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いつもダンジョンに居ます  作者: ねむねむぴよ
第二部 一章 古の廃城
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188話


 崩れた壁の空隙から、ブニュリとゲル状の液体が噴出した。


 子供の拳大の核をもつゲル状の物体。

 スライムと呼ばれる魔物が何匹も湧きだす。


 セルジオは後ずさり、目を逸らさない。

 彼の知る魔物であれば害はそれほどないはずだ。


 ・・・・


 スライムは、彼の住む寒い地方ではほとんど見ないが、行商人の馬車や荷物などに付いて幼体が訪れることがあった。


 幼体は小指の爪程で、薄く張り付くその体は紛れるとまず見つからない。

 作りの甘い樽に入り込んだりする面倒な虫といった扱いを受けていたが、それ程毛嫌いされていなかった。


 その理由は、スライムが取りついた食糧等は腐り難くく、腐った物を好んで食べる性質により、痛みが移り難くなる為だ。

 老廃物(糞)は殆ど出すことは無いが、極稀に体内で固められ、無味無臭の立方体の結晶に成形して排出される。

 セルジオが嘗て見たスライムも幼体であった。

 露店の店先で、枝肉状の干し肉に取りついた結晶を露天商が叩き落とす。

 スライムと一緒にパラパラと剥がれ落ち、「スライムが喰ってないから痛んでない証拠です!」などと言い、ニマっと笑う姿が印象的であった。


 行商人の話では、ぬしクラスに成ると、泉は沼と言った大きさに成るらしく自力では動けなくなるらしい。 狩りの方法はシンプルで、溺れる獣を待つそうだ。


 幼体は、鼠ぐらいの大きさに成ると活発に動き回り虫などを食べる。

 猫程度で鼠を捕り餅の様に捉え始めるが、犬ほどの大きさから動きがかなり遅くなり、子犬や子猫の玩具にされ逆に喰われてしまうと言う。

 だからか、幼体のスライムはそっと草叢に放たれることが殆どだ。


 そして今、目の前には子猫程のスライムが次々と出現していた。



 ・・・・


 スライムはその体を石の隙間に染みこませ、次々と虫を食べてゆく。


 燐光に照らされた体内には幾つもの虫の外骨格が溶かされ、体内の一か所に集められてゆく。


 中にはブロックごと体内に取り込み、隅々まで虫の残骸を喰らい尽くす。

 何故だか几帳面に自分の後方に丁寧に並べ積み重ねていた。


 「崩れると面倒だからか?・・・・」

 ブロックがいつしか敷き詰められている。

 土が剥き出しだった崩れた壁際の床を覆い、新たな通路が顔を見せていた。


 その側らでは天上や壁の中から現れたゲル状の液体が、甲虫のカスを固め小さなブロックを形成し積んでゆく。


 「・・・・これはスライムの糞なのか? デカいな・・・・」


 セルジオは思わず足元のブロックをしげしげと眺め、再びスライムを見る。

 セルジオの知るスライムの糞は精々親指ほど、しかし其処彼処にみえるブロックは日干しレンガ程の大きさであり、大物のスライムが居る事を現していた。


 次々と現れ、壊れた壁面を覆い尽くす魔物の食欲は旺盛で、セルジオの近くの床面の下まで体を潜り込ませ、石で潰されたであろう虫達を食べてゆく。


 「えぇ? じゃぁ・・・・」


 セルジオは何かに気付き自分の歩いてきた通路を見ると、踏み進んだ通路には足跡の様に点々とスライムの水たまりが出来ている。


 「うげぇ・・・・やっぱり床下に虫が湧いてたか。

 猫クラスでも虫には辛いよな・・・・

 デカいのも居そうだし、天井から落ちてきたら逃げ切れないだろうし・・・・」


 逡巡するセルジオはスライムを踏まない様に、すでにスライムが食べ終わった石敷きの通路に身を移し様子を窺がう。


 察しの良い個体達は石の隙間から這い出て、通路の奥へと群れを成して逃げてゆく。

 管虫は更に深く潜るのか、表には出て来ない。


 スライムは、まだ虫の残る通路に向けグジュグシュと這い進んで行く。


 「ここは、スライムの巣?・・・・って訳でもないのか。

 でも、虫の居る所に必ずスライムが集まってくるのは嫌だな・・・・」


 セルジオは近くにいるスライムの体内で消化されていく虫の様子を観察し、えずく。



 ・・・・


 一頻ひとしきり観察した後、崩れた壁の向こう側を調べた。


 土肌剥きだしの壁面が多く、一部石敷きになっているところも見られる。

 如何せん灯がなく、暗闇の奥を見通すことができない。


 「なんか大きな魔物が這いまわってるみたいだし、こっちは無しだな・・・・」


 スライムの這いまわる壁に気を付けながら、頭だけを壁の向こうに出し、今の通路と接する湾曲した通路の先を一応確認し、再び通路の先へ慎重に歩んでいった。

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