160話
カジミールの報告が終わった日から6日後、記念石柱の設置が終わった。
そして、それを見計らったように、皇国からの降伏勧告が特使によってもたらされた。
セルジオ仮館、執務室に特使を交えたいつもの面々が集う。
この度はその場にサラとシャロンが同席を許されていた。
「・・・・売国奴の女が居るとは・・・・」
開口、特使はそんな言葉を吐き、高圧的に要件を伝えてくる。
「我々は蛮国からもたらされた疫病、皇国の民草の病魔の蔓延を憂い、挙兵した。
蛮国領地およびその周辺の平定をもって、病魔の原因を探りその賠償に当てる。
この申し出は決定軍事事項である」
高飛車に申し出る、特使も疫病に犯されているのか顔色が悪く咳き込み、こちらに魔力を帯びた疫病を撒き散らそうとしている。
「お加減が芳しくないようですね、薬草茶は御口に合わぬかもしれませぬが、一服されてはいかがか?」
元村長が同じティーポットから注いだ薬に口を付けながら、特使に飲み物を進める。
尚、執務室の面々には同じ飲み物が既に配られ、口にしている。
特使の面々が薬草茶に口を付ける。
効果は芳しく、飲み物を飲みほした特使は深くため息をつき目を見張る。
「当主より皇国側への薬草茶の提供を行う準備が有ります。
要らぬ諍いを招かずとも、ゴートフィッシュ家と皇国には良き関係が築けると思いませぬか?」
元村長が薬草茶に視線を落したまま、呟くように零す。
「家宰殿、この申し出がもう少し早ければ・・・・いや詮ない事。
皇国は賠償を求めて居るのです。
疫病の根源を打ち滅ぼし、蓄えらえた巨万の富をもってそれを贖うと言う考えは、もはや変わりません」
特使も薬草茶のお代わりに口を付け、体調が回復して行くのを感じながら口を開く。
「皇国は・・・・嘗ての皇国と変わってしまいました。
首脳陣は病魔憎しだけでなく、ダンジョンのもたらす恩恵を欲している。
ゴートフィッシュ家がたまたまダンジョンを所有していた、運が無かったと思うしか無かろう・・・・」
彼は、特使とは思えぬ感想を私的に述べている。
「そうですか・・・・」
「吾輩も軍人である以上、皇国の盾であり鉾である。
民草の怒りや悲しみも理解したうえで、御当主の申し入れに心を動かされぬわけではないが・・・・」
特使はちらりとシャロンを睨む。
「・・・・身中に救う虫、バルザードは既にかなりのところまで貴国を腐らせてしまったようですな」
元村長が一石を投じる。
「・・・・」
特使も心当たりがあるのか、口をつぐむ。
「其方は10万の兵、こちらは1万にも満たない私兵のみ・・・・と、お考えのようですが侮られると痛い目をみますぞ?」
元村長が攻守を変え特使に告げる。
「フン、地の利があったとしても10倍の戦力差には抗えまい。
双方既に覚悟は決まっておるという事であるな・・・・
改めて伝う。
皇国はゴートフィッシュ家に対し宣戦布告する。
貴領の私兵の勇猛さを楽しみにしておくとしよう、ハハハハハ! 」
偉丈夫の特使が愉快気に高笑いする。
カジミールがムッとした表情を見せる。
頭を振り、元村長が溜息をつく。
ターニャは冷ややかに微笑み、シャロンは褐色の肌を蒼白にし唇を噛んでいる。
沈黙が執務室を覆う。
「あのぉ・・・・特使の方・・・・」
何故か、セルジオが口を開く。
席を立とうとする特使がセルジオを睨む。
「セルジオです。 当主をしています」
セルジオは執務室の当主席から立ちあがり、特使に視線を向け言葉を紡ぐ。
「ダンジョンに兵を送り込むとどうなるか、噂をきいてませんか?」
セルジオは特使の挙動を伺う様に尋ねる。
「特使、皇国軍隊長グナール。 世迷い事の噂であれば聞き及んでいる。 それが何か?」
「要らない話と聞き流しても良いです、もしもの事を考え・・・・
シャロンが無実の場合、帰国できる様取り計らえますか?」
特使が固まる。
シャロンも冷や水を浴びたような間の抜けた顔をしている。
そんな中、セルジオを知る者は朗らかに笑っている。
「シャロンの罪が冤罪だった場合を考え、彼女を許せる、彼女を信じる者達を、軍の後方に下げ要らぬ手心が加わらない様に、取り計らえますか?
無為に成らぬように、薬草茶を用意できるだけ準備させましょう。
それでもだめですか? 」
セルジオが真剣にグナールに問う。
「・・・・合分った、その要請に答えられるかは答えられぬが、善処しよう・・・・」
グナールは苦し気に答え、執務室を去って行った。
切りの良いところまで刻んでアップします。
21時ポチ!




