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いつもダンジョンに居ます  作者: ねむねむぴよ
第二部 二章 生きたダンジョン
245/256

213話

北方の賢者 プロローグ

 北海の小島の地下、引き伸ばされた時間の中を漂う少女は自分自身に言い聞かせるように、何度も…何度も同じ夢を見る。


 30mを越える巨大なメタセコイアの並ぶ森林を軽やかにシルフィアが歩く。

 彼女の見上げる視界には、紅葉した葉と寒くなり始めた真っ青な空が移り込む。

 そう、これを夢だと彼女は知っているのだ。


 『 私はエルフィン族。 私の種族の一生は長い。概ね人族の一生の7倍、源流に近い者は15倍を超えるのです。私は真祖に連なるエルフィン族の娘、私の一生は更に長い。心配せずとも何度でも巡り合えるはず…


 あぁ、セルジオ様。例え如何様なお姿に生まれ変わろうと、必ずや見つけ出し、おそばせ参じます。

 だから、見つけ出す前に消えてしまわぬように……ただ、ただ、それだけが気がかりなのです…… 


 セルジオ様を見出せば、一生お傍で御仕えいたします。貴方様が生れ落ち一生を終えても、また生まれ来るまでお待ちいたします。 何度でも、何度でも、私の命の尽きるまで・・・・

 だから、早く現われて下さい。 そして長く生きて下さい。 貴方様と少しでも同じ時間を過ごすために・・・・ 』


 景色は、人の住まう街並みへと変わる。

 簡素な小屋が立ち並ぶ村の中を、セルジオの影を追い求め、シルフィアは捜し歩く。


 『 そう、セルジオ様の計らいで、時間を揺蕩たゆたう魔法を知る事ができました。

 100分の1と言わず、1000分の1に引き伸ばすことも、縮めることも出来ました。

 フフフフ……

 余りにも時が早く過ぎてゆくので、寝坊しないよう気を付けなければ……

 セルジオ様が老衰してしまいますわねぇ 』 


 気が付くとシルフィアは沢の岩場に腰かけ、水に足を浸していた。

 流れる清水。

 少女の爪先が水飛沫を上げる。

 陽光を浴び水面が煌めく。

 彼女は、ゆっくりと目を閉じ、別れた最後の瞬間、消えたセルジオの姿を思い出す。

 瞼に焼きついたセルジオの姿を忘れないよう、何度も思い浮かべる。


 『 どのようなお姿に成られようと、必ず解るはずです。

 貴方様の記憶を見せて頂きました。 ダンジョンの管理者、村の人々、貴方様を慕う方々……

 フン! 絶対に負けませんとも………

 だ、だ、だって、その…裸で添い寝をしたのは私だけですから! きゃぁぁぁ……… 』


 夢の中でも頭から湯気を吹く。

 そんな夢を幾度も見続ける。


 十年は夢のように過ぎ、百年は季節が移りゆくよりも早く流れ去っていく。

 そんな夢とも現ともつかない日々が、突如終わりを告げた。



 ” セルジオ様の気配がする!! ”

 シルフィアの身体から漏れ出す魔力で、装置の中の時間の流れが現実の時間に戻されていく。


 鈍色の石柱が次第に透明へと変わり、細かった手足に女性らしい丸味を帯びた美少女の姿が浮かび上がる。

 床を引きずるほど大きかった白衣は、くるぶしの上に位置し、手足が随分伸びていた。

 金糸のような綺麗な髪はとても長く伸びており、装置の中全体に漂う。

 細く長い首筋が陰影を作る。

 胸元の白い肌にくっきりと鎖骨が浮き出し、抱きしめると折れてしまいそうな薄い胸から肩口を一層華奢に見せている。

 彼女がセルジオと束の間の冒険をした日々の、殆ど少年と区別がつかなかった胸は膨らみを増し、一目で女性であると主張していた。


 彼女の長い睫毛が震え、間もなく眠りから覚める事を告げる。


 装置の液体が抜かれ、彼女の足が床に付くと同時にその両手がバン!と音を立て張り出された。

 青味掛った白目に湖を思わせる深い青色の瞳がゆっくりと見開かれ、囁き声が漏れる。


 「 ……セルジオ様、危ない……直ぐに、直ぐに向かいますのでどうか御無事で…… 」


 装置の正面が不意に無くなり、転がるように飛び出した。

 彼女は足腰に力が入らず、フルフルと震え床を這う。


 彼女の脳が感じるのは一年と少し、種族的な肉体成長は三十年超分、実際には三百年以上経過していた。


 奥歯を噛みしめ精神を統一すると、彼女の身体から魔力が溢れた。


 全身を魔力が纏う…筋力を魔力で補いすくと立ち上がり、長い髪の毛が独りでに三つ編みに編まれてゆく。

 掌を前に付き出し、空気中の水分から氷の櫛を作り出すと、長い髪をくるくると纏め大きな団子にし頭にとどめる。そして、白衣の胸元を両手で掻き抱き転送陣へと駆けだした。

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