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いつもダンジョンに居ます  作者: ねむねむぴよ
第一部 四章 そして全ては砂塵と化す。
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164.5-2話

グナール回収話です。


 皇帝から許可を得たグナールは、彼の部下と皇女派の貴族兵と共に、食糧調達名目で戦線を離脱してた。


 彼はシャロン皇女の姿を見て、漸く自分が嵌められた事に気付いた。

 皇国の反皇帝派は聡明な彼女が疎ましく、御し易い俗物の長兄である皇太子を唆していた。

 シャロン皇女は少々おてんばであるものの、母を早く無くした為か前皇帝を慕っていた。

 思慮深く聡明な彼女が、皇国の惨状に気が付き憂い『自分に何かでき無いものか?!』と考え行動することはグナールにも容易に想定できたのだ。


 彼女が頼ったのは異国の商人であった。

 疫病が蔓延する、きな臭さが漂う皇都の老獪な貴族が、彼女を孤立させることは容易かったはず。

 元老院議会で出兵が決まり皇帝の発言力が急激に失われる中、敬愛する父への助力の為、彼女が極々少数の人員を連れ独断で皇都を発つと、狙ったように次々と彼女を貶める内通が皇宮に届くようになった。


 グナールは当時、近衛隊長の任に付いており、シャロンの父である皇帝から直接調査を依頼された。


 グナールはシャロンを疑っていなかった。

 しかし、出てくる証拠はことごとく皇女が黒であるとの結論に結びつく。

 今考えても、証拠が揃い過ぎているのだ。


 グナールは悩んだ。

 皇女を庇える証拠が何も出て来ない。

 「不自然すぎる! 今までの彼女の評価は一体何なのだ?!」

 皇女付きの近衛兵達が、彼女が潔白だと直訴すると息巻くが、彼はそれを諫めた。

 グナールが今になって自分が誘導されていたと確信していた。


 ゴートフィッシュに居た彼女の顔を見た時、そう気付いてしまった。

 『俺が追い詰めたのか・・・・』

 忠臣と思われていた家臣たちが捜索の網に次々と掛かる。

 全て良かれと思い行動したであることは容易に理解できるが、法に照らせば違法。

 前皇帝の取り巻きを、自分が取り除いてしまった。

 グナールは血の涙を流し悔やんだのは、前皇帝崩御の知らせを受けたのは進軍中の事であった。


 責任転嫁だったのかもしれないが、彼は皇女を恨んだ。

 だが、彼女がそんな老獪で陰湿な企みを実行する人物ではないことも解っていた。


 そして、ゴートフィッシュの当主に・・・・

 「シャロンの罪が冤罪だった場合を考え、彼女を許せる、彼女を信じる者達を、軍の後方に下げ要らぬ手心が加わらない様に、取り計らえますか?」


 彼に言われたとき、グナールの中で何かが繋がった。

 『彼女の冤罪は疑いない、帰る場所を確保しろ』

 そうしなければ皇国が滅ぶと言われた気がしたのだ。


 一代でしかも一年にも満たない間に、王国をも凌駕する蓄財と人脈を作り上げる人物が、言葉通りの忠告を送るはずがない。


 手心とは、皇国の元老院や彼女を嵌めた商人の術中謀略・・・・兄の愚行も含んでいるのだろう。

 彼女を未だに信じて疑わない者をすべからく守って見せろと・・・・

 そして、彼女を許ゆるせる・・・・武力でなく交渉をもってそれを成せと・・・・

 それを自分に取り計らえと・・・・


 それにはこれを使えと、薬草茶にそのレシピまで忍ばせてあった。

 彼の事だ、これをシャロン皇女の名で広めよという事だろう。

 グナールは、彼がどこまで深淵を見透かしているのか、恐ろしくなる。

 「人は見かけに寄らない・・・・それを地で行く人物だったなぁ」

