168話
遅くなりすみません。
年度末の精神汚染より幾ばくか、回復?しました。休み休みになりますが、お付き合いください。
日差しが降り注ぐ強い瘴気が漂う廃都の路地に、荒い息と足音が響く。
「はぁはぁは・・・・固すぎるぞぉ」
白乳色の粘液が滴る大斧を担いで走る男が零す。
半乾きの泥が広がる石畳を、四人組みの冒険者の一行が走り抜けた。
体格の良い大斧を持った男が、後ろを振り返る。
ザザザザザザザザ・・・・
彼らの後ろには、群れとなったフナ虫の様な甲虫が彼らを追いかけている。
各々が中型犬程の虫が、波のように背後に迫っている悍ましい状況だ。
彼らの走りすぎる足元からは濛々と土埃が舞い上がり、甲虫の後方は濃霧の様な靄に包まれている。
「そこの角を右!!」
聖職者風のローブをまとった男性が叫ぶ。
彼は、ヌメヌメとした得体のしれない物に覆われた真っ黒な石材の建物の辻を指さす。
「判った!!」
先行する狩人風の女性がちらりと振り向きそれに応じた。
甲虫の群れに追われた一行は彼女を追い辻を曲がった。
「「「 !!? 」」」
一行は、強烈な腐臭とヘドロ臭に顔を顰め、佇む狩人の背を見て立ち止まった。
狩人の女性の向こうに、遠近法がおかしい?と思える程の、建物より大きなガザミの姿があった。
ザザザザザザザザ・・・・
彼らの後ろに迫っていた甲虫も辻を曲がる。
しかし、大ガザミに気が付き建物の隙間や岩陰に素早く隠れ気配が消える。
ブブブブ・・・ブクブブクク・・・・
巨大な土筆の様な大ガザミの目がぴょこりと立ち上がる。
大ガザミはヘドロ臭を振りまく泡を吹きながら、パーティに体を向けた。
ゆっくりと一際大きな右腕の鋏を向け、ゆっくりと鋏を開く。
「何か来るぞ!!」
大斧の大男が皆の正面に仁王立ちになり、大斧の刃を盾の様にし腰を落とす。
彼の後ろに、聖職者・狩人・小柄の短剣を構えた男が逃げ込み、聖職者が祈祷を行っている。
ガチン!!
頭蓋の中を揺らすような、破裂音に近い音とともに体を突く様な衝撃を受ける。
「ブッ!!グッ・・・・」
大男が鼻血を吹き出し、白目を剥きそうになる。
「ブロッソ! 薬草噛んどけ!!」
小柄の男が、ブロッソと呼ばれる大男の口に匂いのキツイ香草の様な薬草を押し込む。
頭を振りながら顔を上げる。
彼の眼光は衰えておらず、大男が再び構えを取る。
大ガザミは大鋏を下げると、その対になる小ぶりの鋏と、更に一対の小鋏が姿を現した。
水の外では重いのか、大鋏は地に下ろし泥を掻きながらこちらににじり寄ってくる。
「蟹のくせに前に進みやがる」焦る冒険者。
「デカいから遅い?!」狩人が告げる。
もともと水中で活動していた化け物達は、住処が突然水上に出てしまい戸惑いながらもそのままそこに居続けていたようで、陸上の動きに順応しきれていない。
「股下を潜れ!! 鋏の向きに注意しろ!! 今だ!行けぇ!!!」
聖職者の叫び声に合わせ一行がダッシュする。
パチパチと小鋏を開け閉めしながら迫る大ガザミは、自分の体の陰に隠れた冒険者を見失い左右の目を立てたり倒したりを、その場で繰り返す。
そんなガザミを横目に、愚鈍な動きに拍子抜けの冒険者達はバラバラに散開して蟹の股下を通りぬけた。
ドン ガッリリリィ
袂から離れた冒険者に気付き、追跡を開始する大ガザミ。
泡を吹きながらゆっくりと向きを変えるが、図体が大きすぎ建物に体がつっかえた。
体を揺すり、足で石畳を掻く。
冒険者は振り返らず大通りを駆け、潜入時に使った小船の下に向かう。
ド、ドドド、ドロロロロロロロ!!!
