169話
大ガザミが、高い城壁からずり落ちてくる。
ガギギギギガガガガガガァ・・・・
ズズズーーーン!!
自重を支えきれず城壁から転落した大ガザミが崩れた建物の瓦礫に突き刺さり仰向けに転倒した。
蟹の足が空を掻く。
ガザミの一番後ろ足は先端が平たく、団扇のように風をおこしている。
「ヤバいぞ! 奴は水中の方が得意なんじゃないか!?」
小柄男が叫ぶ。
「いいから、ラットも早く漕いで!!」
狩人風の女性が、小柄な男に叫んだ。
大ガザミが、自分の鋏で体を逸らせ起き上がる。
そして、地面に落ちている身動きしない甲虫を摘み上げ口に運ぶ。
ゴリゴリゴリゴリ、ガリリリリリ・・・・
石臼に石が噛んだような硬質な擦砕音を響かせながら、甲虫を咀嚼してゆく。
泡を噴く口元から、中身を濾しとりボロボロと甲虫の殻を吐き出している。
「「「セイ! セイ! ヨイナサ!」」」
大斧を背負ったブロッソが舳に陣取り、小舟の中央に聖職者、手前にラットが陣取りオールで水を掻く。
小舟は加速し西の浅瀬に向け進んでゆく。
「イルミナ! 舵取り頼む!!」
ブロッソがオールで水を掻く毎にグン!と加速する。
「まかせて!・・・・何?」
狩人のイルミナが舵を取りながら異変に気が付いた。
ここ最近水位が随分下がった濁った湖は、随分澄んできていた。
数メートル下まで透明になった水の下、まだ濁った水位の層が大きく揺らぐ。
それは濁った水が動いただけではなかった。
グワン・・・
湖面自体が大きく持ち上がった。
「何か下にいるわよ! 急いで!!」
イルミナが舵を取りながら皆に檄を飛ばした。
ドバァァーーーン!!!
大ガザミが水中に飛び込んだ。
湖面が大きく窪んだ後、水飛沫が舞い上がり、大波となって小舟に迫る。
「きゃぁぁ!!!」
大波によって更に岸に向かって加速するが、船の下の水ごと岸へ運ばれ舵が効かない。
イルミナは座り込み、ラットと聖職者が彼女が水に落ちない様に抑え込む。
ドッボオォォーーン!!
小舟の側で、大波とは別のうねりが起き水面が持ち上がる。
湖は先ほどの大波で水が掻き混ぜられ、すでに透明度はない。
しかし、そこに大きく堅そうな角鰭が水面に突きだされ、角が沈み込んだと思うと巨大な尾びれが湖面に切るように通り過ぎた。
硬質な金属光で尾がキラキラと光る。
特徴的な頭部が一瞬、小舟の下を通り過ぎる。
そして、巨大な甲冑魚の尾びれが湖面から立ち上がり、倒れ込む様に水面を叩く。
バチィン!!
衝撃波が湖面を水平に広がる。
ドガガガ バギギギ・・・・
至近距離で衝撃波を受けた小舟が粉々に砕け飛んだ。




