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いつもダンジョンに居ます  作者: ねむねむぴよ
第一部 四章 そして全ては砂塵と化す。
192/256

162話


 10万の兵士が数か月活動するための兵糧は凄まじい物量であり、判別の難しい魔法を兵糧に潜ませる。それだけで大組織に機能不全を起こさせるに十分な工作なのだ。


 魔法はまず少量の兵糧に感染し、備蓄された倉庫や荷馬車で蔓延。

 遅延型の魔法で、急激に腐らすのではなく、カビや菌の増殖を助け食糧を変質させる。

 その変質は気温や環境に関係なく時間の経過を伴いある一定の時間で確実に発動する。

 穀物やパンは麹のように毛羽たち、加熱されたワインでさえ酢に変わり、乾燥させた肉は腐臭を纏う。


 疫病魔法に改良を加えた対抗戦術として、ターニャの取った工作であった。

 しかし、皇国軍は兵糧を軽視しているのか行軍を辞めず、ひたすらゴートフィッシュ領を目指す。

 腹痛と下痢で櫛の歯が欠けるように戦線から落伍する兵士達がいる中、気力のみで突き進む兵士達。

 顔色が悪く目は落ち窪み、吐瀉物と胃液と下痢の異臭に包まれた軍隊。

 その様子が如何に異様か、後に猟師や旅の商人が伝えてゆくことになる。


 ・・・・


 兵糧の痛みが激しく、兵士達は食糧の現地調達を行わねばならなくなる。

 行き交う商人の持参している食糧を半ば強引に徴収するだけでは足らず。

 周辺地域に兵をだし食糧を探す。

 だが、ゴートフィッシュ領に近付くにつれ、徴収部隊は異様な状況に出くわす。


 皇国兵は困惑していた。

 行く先々の集落が無人なのだ。


 家畜の類も残っているものは稀で、残っていても全ては野に放たれている。

 食料の備蓄はない。 いや、あるのだが胡散臭気に村の中央に積み上げてある。


 しかも、集落には火はかけられておらず、住んでいた住人の移動した痕跡がないのだ。


 「荷馬車は残ってます! 食料はどうしますか?!」

 「・・・・胡散臭いが回収して行く!」

 兵士たちは荷馬車に食料を積み込み、自軍に合流して行った。


 ・・・・


 皇国軍の本体は大蛟のように長い列を作り、セルジオ村に進んでいる。


 その列の中央、周囲に幾重もの近衛兵に守られた瀟洒な馬車の中から嬌声が聞こえる。

 「お、おやめください。 声が漏れます。 あぁぁぁぁ・・・・」

 数名の若い女性の声が漏れ聞こえる馬車の側らに、あの特使の姿があった。


 「皇帝閣下、宣戦布告を通告してまいりました」

 「大儀であった。 彼の地の様子はどうであった?」

 若い男の声が、馬車から聞こえる。

 「はっ、未だ戦の準備は行われておらず、皇都のごとき活気にあふれておりました。

 それに・・・」

 「なんだ? 申してみよ」

 「はっ、シャロン殿下が彼の地にて囲われておりました。」

 「なんと、殺されず幽閉されておったか?」

 声に驚きが混じる。

 「いえ・・・・ゴートフィッシュ家執務室で拘束もされず自由に行動しておりました」


 ゴトン!ガバ!!

 何かを倒す音に続き馬車の戸が開かれる。

 「な、なんだと?! あのジャジャ馬が篭絡でもされたと申すか?!」

 齢は若いが、丸々と肥え太った男がパンツも履かず姿を現す。

 頭に青筋を立て唾を飛ばしながら叫ぶ姿に威厳の欠片も見当たらない。


 「籠絡されたかは判りませんが、薬草茶なる、病気の特効薬を入手いたしました・・・・」

 話をはぐらかされ、気持ちが荒ぶる当代皇帝がグナールを睨む。

 彼の目には、今にも倒れそうだった隊長の元気な姿が目に入る。

 「・・・・その薬を、寄こせ!」


 皇帝の後ろから、半裸の女性達が逃げるように馬車から出てゆく。

 「はっ、これに・・・・」

 見本となる包みを皇帝に差し出す。

 「量は如何ほどあるか?」


 「全軍に回る程は・・・・」

 グナールが申し訳なさそうに傅く。


 「・・・・いやよくやった、褒美は何が良い?」

 皇帝は、今渡された物が全てであると勘違いをしたのか、包みをしっかり抱え込む。


 「一つ忠言を行っても良いでしょうか?」

 「申してみよ」

 皇帝は従者に命じ、お茶の用意を申し付け振り向く。


 「シャロン殿下が存命でありますゆえ、殿下が姿を現せば軍が割れるかと・・・・

 シャロン殿下子飼いの部隊は後方に下げ、監視を付けるのが良いかと存じます」

 グナールは視線を下げたまま皇帝に伝う。


 「・・・・解った。 監視はそなたに任せる。よきに計らえ!」

 「はっ!」


 グナールは自分の部下とその家族分、そしてシャロンの子飼いの軍に回るぎりぎりの量の薬茶を確保していた。

 当然それを告げずその場を辞した。


 馬車の中から、高笑いが聞こえる。

 勝ち戦だ、占領すれば英雄だ、富も権力も己が物だといった支離滅裂な雄叫びがグナールの背後から聞こえる。

 グナールは前皇帝の近衛兵の一人であった。

 当代皇帝も幼少から知っている。しかし彼はシャロン帰国の準備の為、幾ばくかの尽力は惜しむまいと思うのだった。

3時 ポチ!

少し短めです。

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