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いつもダンジョンに居ます  作者: ねむねむぴよ
第一部 四章 そして全ては砂塵と化す。
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157話


 深刻なミーティングをしていたはずの一団は何故かセミオープンの湯治場、ゴートフィッシュ大浴場に居た。


 子供達が真っ先に浴場に駆け込む。


 「にひゃははははは!! すごぉ~いよぉ!!!」

 リリルがフリル付の水着を着て女湯の戸の前で仁王立ちしている。

 「リリルちゃん! 先はいっちゃうからね?!」

 リリルと同じくらいのショートボブの幼女がリリルと同じデザインの色違い水着をひらひらさせながら湯船に向かって行く。

 「あぁ!! ずるぅぃい!! 待ってぇマーニちゃん!!」

 リリルは急いで後を追いかけ、湯煙の中に消えた。 


 源泉かけ流しの風呂、沢の水が流れ込む冷水風呂、その間に設えられた大風呂には4~50人が優に入れる広さがある。


 子供達がかけ湯もせずに、飛び込む。

 ドボンドボン!!

 「リリルちゃん、すこいねぇ!」

 「マーニちゃん凄いよ! あったかいよ♪ 」

 川で水遊びの経験はあるが、大量のお湯で水浴びなど初めての体験だ。

 子供たちに、お湯におとなしく浸かるなどといった考えは備わっておらず、当然の様に泳ぎ始める。


 幼女等を追う様に、女性陣の影が湯気に浮かぶ。

 ターニャ、ニーニャ、レラにシャロンと侍女に一部のメイド達。

 子供と違い、女性陣は湯浴衣ゆあみぎを着て湯につかる。


 「はぁ・・・・お湯っていいわねぇ」

 お湯の中でターニャの湯浴衣がふわふわと漂う。

 「まぁ、シャロンちゃんも、いろいろあるけど、お湯に浸かってさっぱりしましょ♪」

 ターニャが憔悴したままのシャロンの頭をポンポンと手を添えながら年を感じさせない豊かな胸を揺らしている。



 ・・・・


 『わらわは、何故こんな所で湯浴みなどしているのだろう』

 皇女は気持ちの整理が付かないまま、流されるようにセルジオ家の面々と湯に浸かっている。


 『もう、何が何だかわからぬ』

 彼女は精神的な疲労感の為か力なく湯船に鼻の下まで身を沈め、ブクブクと息を吐きながら涙ぐむ。


 『父上は身罷った・・・・皇都を発つときにはあれほどお元気だったのに・・・・

 古くからの忠臣がつぎつぎと病に倒れ、父上の取り巻きは近衛兵しか残っていなかったが・・・・

 何故術中謀略の渦巻く宮中には兄上達も居たはずだ。

 父上は賢王であった、その王を排し、何の利があると・・・・愚かすぎる。

 ゴートフィッシュのゴーレムの話が話半分であったとしても、諜報能力は皇国の上をいっておろう。


 わらわが、この身を賭けて当主を取り込もうとしておったのも、解っておったはず・・・・

 それを、残された道が、いくさだけに絞るなど・・・・兄者は愚か者じゃ・・・・


 うぅ・・・・父上、わらわはどうすれば良いのじゃ・・・・』

 皇女は湯に顔を沈め、流れる涙を隠す。


 先程の執務室での話で、皇女の帰る場所がもうない事を彼女は悟った。

 彼女の兄たちが、聡明な彼女を、皇帝からの信も厚く何かにつき話にあがる皇女を、疎ましく思っていたのも知っている。


 皇女は、湯から顔を上げ周りを見る。

 間が抜けたような穏やかな湯殿の風景。

 彼女と同じかその上をゆくような聡明な女性達が、何の憂いもなく湯に浸かる姿をみて不思議でしょうがない。


 『10万の兵が行軍しているのだぞ?

 こ奴等は分っているのか? 何故ここまで腑抜けた表情で湯に浸かっておれるじゃ?』


 父の死の悲しみから立ち直った訳ではないが、それでも周りの面々の表情に疑問しか感じない。

 シャロンは自分の侍女の方を見る。

 彼女達の表情も固く強張り、自分たちの末路を憂い、欝々とした表情をしている。


 『わらわだけが、悲しみに暮れる訳にはいかんのじゃな・・・・』

 シャロンは自分の心に鞭を打ち、しっかりしろと、皇女としての姿を示さねばと、悲しみを押し殺す。


 「ターニャ殿・・・・聞いても宜しいか?」

 「ん? シャロンちゃん何が聞きたいの?」

 ターニャは、うぅ~んと言いながら湯の中で腕を伸ばし、シャロンに顔を向ける。


 「わらわは、生かしておっても利用価値があろう。 我が忠臣たちはどうなる?」

 皇女が直球でターニャに尋ねた。

 「あら? さすが皇女様ねぇ。

 ・・・・たぶんセルジオちゃんなら、好きなだけここに居たらいいと言うでしょうねぇ」

 ターニャの言葉に、耳をそばたてていたニーニャとレラがウンウンと頷いている。

 それをみた侍女達がキョトンとした表情で彼女等をみている。

 メイド達も、「セルジオ様なら言いそうだわ フフフフ」とセルジオ談義に花を咲かせている。


 「・・・・彼の御仁はそこまで寛容なのか?」

 シャロンも信じられないと思いつつも、何かの見返りを求められるのだろうと身を固くするのだった。

 

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