152話
最近のセルジオの周りは随分騒がしく?・・・・煩わしくなっていた。
「セルジオ様? 喉は乾いておりませんか?
良いバターが手に入りましたのでクッキーも焼いてみましたの・・・・
セルジオ様のお口に合えば良いのですが、いかがですか?」
サラティアは、何故だかセルジオにベッタリと張り付き、時折チラチラとエルフのお爺さんに視線を向ける。
セルジオは、ダンジョンの遺体回収の手をとめ石鋤を立て掛ける。
すかさずカジミールがルーペを取り出し、石鋤の神聖文字を手持ちの革用紙に転記し始める。
ちなみに、取り巻きはカジミールだけではない。
彼を含め20名程が、セルジオに付かず離れず、猫が得物を追う様にジーっと見ているのだ。
カリカリ、カリカリカリカリ・・・・
「これを急いで解読を!、革用紙はまだあるか?」
「はい! 十分に!」
「ふむふむ、これは所有に関する記述のようだ・・・・ゴダール制御紋に近い。
これも借り受けたメダリオンと共に解析を急いでくれ」
カジミールが神聖文字を転記した革用紙を学徒に渡しては、彼らが研究室へ駆け去って行く。
「さて、セルジオ様・・・・一つ宜しいですか?」
カジミールが石鋤から目を離さず、セルジオに語りかける。
「はい、何でしょうか?」
「皇国の兵からの防衛戦、セルジオ領を守る為です。
魔法の真髄をご覧に入れようかと思うのですが、いかがでしょうか?」
カジミールの声がやけに重く感じる。
「無理に戦わなくても良いのですよ?」
セルジオがお気楽に答える。
「セルジオ様・・・・魔法とはどのような物と考えておられますか?」
カジミールが革用紙と筆記具を学徒に渡し、セルジオに向き直る。
カンテラの火が揺らめき、年老いたエルフの眼差しがセルジオを捕える。
「・・・・魔法ですか? 」
セルジオは突然の哲学的な問いに目を白黒させる。
「ハハハハ、突然尋ねられても困りますな。
それでは私の見解を、先にお話ししましょう。
魔法とは、過ぎたる力であり、滅びの力ある。
ただ、毒も少量であれば薬に成るように、魔法も少量の仕様であれば生活を豊かにするでしょう。
しかし、得てしてその力が強ければ強いほど、その力を誇示したくなる。
私は、彼のゴダール王国もその前の古代王国もそのような理由で滅んだのではと考えている。
・・・・そう思っているのです。
この度、得た知識は禁書扱い物の神聖文字魔法文なのを、ご理解頂きたい。
それを使うとどうなるか・・・・それを知ってしまうと使いたくなってしまう。
私もそのような知識の前の愚者なのです。
セルジオ様に魔法の深淵をご覧に入れるとは建前で、私が検証したいのです。
ですから、次の戦は我々が矢面に立ちましょう。
持てる知識を、余す所なくご覧に入れましょう。
そして、ついでにゴートフィッシュ領も守って見せましょう。
如何でありましょうか?」
エルフの老人の真剣な眼差しに、セルジオが固まる。
「ま、魔法がどうとかって良く解らないけど、危なくなければいいんじゃないです?」
「危なくない・・・・承知しました。
危なげなく縊り殺して、いや磨り潰し・・・でもない、跡形もなく・・・・うむ。
まさに跡形もなく消し飛ばして見せましょう。
フ、フフフ、ファハハハハハ!!」
カンテラで照らされた、爺さんエルフが怪しい感じで笑っているのが怖い。
ダンジョンの黒門先、地下の暗がりで作業する清掃作業員の皆さんは変な笑い声に固まるのだった。




