194話
やっと仕事の目途が付いた?感じです。
一月以上お待たせしました。申し訳ありません。
なんどかGWまでの目途が付いたので、なんとか再開できそうです。
年度末とその余波が処理しきれずオーバーフローしていまい申し訳ありませんでした。
ぼつぼつ再開しますので、楽しんで頂けると幸いです。
荒削りの木材で組まれた檻には、すえた臭いを放つ幾人もの囚人が詰め込まれていた。
逃亡を警戒してか、御者の様に数匹のゴブリンが檻に取り付き、閂の掛かった戸の上部に魔石のカンテラが淡い灯りを点している。
檻の据えられた台車は大木を輪切りにした車輪を持ち、整地されていない地面の振動を直接拾い、ガリゴリと車軸を削る軋音を響かせ進んでいた。
代車は、足を鎖を繋がれた歪んだ粘土細工のような頭部が印象的な巨躯の大鬼が二頭立てで引いている。
二匹の大鬼の体には、太い綱が袈裟懸けに幾重にも撒かれ、其々が代車へと繋がれていた。
綱に手を掛けていないのを不自然に思ったセルジオが目を凝らすと、彼等の手は指が落とされ物を持つ事が出来ぬよう潰されている。
しかし、化物の腕の太さは大人の胴回りよりも太く、振り回すだけでゴブリンにしろ人にしろ簡単に挽肉に変えるだけの力を持っていると容易に想像できた。
グワァアァァン!!!
先頭を行くオークが、金属の鎧を叩き延ばしたのであろう金板を棍棒で叩き、騒音を撒き散らす。
大鬼の周辺と檻の後ろにもオークが配され、その周りを十数匹の小鬼が取り巻いていた。
「・・・・助けるのは無理そうだな・・・・」
セルジオが小声で呟く。
彼に張り付くようにシルフィアが寄り添い、ブルブルと震えている。
セルジオは刹那、少女に視線を落とすが、すぐさま騒音が響く暗闇へ注意を向けた。
即席の銅鑼が鳴らされる度に天井から蝙蝠が飛び立ち、暗がりから大カマドウマが飛び出す。
全てが見える訳ではないが、魔物から少しでも逃れようと四方に飛び退くのが気配で解る。
時折、猫程の大きさの蝙蝠が空中でぶつかり骨の砕ける音と共に地面に落ちては血の花を咲かせる。
その側で跳ね上がった大きなカマドウマがバランスを崩し、地面に乳白色の体液をぶちまけている。
セルジオは小声で震える少女に尋ねた。
「・・・・シルフィアの知ってる顔はあるのか?」
セルジオの囁き声に、少女は自信無さ気に頭を振り、唯々恐怖に顔を歪めている。
彼の裾を血の気が引くほどきつく握り閉める少女の手は、激しく震えている。
セルジオも少女置いて咄嗟の行動は出来ず、只その状況を見守る事しかできないでいた。
ゴリリ ゴロロロ
不揃いな車輪が地面の起伏で空回りしながら進んで行く。
ボワァァアアァァン!!
