164話
早朝、大軍が移動する。
長靴が地を踏みしめ地響きのような音が不気味に響き渡る。
とはいえ、それを聞く者は要石に留まる者とセルジオ周辺に侍る極少数の人員のみである。
開戦半刻程前になる、カジミールが空中に魔法を放つ。
それは高く高く舞い上がり、空中で炸裂する。
パン、パンパンパン!
魔力を含んだ発破音、それを合図に所定の地で魔力の胎動が感じられる。
薄い被膜のような靄が地面を区切る、靄は魔法陣を描くように大軍の回りを取り囲み、地面から湯気を吹き上がるようにゆらゆらと漂い始める。
可視できる者は魔力を操るものだけという微量な揺らぎ、セルジオ仮館から見下ろしても、認知することは出来ない。
要石の人員が簡易転送石を使い次々とセルジオ仮館のオベリスクに帰還してくる。
彼等の手の中の転送石は役目を終え、砂となって風に舞った。
カジミールが詠唱を開始する。
彼の手には、セルジオの石鋤を模した踏み鋤が握られており、その光が遥か天空に伸びていく。
『虚空を漂うものに告げる。我が招きに答えこの地へ誘わん。
地と天を結ぶ導に従い、その身を預け、聞き従うべし。
此は古の盟約の地、我が名はカジミール。』
「 あっ・・・・」
トランス状態のカジミールが呟き共に我に帰る。
「せ、セルジオ殿・・・・少し大きな物が途中から割り込んできました・・・・
強すぎるかもしれません・・・・」
カジミールが脂汗を流している。
彼の徒弟はその意味が解るらしく、途端に挙動が怪しくなる。
「ど、どうなるのですか?」
セルジオが恐々尋ねる。
「本当の意味で、この辺りは跡形もなく消し飛ぶかもしれません・・・・」
開戦のラッパが吹き鳴らされる。
敵軍の陣から時の声が上がった・・・・
朝の空に幾つもの流れ星が見える。
パン! パンパン!!
虚空の更に上から、何かが爆ぜる音が聞こえ、流れ星が空一面を埋め尽くす。
皇国軍が異常を感じ空を見上げた。
天が割れた!
傍から見れば、一大天体ショー・・・・
空中で弾けながら幾つもの光の筋となって東の空から放射状に降り注ぐ流星の雨。
ドォオオオオオオオォォォォォンンン!!!!
一際大きな音と共に、巨大な火球が東の空に現れる。
地面に何かの波が降り注ぎ木々がなぎ倒される。
皇国軍で地に立つ者は居ない。
全ては地に伏せて身を丸くしている。
ドドドォオオオオオオオォォンンン!!!
火球の更に後ろから次の火球が現れる。
皇国兵は完全にパニックである。
空一面を覆う流星から逃げる場所は無い。
最初の火球が湖に落ちる。
ドドドドドドドドドオオオオオオオオオオオ!!!!
湖の水が撒き上がり雲を作る。
隕石は跳石の様にバウンドし対岸の山肌を抉る。
ズガガガガガガズゥゥンンン!!!!!
その衝撃が皇国軍を襲う。
岩肌が榴弾となってヒュルヒュルと音をたてながら周囲に四散する。
「セルジオ様!!撤収!!!撤収です!!!! お急ぎください!!!」
セルジオはカジミールに襟首を掴まれオベリスク転送陣に引きずり込まれた。
世界が歪む。
気が付くと、新ダンジョン手前オベリスクに居る。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!!
先ほどの倍、更に大きな火球が天を突き抜けこちらに飛んできている。
「あれは、結界陣では保ちません!! 急いで新ダンジョンへ!!!!」
カジミールに従い新ダンジョン入り口、要石に触れる。
激しく地面が揺れる。
二個目の隕石が湖の手前に落ちた。
新ダンジョンの入り口が閃光で真っ白に塗りつぶされる。
次の瞬間。
セルジオ達は、新ダンジョン内、亜熱帯の景色の見えるダンジョン入り口に転送していた。
「・・・・やり過ぎじゃない?」
セルジオは鼻水を垂れながら、すさまじい風景を反芻している。
「いやはや・・・・流星群を呼んだのですが、中に大きな物が混じっておりまして、ハハハハハ」
カジミールも乾いた笑い声を出しているが、被害の大きさを思ってか、表情が固い。
新ダンジョン内は物見有遊山のお祭り騒ぎ、外の様子などまったく感じず。
いたって和やかな風景だ。
『セルジオ様! 新世界にお招きいただきありがとうございます!!』
『セルジオ様!! セルジオ様!!』
セルジオコールがすさまじい。
「えっと、セルジオ村ってどうなってるでしょう・・・・」
セルジオが心配になってカジミールに尋ねる。
「・・・・名実ともに跡形もなく消し飛んでいるかと・・・・」
カジミールがしれーっと答える。
「それを誰が説明するの?」
セルジオが更に不安になってカジミール尋ねる。
「それは、やっぱりご当主様のお仕事かと・・・・」
カジミールが少し申し訳なく思ったのか少しうつむき加減で伝う。
セルジオは彼を湛える呼び声のなか、膝と両手を地面について一言つぶやいた、いや叫んだ。
「みんなごめん、全部消し飛んだ・・・・って言えるかぁ!!」
12時 ポチ!