 食料調達の一行を引き連れながら思わず零してしまう。


 ・・・・


 街道筋に、皇国の荷馬車が捨てられていた。

 セルジオに持たされたレシピに書かれているまじないを、魔法の心得の在る者に行わせた。

 荷馬車の食料から僅かに魔力が抜ける。

 大半が食べられる状態で見つかったことは行幸であった。


 そこでグナールは思慮する。

 この食料を本軍に持ち帰るか、それともこの食料を使い一部の部隊を皇都に向かわせるか。

 本隊からは馬でも一日は掛かる距離となっていた。

 日が沈み夜のとばりが降りる。

 星に手が届きそうな夜空をみながら、グナールは明日の朝決断しようと問題を先送りにした。


 ・・・・


 朝風はまだ肌寒く息が少し白くなる。

 朝日を浴びてグナールは決断した。


 皇帝に敵前逃亡の咎で死刑を賜ろうと皇都の民をシャロンの名で救おう。

 その為には自分は軍門に下る為戦線に戻らなければならない。


 最後の食事になるかもしれない、食料を口にする。

 恐怖は無い、いっそ清々しく感じられる。

 前皇帝の信に、これで漸く答えられるだろう。

 セルジオ卿の希望通りとはいかないが、それは仕方ない事だ。

 死んで詫びるのだ、これで・・・・楽になれる。


 グナールは部隊の者一人ひとりに別れを告げる。

 セルジオ卿であれば、皇女を盾にしたりせずその命を最後まで守ってくれるだろう・・・・

 そう信じたい。


 朝日に向かい独り言ちる。

 「セルジオ卿よ、これで良いだろう?  俺にできる手は打ったぞ!

 さすがにお主にも10倍の軍隊に、成す術ははなかろう。 ハハハハ!

 次に合うのは、地獄か天国か・・・・


 ・・・・まて、皇国にも鳴り響く名声を持つセルジオ卿がそう簡単に諦めるのか? 」


 グナールは背筋に冷たいものが奔る。

 軍から我々を切り離した・・・・

 ここまでの策を弄する智将・・・・

 10万の兵をものともせず蹴散らす何かがあるのか?!


 グナールが昇って行く朝日に向かい、勘繰りすぎだとおもいつつも零す。

 「セルジオ卿よ、退けれるものなら、退けてみよ!」


 『わかりました、そうしましょうか・・・・』

 何故だか、村人と見まがう青年がはにかみながら答える姿を想像してしまう。


 グナールが要らぬ感傷に浸ったと日の光を全身に再び浴びようと天空に上る太陽を見た・・・・


 シュルルルルルルル!!!

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!

 彼の視線の先、遥か虚空に幾筋もの流れ星が見える?!


 「・・・・何だ? あれは?」

 空気を切り裂き飛びすぎる、幾筋もの光を追うよに空が割れ、火球が現れる。


 ドドドドドドドド!!!!


 火球は真っすぐゴートフィッシュ領に向け飛翔している。

 「セルジオ卿!!!! お主は何をした!???」

 全身に鳥肌を立て、グナールが叫ぶ。

 『お、俺の問いに答えたのか?!』

 グナールは疑念が心の中で渦巻くのを無理やりねじ伏せる。


 火球の後ろに、続く火球。

 その後、更に一回り大きな火球が姿を現す。


 「セ、セルジオ卿! そなたは星まで操るのか?!」

 グナールは馬に飛び乗り、ゴートフィッシュ領に向かう。

 彼が引き連れていた三千を切る部隊から、200の騎馬兵が彼を追った。


 西の山中が激しく光る。

 不自然に立ち昇る雲。

 急激に成長する雲の上空で稲光が見える。

 遠目に、突風が標高の高い周辺の山肌を撫でているのがわかる。


 ズズズズズズンンンン・・・・・

 遅れてくる地響き。


 上空の火球が再び同じ場所へと吸い込まれていく。


 カッ!