セルジオ達は隊列の後方に回り込み、遮蔽物の影を縫いながら一行を追う。
そして一刻程隊列を追尾していると不意に一行が立ち止まった。
・・・・・・・・
視界を覆い尽くす岩壁。
ゴブリンを追い立てる様に凄むオークが、雄叫びを上げている。
天井が見えない程高い空間、岩壁の前で数匹の小鬼が何かを探している。
「アギャ!? グギャギャ!?」
小鬼の声が聞こえるが、セルジオからは代車の陰で何をしているのか解らない。
古びた革用紙を握る、比較的整った鎧を纏うオークがゴブリンを蹴散らすのが見える。
唸り声の様な声が聞こえてくると、岩壁に変化が現れた。
淡い光の筋が、一筋、二筋と壁を走り、その筋が次第に明るく輝きだした。
しばらくすると、光の筋が鼓動するように点滅を繰り返し、次第に大きなアーモンド状の模様が輝き出した。
「魔法の扉か?・・・・」
セルジオは独り語ちるが、それに答えるものはいない。
光の扉はいつしか実態を持ち、白く大きな扉が姿を現した。
「ブッ・・・・ブッゴ、ブゴゴクガ!」
革用紙を持つオークの声が響くと、地面の小石がカタコトと震えだした。
グゴォォォオオオ・・・・
扉が地面の岩を削りながら観音開きに開き始める。
シルフィアがセルジオを仰ぎ見る。
セルジオも視線に頷き、一行へ間を詰める。
我先に小鬼とオークが門の中へ入って行くと、それを追う様に代車も動き始めた。
魔物の注意が檻から門の中へ集中している。
監視役のゴブリンですら檻から飛び降り、門の中へ駆け込んで行く。
二人も急いで門の中へと滑り込む。
小鬼やオークの護衛は門の先で何か騒いでおり、こちらには気が付いていない。
オークらしい怒気を含んだ声が聞こえてくる。
ゴブリンの断末魔が聞こえる。
何か想定外の事態が有ったようだ。
「・・・・シルフィア、岩陰で少し待ってて、檻の様子を見てくる」
セルジオは縋りつこうとする少女を岩陰に残し、忍び足で檻の戸へ飛び付いていた。
・・・・・・・・
鼻を突く腐臭。
それに混じる鉄錆びと汚物の臭い。
ゆっくりと進む代車、その檻の中は酷い有様だった。
寿司詰めにされた檻の中の囚人は、半分以上が既に事切れており、手足が切り取られた遺体が絡まる様に積まれている。
まだ人型の遺体ですら明らかに食害と思われる歯形があり、蛆が湧きアバラ骨が見える物、頬の肉や眼球が無いものも少なくない。
その中、辛うじて息のある膝を抱える男女が虚ろな目を見開きセルジオを見ている。
手足は荒縄で拘束され、四肢は痩せ細り、目は落ち窪んでいる。
セルジオは腐臭と糞尿の臭気で目が染みるが、口早に小声で告げる。
「・・・・護衛を倒すのは無理だ、隙を見て逃げろ!!」
セルジオは腰に差した短剣を床に滑らせ、黒焼きの入った袋を檻に押し込む。
ギラギラと光る落ち窪んだ眼の男?が短剣に倒れ掛かり、直ぐに隠した。
他の囚人は袋を漁り急いで黒焼きを口に入れる。
「・・・・運が良ければまた会おう・・・・」
セルジオはその様子を見て、まだ幾ばくかの見込みは有りそうだと安堵すると共に、檻の戸口に取り付けられたカンテラを外しの灯りを消して立ち去った。
『 賢者の一族か? 』『 何故我らを助ける? 』『 罠か? 』
囚人が小声で話し始める。
オークの怒号以外に聞こえない暗がりでは囁き声もさざ波の様に響く。
「 グギャガァ!!!!」
監視役のゴブリンが戻り、長い棒を檻に押し込み激しく中を掻き回した。
囚人は、即座に静かになり、床に目を伏せた。
ただ、その眼光はもう虚ろではなくギラギラとした光を放っていた。
・・・・・・・・
「 ただいま・・・・ぐふ!? 」
岩陰に戻ったセルジオの溝内に、シリフィアが頭から飛び飛び込み悶絶させる。
セルジオは咽そうになるのを堪え、涙と鼻水でグズグズになった顔を押し付ける少女の頭を撫で、視線を扉へと向けた。
