200話
湖面に写る見知らぬ人物が、青ざめた表情でこちらを見ている。
整った顔立ち、肌の色はセルジオの記憶と然程違わない。
改めて見る自分の手足は幾分長く、自分の知っている節くれ立った野良仕事をする者の指でなく、繊細で細長く明らかに知らない手であった。
耳は幾分尖っており、髪の毛の色は濃い栗毛・・・・瞳は・・・・
眼に至っては、瞳孔は無く瞼の中には真っ黒に輝く水晶の様な眼球が収まっており、瞼がヒクヒクと引き攣る様を映し出している。
「・・・・俺、どうなっちまった?!」
その呟きを聞いたのか、心配そうに近づいてくるシルフィアが、水面に映って居る。
「・・・・大丈夫?」
全裸のシルフィアが、濡れた髪の毛だけを纏ってセルジオを顔を覗き込んでくる。
「・・・・こ、この体・・・・俺のじゃない・・・・と思う」
自分でも、何を言っているのか解らず言葉を紡ぐが、シルフィアがこれに答える。
「セルジオは、ずっと私の知っているセルジオだよ?」
少し丸みを帯びた、胸と腰に金色の髪の毛が纏わり付き、小首を傾げた彼女の姿は蠱惑的であるのだが、それどころではない。
「いや、だって・・・・この体は人間族じゃないだろ?」
いまだに信じられず、自問自答するように自分を見つめるセルジオに、今度はシルフィアが驚く。
「えっ?! 人間族だったの?!」
『いや、驚いて仰け反らないで!? いろいろ見えすぎるから!!』
セルジオの整理反射が、思考と別枠で動き出そうとするので、フグゥ!と気合を入れる。
そこで、新たに気になった場所に視線を移す・・・・
腰紐を緩め、そっと中を覗いてみる。
「・・・・ある。あるけど・・・・大蛇が居る・・・・」
そこには彼の知らない、グロテスクな何かが、『やぁ、ご主人!何か用か?』と問いかけていた。