 先程とは違う閃光が空を白く照らす。

 灰色の雲が吹き上がるが、不自然に四角く切り取られ、上空へと立ち昇る。

 「や、やはり人為的なものか!? ま、魔法なのか!!」


 ズズズズズズズガガガガガガガンンン・・・・

 先よりも激しい地鳴りに馬が怯え馬脚が乱れる。


 そして三度、一回り大きな火球が天空から彼の地へ降り注ぐ。

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・


 ビガッ!!


 真夏の太陽の様な光が天空を焼く。

 灰色の雲を更に高く上空へ拭き上げるが、左右を断ち切る様に立ち上がる境界線が突然曖昧になり赤色の雲が湧水の様に周囲に流れ始める。


 ガタ・ガダダダダダダダダダダダダダ!!!!!!

 凄まじい揺れが地面を伝う。


 赤色の雲が触れた山肌が焼けているのか、さらに雲を生み、高く高く天空へ吹き上がって行く。


 雲が、地を凄まじい速度で流れゆく。

 グナールの要る場所は運よく風上であり、迫る雲が減衰しひしゃげて行くのが解る。


 「・・・・あんなものを身に受け生きておけるものなのか?」

 馬が怯え震えている。

 後続の騎兵も立ち竦み微動だにしない。


 彼の地は赤い雲が一帯を焼き払いモウモウ黒煙を拭き続けている。

 「隊長・・・・シャロン殿下は・・・・」

 震えながらも駆け寄って来た部下が彼に尋ねる。

 「わ、わからん! しかし彼の地の状況を確認せねばならん!」

 そう答えるグナールも、なわなわと震えるの手を止める事ができなかった。



 ・・・・


 グナールと騎兵の一行はゴートフィッシュ領に向けて馳せる。

 一昼夜走り続ける事はできず途中幾度か馬を休ませたが、山中に入ってからはまだ冷めない焼けた石がいたる所で赤黒く燻っていた。

 道なき道を突き進み翌朝漸く目的地にたどり着いた。


 湖が二つになっていた。

 グナールが知っている緑に覆われた湖畔の村は跡形もなく地形自体が様変わりしており、どこがセルジオ館が有ったかも判らなくなっている。


 騎兵等の表情が固い。

 10万の兵が集結したはずの場所が、巨大な煮立つ湯の溜る湖になっているのだ。

 「ど、どんな魔法を使えば、自国の領地を地獄に・・・・いや、そもそもそのような魔法を何故使える?!」騎兵の一人が傍らで身震いしながら呟く。


 領土事態を不毛の荒れ地に変えてしまっては、戦争どころではない。

 民も農地もすべて焼き尽くし、どうやって・・・・

 いやその前に村自体が無くなっているではないか?!


 「グナール隊長、念の為白旗を掲げておきますか?

 これを行った魔法使いが生きていれば、我々に勝機はありません」

 グナールは頷き視線を送り、呟く。

 「とても生きているとは思えぬが・・・・」


 元の湖から、轟々と水が流れ込む新たな湖。

 地面が焼けているのか、ゴボゴボと土を煮立てた独特の匂いが漂い湖から立ち昇る。

 そして、元からある湖の中ほどに幾つもの尖塔をもつ城影が浮かび上がっている。


 「し、城がある」

 湖の中から異様な靄をまとった城が見えている。


 「!!・・・・」

 人の声がした気がした。


 元の湖の位置から当りをつけ山道を登って来たが、間違っていなかった。

 数キロ先の山頂に近い場所から、一人の少女が駆けてくる。


 遠目の効く者が叫ぶ。

 「髪を下ろして居られるが、シャロン様です!」

 皇女付き近衛兵も混じっていたため、部隊から歓声があがる。

 「あの中を生きて居られた!!!」

 「シャロン様 ご無事で!!」

 次々に馬をおり、彼女に駆け寄り傅く。


 一同と一緒に傅いたグナールは、佇むセルジオの姿を視界に収め呟いた。

 「触れてはならざる者、セルジオ卿 恐るべし・・・・」


 かくして、皇都でのセルジオの二つ名が決まった瞬間だった。

 

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