扉の向こうから、虫柱の様な靄を作り、蝙蝠が雪崩れ込んでいる。
だが、門は次第に狭まり蝙蝠を磨り潰しながら、低い音を立てて扉が閉まった。
「 戻ってもしょうがないか・・・・進むぞ 」
遠ざかりつつある一行へ目を向け少女を促すと、コクリと頷き返してきた。
戦利品のカンテラを腰に結わえ、岩陰から檻の様子を窺がう。
セルジオは、彼等が何処まで抗えるか不安ばかりが先立つ。
しかし出来る事はやったと、自分を納得させ再び一行に追従し始めた。
・・・・・・・・
足元に頭が砕かれ、内臓が飛び散る数匹のゴブリンが転がる。
オークが戯れに、それとも腹いせにか解らないが、命を奪った亡骸が打ち捨てられている。
セルジオは一瞬弔ってやれればと思うが、魔物の一行に追従する事を優先し目を背けた。
門の中は、これまでの空洞と違い床面が滑らかに削られ平らに成っている。
左右の壁は略平たんに成らされているが、まだ岩肌と解る状態で、何らかの手が入っていた。
「随分上の方まで、平らに削られているけど・・・・足場を組んだ後は見当たらないな・・・・」
セルジオは、遮蔽物が無く成り下り勾配の緩いスロープ状になっている周囲の状況に思わず感想を漏らす。
二人は夜目の効く魔物に気取られない様に距離を随分取っており、台車が立てる音を聞きながら暗がりを
進んでいた。
「 ?! 」
丸太の車軸の軋みが途絶える。
それに伴い、聞き覚えのある音が空間に響く。
ズズズズンン
ゴリゴリゴリ・・・・・・ズズズン・・・・・
魔物の一行が居る辺りが、パッと明るくなった。
遠すぎて分らないが、何らかの方法で灯りを作りだしたようだが、その灯りに照らされた音の正体にセルジオの血の気が引いた。
・・・・・・・・
ズズズン!! ゴリゴリゴリ
魔物の周辺で地鳴りが響く。
暗がりの中で何かが蠢いている。
鎧を纏ったオークが、ボロボロの背嚢から巻物を取り出し、魔法の光を打ち上げた。
今回の獲物を引き取るはずの、出迎えが無い。
それに切れたオークリーダーが切れ、手の届くとこに居たゴブリンを苛立ち紛れに叩き殺したが、彼等のコロニーが跡形もなくなっている。
そこに来ての地響きである。
状況を把握するために、鹵獲品のスクロールを使ったのだが・・・・目の前に少なくない白い柱が見えた。
「ブゴブ? ブゴゴブガ!!?」
ふらふらと揺れる魔法の灯りが照らし出す柱が動いて見える。
コロニーのあった場所は平らに均され、彼等の仲間の姿は見えない。
それどころか、戦場特有の血肉と臓物の臭いが濃厚に漂っている。
ゴリゴリゴリゴリ・・・・
柱から聞こえる石臼の様な音。
オークリーダーが見る地面に砂と汚物の混じる泥の様な何かが一面に敷き詰められている。
オークには何が起きているのか理解できない。
ズン!! ズズン!!
そんなオークリーダーの目の前で、突然白い柱が暗闇から落ちて来た。
オークよりも二回り以上も大きなオーガを、一瞬の内に白い柱が押しつぶした。
大鬼に巻かれた綱が強く引かれ、台車が白い柱へ叩きつけられた。
白い柱は、その衝撃をもろともせず車軸が砕けた台車から丸太の檻が跳ね上がった。
檻は中の遺体を撒き散らしながら、数回転がる。
その衝撃で、歪んだ檻の扉は砕け落ち、息のある獲物が這い出すのがみえる。
「ブゴブゴォオオオオ・・・・・」 ズン!
オークリーダーが指示を飛ばす間もなく、白い柱がその場に立っていた。
・・・・・・・・
「ま、拙い!ゴーレムだ!! シルフィア逃げるぞ・・・?!」
セルジオが少女に声を掛けるが、少女は失禁し、立ったまま白目を剥いている。
「ぬぅ・・・・」
セルジオは、効果があるか解らないメダリオンを胸から取り出し見えるようにすると少女を肩に担ぎ壁際に張り付く。
ズン! ズズン!! ゴリゴリゴリ!!