横向きになった大ガザミは、先程とは比べ物にならない速度で追撃してくる。
幾つもの足が鶴嘴のように振り下ろされる、足元の泥が飛び散り時折火花を上げる。
「拙い! 追いつくぞ!! 路地へ退避!!」
「判った!! 二つ先の路地に入る!! 続いてぇ!」
聖職者の声を聴き、狩人が自分達の通り抜けが可能な路地に進路を変える。
一行は、ぬかるんだ足下の泥で滑りながら路地に逃げ込む。
ガガガガッガガガッガリリリリリリリイリリ!!!
大きな躯体を急減速させるため、大ガザミが足を踏ん張るが慣性を殺せずぬかるんだ路地を滑りバランスを崩した。
ボ、ボゴン!!
大ガザミの幾本かの足が、自重に耐えきれず折れ飛ぶが、普通の蟹より多くある他の足が耐えその勢いのまま冒険者の路地へを突き刺さる。
「わぁ・・・・くっ来る!!」
小柄な盗賊の様な装備の男が叫ぶ。
ドガガッ!! ガリガリガリガリ・・・・ズン!!
土煙が辺りを包む。
「ゴホゴホ、ペッペ・・・うげぇ臭せぇ・・・・」
盗賊が口に入った泥を吐き捨てる。
腐臭とヘドロ臭の混じった泡と粉塵が一行に降りかかった。
「みんな無事?!」
狩人の女性が弓を構えたまま、状況を確認する。
地面に突っ伏した大男がゆっくり立ち上がる。
聖職者が祈祷を捧げ、淡い光に包まれた皆の荒い息が次第に治まってゆく。
「ここはヤバいって、早く避難しようよぉ」
挙動不審な狩人の女性が、周囲を警戒しながら皆に告げる。
土煙が晴れ、建物に挟まり地面をガリガリと引っ掻く大ガザミの足が見えてくる。
三階相当の高さのある建物の路地に勢いよく体が突き刺さり、向こう側の足は地に付かず空を掻いている。
「動けない・・・・って助かった? 助かったんだよな? 」
盗賊風の小柄の男が聖職者に問う。
「そうですね、しかも長居は無用、急いで戻り報告をしましょう」
大ガザミにはいつの間にか甲虫が張り付き、砕け折れた足より滴る肉を食んでいる。
ガザミは痛覚が鈍いのか、何事もない様に齧られる脚で地を掻き、間の悪い甲虫をゴリゴリ磨り潰す。
「甲虫の注意が蟹に向いてる。今です、移動しましょう!」
狩人に促され移動を再開した。
甲虫を避け回り込む様に路地裏を駆け抜ける。
土塀や木戸に見える全てが黒い石のような材質であり、その表面に張り付く藻の様なものがヘドロ臭と腐臭が辺りを覆い尽くしていた。
パーティのメンバーも口を布で覆いながら素早くその場を駆け抜ける。
「こんな所に長くいたら、変な病気になりそうだなぁ・・・・」
大斧のブロッソが愚痴りながら壊れた城壁の岩を登り外にでる。
城は湖の中央近くに孤立した状態で佇んでいる。
臭気と瘴気で景色が歪み、湖岸がゆらゆらと歪んで見えた。
冒険者の一行は、崩れた城壁の下に結わえられた小型の船に乗り込む。
狩人が瓦礫の一部、大岩に掛けたロープを解き、ロープを丸めながら小舟に飛び乗った。
古城の西側の山肌は先の隕石で大きく削られ、その時の土石流が湖を埋め立て城と陸続きになっていた。
「湖に何が住んでいるか解ったもんじゃない、一番近い西側に・・・・」
ガリリリリリ!!! バキン!!
城壁を乗り越えた幾つもの足が足場を捉え、その巨体を城壁にこすり付ける耳障りな軋み音を響かせた。
そして、大鋏で発生させた衝撃波が、大ガザミに取り付く甲虫の中身を、衝撃波で掻き混ぜた。
蟹は、パラパラと体から甲虫を振り落とし城壁を乗り越えなかがら、再び冒険者の前に再び現れた。
新ダンジョンに手を付けしっくりこず。
皇国に手を付け話が脱線し、それならやっぱり城?と為りました。
四万文字ほど書きなぐったのですが、そちらも、そのうちリサイクルするつもりです。
では、二部のプロローグアップします。




