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いつもダンジョンに居ます  作者: ねむねむぴよ
第二部 三章 北方の賢者
249/256

217話


 セルジオの分け入った林は、若い雑木と腰までしかない灌木がまばらに生えた植林されたような場所だった。

 少し窪んだ場所には先程の雨で出来た水溜りが消えゆく夕日を受けて輝いている。


 セルジオは痛む体を引きずり、こころ持ち乾いていそうな大きな木の根元に辿り着くと、その張り出した木の根に腰かけた。


 足元に水溜りができている。

 雨に打たれた為、さっぱりとした気分がしなくもないが、痛みは相変わらず酷く歩き続ける体が悲鳴を上げる。

 当てもなく只少しでも砦から遠ざからなければと思う気持ちと、辛い身体を休めたいと言わせる体の痛みがせめぎあい、結局痛みが勝鬨かちどきを上げた。


 ……体中がとにかく痛い。

 薄暗くなる林の中、セルジオは自分の腕や足を見ると、まともな肌色が見えない程、青痣と酷く鬱血し濃い茶色に変色した皮膚で斑になっている。

 裸足の足先は、元は何色か解らない程浅黒くなっており、足の指にも一枚の爪もない。


 「うぅ……痺れて痛みがないのに見るだけで疼いてきそう……」

 セルジオはボコボコに変形した脛から肉が少し抉られている腿をさすり体を確認していく。


 頭を下げると後頭部が引きつり痛むので、水溜りに体を写すと異様な拷問の後が体に刻まれていた。


 「うあぁ………酷でぇ………今回の器の主は死んでるんじゃないのか?」

 喋ると口の中が血の味で染まる。

 スカスカした口の中の感触を確かめる様に指を口内にれると、奥歯の殆どが砕け前歯の大半が折れている。


 少しビビッて水溜りに顔を写してみる。


 「………オークより酷いじゃないか………」


 草臥れ年老いた中年の男性の顔が写る。

 片方の耳がそがれ、鼻にはナイフで切れれたような切り傷が幾つもあり、鼻の尾は辛うじて繋がっているような心細さを感じる。

 両目は付いているが、左右の視線は定まらす大きく斜視目となっていた。

 眼底は鬱血し白目が元から真っ赤で有ったような状態だ。

 眉の骨、頬骨も砕けているのか歪みが酷い。

 青痣と治りかけの黄色い痣の後、紫に赤、まるで画家のパレットの様に色が混じっている。


 「………痛いはずだよこれ、生皮でも剥いだのなか………」

 視線を顔から体に向ける。

 アバラ骨の浮きだした胸部は赤くただれた肉が見えており、パリッと突っ張る薄い膜一枚が皮膚の代わりをしていた。

 ……傷口から滲みだす体液が雨で溶けてべたつく。


 改めて、セルジオは両手を見る。そこにはまっすぐに伸びる指は一本もない。

 辛うじて親指と中指と薬指が曲がり物を持てそうだが力は入らない。


 「………参ったなぁ、傷の治療にも土地勘は無いし、見る見る日が沈んでゆくし………」


 メェェェ……


 風向きが代わり、遠くから山羊の声が聞こえる。


 「ん?家畜の声だ………家畜番でもいれば………」

 セルジオは助力を求めようと地面を這う。

 一度座ってしまうと立ち上がるのにとても手間がかかる身体なのだ。

 激しく震える両足を叱咤し、近くの手頃な枯れ枝を杖代わりに家畜の声の方へと向かった。

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