逃げ惑うゴブリンとオークを、巨大なゴーレムが踏みつぶす。
壁際に張り付くセルジオを見つけた囚人が数人わらわらと転げる様に逃れてくる。
ゴーレムは彼等を認識しているようだが、頭部を少し傾けるだけでオークとゴブリンの処理を優先しているようだった。
・・・・・・・・
ズズン! ズン!
最後の魔物が踏みつぶされた。
ゴリゴリゴリゴリ・・・・・・
地響きが途絶え、ゴリゴリを引き潰す音だけが延々と続いている。
執拗に磨り潰す音が聞こえる。
白い柱が僅かに前後に動き、魔物を床の一部に変えている。
セルジオの張り付く壁際には、辛うじて生き残った囚人が数名、震えながら頭を抱え蹲っている。
ゴリゴリゴリ・・・・
魔法の灯りも消えた漆黒の闇。
磨り潰す物が無く成ったのか、水を打ったような静寂が辺りを包む。
セルジオの周辺では、地面に蹲り身震いの為、砂利を擦るような微かな音にまじり嗚咽の様な声と、シルフィアとセルジオの呼気しか聞こえない。
静寂の中、暗闇の上空で、何かの羽音がかすかに響く。
セルジオの心音が耳洞の中でバクバクと響いている。
石の様に身動きをせず、ゴーレムの音が途絶えてどれくらい経ったのだろうか・・・・
次第に嗚咽の声が只の呼吸音に替わり、セルジオの心音も落ち着いてきた。
シルフィアはまだ目覚める気配も無く肩の上で浅い呼吸と、小便の臭いを漂わせている。
セルジオは静かに少女を床に置き、鹵獲品のカンテラに手探りで魔石をはめた。
カチ・・・・
淡い魔石のカンテラの灯りが辺りを照らす・・・・
「ぐふ!?」
セルジオは鼻水を吹き出し、心臓が口から飛び出す程のショックを受けた。
・・・・・・・・
セルジオは、もう少しで放り投げそうになったカンテラを握り直し、仰け反る体、ガタガタ震える足に渾身の力を込め踏ん張り壁に張り付く。
カンテラの灯りが、幾つもの影を浮かび上がらせている。
その灯りのすぐ正面に有ったのは、頭部に幾つもの宝石埋め込まれたゴーレムが、両手を地に突きのめり込む様にセルジオのメダリオンを覗きこむ、3体の大きなゴーレムだった。
カンテラの灯りで、ゴーレムの頭部の宝石がキラキラと光る。
まったく襲い掛かって来ないが、何かしらの指示を待っているのかメダリオンから視線?を逸らさない。
セルジオは試しに、メダリオンを目の間で左右に揺らすと、巨大なゴーレムは器用に頭を僅かに動かしそれを追う。
「・・・・な、なんとか助かったか・・・・効いて良かった」
セルジオの背中は嫌な汗でぐっしょり濡れて居り、カンテラを握る手もべっとりとしている。
彼の声に、囚人たちもゆっくりと顔を上げるが、異様な光景にその場で白目を剥いて泡を吹く。
「・・・・せっかく助かったのにショックで死ぬなよな・・・・」
セルジオの声で少女も目を覚ますが、囚人の後を追い再び意識を手放した。
「・・・・だから、みんな寝るなよ・・・・」
カンテラの灯りの中、気絶した現地人と対峙するゴーレム&セルジオ。
セルジオは彼等をどうしてくれようか?ゴーレムが何処まで言う事を聞いてくれるか?と思案に暮れるのだった。
ぼつぼつ書いて行く心算です。
書かないと熱が冷めてしまい、随分中身が変遷してしまいました。
本当は、大きな地底湖なんかを考えていたのですが、今後に織り込んでいけたらいいななんて考えてます。
5月も仕事の後処理が残ってまして、どれくらいのペースになるか不明な感じです。
そんな感じでも、” 読んでやっても良かろう!” という寛大な皆さまに感謝と期待をしつつ再開いたします。




