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いつもダンジョンに居ます  作者: ねむねむぴよ
第二部 二章 生きたダンジョン
247/256

215話


 ジャララ、ジャラララ…

 「あれ?これでもないか…」

 独房の外から鍵を手繰る音と共に、話し声が聞こえてくる。


 「もう死んでるんじゃね? あの取調べは尋常じゃなかったろ?」

 「あぁ、酷かったな……あんなに頭殴ったら脳みそ片方に寄っちまうだろ」

 「だよなぁ、まぁ元から何にも知らないって事もありそうだしな……」

 「あぁ、俺もそれ思った。普通あれだけ責められたら吐くだろ?」

 「だよなぁ……手足の爪全部剥されてもアウアウ呻くだけだからさ………」

 「でも死なせるな、ってお達しだろ? 無理くね?」

 「………死んでたら、俺らもシバカれるだけじゃすまないかもなぁ……やっぱり3の報告書いるな」


 話し声が一瞬止み、乾いた笑い声が聞こえる。


 「まぁ、そう、そうだよシッカリ高価な魔法薬付けにして、魔法で治癒までかけてもらってるから死んじゃいないだろう? だよな? 」


 ガチャカチャ………カチリ!

 開錠の音と共に話し声が途切れる。


 『…………取りあえず死んだふり!?』

 攣った舌はだらりと伸び切り、震える体はどうしようもなく、とりあえず白目を剥いてみる。


 ガチャガチャ ギィィィィ………

 独房の鍵が開けられ、カンテラと松明の灯が独房の中を照らす。


 「「!!!!」」

 二人の看守の表情が凍りつく。

 一瞬の間のあと、看守が駆け寄り、セルジオを覗き込んだ。


 「うわぁ!! 舌噛みやがったか!?」

 「いや舌噛んだ奴は、噛んだ舌が喉に詰まって紫色になる!これは別もんだ!!

 ……でもヤバそうだぞ!!痙攣してやがる!!」

 彼等も伊達に看守をしていない、セルジオは舌打ちしそうになる(攣って無理だけど)のを堪え芝居を続ける。


 「くぅ、血まみれじゃねぇか、毒でも煽ったか?」

 「っぽいな、まだ血の気もある!早いとこ手を打てば息吹き返すかもしれねぇ!!」

 「お、おぅ!!」


 看守の一人が、セルジオの手足の鎖を外し抱え上げる。

 松明の光で自分の手足を漸く確認できたが、随分細く頼りなげに見えた。

 そして、話の通り手足の爪は一つもない。


 『うげぇ………見るだけで痛たそう、そう言えば手足の感覚が無いのはこの為か?』

 痙攣を続ける体を、肩に抱えた守衛が嫌そうに呟く。


 「痙攣がヤバい!直ぐに祈祷師を呼んでくれ!!俺も急いで連れて上がる!」


 セルジオは力が入らず、だらりと男の肩に垂れさがるままにされ、独房のある暗くジメジメした場所から連れ出されるに任せるしかなかった。


 『………とりあえず牢屋から出れたのは良しとしよう…で、どうしよう!?』

 この先の展開に脂汗を流す。


 「お、おい!!変な汗かいてるぞ!わ、わ、判った!!お前も急いで来いよ!!」

 「応!」

 セルジオを気にする看守が走り去り、その後をガツンガツン揺らされながら階段を上がっていく。

 駆け上る肩の乗り心地は最悪だとセルジオは思った。


 ・・・・


 運び込まれたのは、独房より幾分清潔な部屋だった。

 テーブルや家具、ここに詰める看守用の寝台などがあり、全裸の女性の絵が壁に貼られている。


 「片付けとけ!」

 ガシャシャン!!

 看守はテーブルの食いかけのパンや空の瓶を払いのけた。

 常備薬と思われる薬瓶を何本か取り出し透かして中を確認する。


 「うん、古くなって色が変だが…これでいいだろう…」

 キュポン!

 素焼きの小瓶に入った薬液の栓を抜き臭いを嗅ぐ。

 「ぐえぇ…ひでえ匂いだ…」

 看守はとんでも発言をしながら、その薬液をセルジオの口に突っ込んだ。

 薬瓶に100倍に希釈と書いてあるが、セルジオには読めない。


 『トンデモナク不味い!』

 異様な刺激臭と強烈に苦い口当たりに盛大にえずき、口の中の血に混じった唾液が胃液と混じって鼻から吹き出す。

 「ごぶふぉおぶれらぁ!」

 意味不明な悲鳴を上げたセルジオから看守が飛び退く。


 「うわぁ!やべぇ!!ここの解毒薬じゃきかねぇ!!

 何処に仕込んでたか解らんが、たぶん毒で間違いないだろう!! 胃袋も切れてやがるなきっと!!」

 胃液の混じる据えた臭いの鼻水に、過剰に反応する男。

 そこに、ヨボヨボの老人を連れたもう一人の看守が合流した。


 「おぉ~い! 連れてきたぞって……おぃ!、そいつさっきより顔色悪くねーか?!」


 それはクソ不味い薬を原液で飲まされたのだから顔色も悪く成る。


 「しょこを、のきなしゃい……」

 殆ど歯の残っていない老人が、詠唱を始める。

 「ふぉうじょうほふぇがひぉ、じあひのあめほふぅらふてんてひふぉふぃがふぃふぉ………」

 端から聞いてもフガフガといった表現が当てはまる魔法詠唱では、当然効果は出ない。


 「魔ふぉうが効かんわぃ、こりぇは助からんのぉ………」

 自分の魔法詠唱を棚に上げ、魔法が効かないとのたまう祈祷師。


 「おい、これって拙くないか?………」

 「そりゃ、ま、拙いだろ………」

 「俺たち悪くないよな?」「あぁ勿論だ!」

 「じゃぁ………爺さん、死んだ証明書、書いてくれよな……3用の奴だぞ……」


 看守の二人が、真剣に老人を見つめる。


 老人は人差し指と親指をスリスリすり合わせる。

 要は金を寄こせと言いたいらしい。


 看守の顔が歪むが銀貨を取り出し老人に渡した。

 「でふぁ、平らなつくふぇが有る所、わひの部屋でしたためる彼のぉ…」

 懐に収めた銀貨をポンポンと叩く老人に付いて、看守達は部屋を出ていった。


 部屋の外から遠ざかる話し声が、死体の処理方法や書類の提出についてあれこれ話している。

 その声もついには聞こえなくなり、誰も居ない部屋にセルジオだけが残された。


 『………俺、死んだ事になったのか? いいのこれで?』

 訳の分からない内に助かったセルジオは、しばらく様子を見た後にテーブルから起き上がった。

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