴る。

「気を落とすんじゃないよ、村の皆で助け合うのは当り前さね・・・・」

 老婆がフェルミナの背を摩りながら、声を掛けてくる。


 『まだ死んでないって! 体が動かないだけだから!!』

 セルジオは玄室の天井付近から声の限り叫ぶが、気が付く者は誰もいない。


 そうこうしている内に、司祭らしき人物が葬儀の儀式へと取り掛かり松明を高々と掲げたその時、松明の光に焙られたセルジオの意識が不意に暗転した。


  ・・・・


 瞼が重い。

 やけに喉が渇く、どれくらい意識を失って居たのだろうか・・・・

 目を開けているはずが、光源の一つもない暗所では何も見通すことが出来ない。

 手探りで状況を確認するが、夢でもいていた感覚で俯瞰していた石棺に横たわっているのが解る。


 頭の位置からして、女神像は右手側であったはず。

 腕に力を籠めると、今まで切れていた健が繋がったのか引きつった感触もなく棺の縁に手が届く。


 指の感触はおかしいい。もともと壊死していた両手の指はまるで瘡蓋の様に剥がれ落ちたのか、両手を合わせて確かめると、欠損した指が意外と多かった事に改めて気が付く。


「あ“、あ”あ“あ・・・ん”ん・・・・ア“メン”ボあがいな“ア”イウエ“オ・・・・」

 喉は驚くほど治っている。 会話には不自由しなさそうだ。


 改めて、目に注意を向ける。

 魔力の流れが解る兆候があったのでこの体で試してみると、驚くことに部屋全体がぼんやりと青白く浮かび上がってきた。

「ずげぇ・・・・ゲホゲホ」

 松明の煙と煤で部屋の空気が澱んだのだろうか、やけに煙たい。

 松脂のような臭いが充満する玄室では、息苦しさを感じる。


 上半身を起こし部屋を見渡すと、女神像が一際輝いて見える。

 霊験あらたかな物なのだろう、皆からとても丁寧に扱われていたのが解る。

 だが、台座には女神像が動かされた跡がいくつもの筋となって見え、その下から空気のながれが魔素と一緒に噴き出しているのが見えた。


 とは言え、一番出やすいのは玄室の正面の扉。

 咽ながらも何とか立ち上がり、渾身の力を込めて扉を押したり引いたりしてみる。


 ガゴン、ガタ、ガゴ・・・・・

かんぬきがじであるのが・・・・ゴホゴホ・・・・」

 松明をともしたまま玄室を締めたのであろう、目がやけに滲みる。

「・・・・どなれば、女神像しか頼りが脱出の手掛かりが無さそうだな・・・・ゴホゴホ」

 セルジオはほんのり青白く光る室内を移動し、女神像に手を掛けた。



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