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いつもダンジョンに居ます  作者: ねむねむぴよ
第一部 三章 再出発
180/256

150話


 ゴート王国魔法大学は周辺国のなかでも先進的な学徒の園、人やエルフに限らず才能のある者に門戸を開き、各国の宮廷や貴族に卒業生を送り出す歴史ある学園である。


 先の総長による資金の私的流用と呪いという残念な末路に、ゴシップ好きな人々の耳目を楽しませた記憶も新しく、副学長であったカジミールも辛酸を舐める日々を送っていた。


 そして、カール王暗殺未遂?(生死不明)の祝賀会後て既得権益にしがみつく貴族が学園の生徒への嫌がらせと子飼いにしようとする干渉がカジミールの忍耐の限界を越えた。

 揺すりと集り、暴力と資金援助という飴、そこに花屋の店員に水を向けられ重い腰をあげた。



 セルジオ仮館の執務室に、エルフや人族、獣耳をもった女性にホビットといった10名程の集団が食堂から持ち込まれた椅子に座り、当主の到着を待っていた。


 「お・・・遅くなりました。なんとなく当主してますセルジオです」

 セルジオが農作業用のいつもの服装でそのまま執務室にいる面々に会釈をする。


 「紹介にあずかったガジミールです。

 花屋のターニャ殿のお口利きにより参じた次第。 セルジオ殿の庇護を何卒・・・・・」

 カジミールが深く頭を下げると、彼に従う魔法使いも同じく頭を下げる。


 「・・・・」


 周りを見ても、セルジオを助けてくれそうな元村長も目を閉じ視線を合わせてくれない。

 「・・・・あ、頭を上げて下さい。

 こちらの領地はまだまだ人手が足りていないと聞いてます。

 カジミールさんが良ければ飽きるまで居て下さって良いですが、何かしらの仕事をしていただけるとみんな喜ぶと思います。・・・・ですよね?」

 セルジオが突然庇護してくれなどと言われ、情け無さそうな視線を周りに配りながら同意を求めるが、返事はない。


 「・・・・仕事とはどのような物なのでしょうか?」

 カジミールの眼差しは鋭い。

 それは仕方のない事なのだ、先日まで都ではセルジオ領奪還をそそのかす貴族に、戦闘の先陣を切るのが当たり前であると再三要請を受けていたが、争いに関与することを是としないカジミールは断固として拒絶していたのだ。


 「・・・・俺には良く解らないのですが、魔法使いだから魔法で人々の生活が良く成るいろんなことが出来るのでしょう? ですから、得意な魔法で、出来る事を出来るなりに頑張って貰えればよいです」

 セルジオも良く解っていないなりに一応気を使ってみる。


 「・・・・そのような事でよいのですか?」

 カジミールが怪訝そうに尋ねる。

 「はい、さすがに鉱山で鉱石堀とか、冒険者と混じってトカゲ狩りとか嫌でしょ?」

 セルジオは真顔で答える。


 「ハ、ハハハハハ。 ターニャ殿の仰る通りの御仁ですな、まこと懐が深い。

 魔法の深淵を覗かんとする我らの力を、ゴートフィッシュ家の為に役立てましょう。

 つきましては、此処に居る学徒と教員、あと村で待っております者も合わせ47名程の受け入れを是非ともお願いしたいのですが、如何ですかな?」

 カジミールの厳しい目つきが少しだけ柔らかく成りセルジオに問う。


 「いいですよ・・・・ね?」

 セルジオは元村長に声を掛けると、ここにきて漸く元村長が頷く。


 「それじゃ、俺は仕事が有るので・・・・これで」

 「セルジオ、少し話して行けぬかの?」

 セルジオが立ち去ろうとすると、元村長に呼び止められる。

 そして、セルジオの付けている腕輪をカジミールに見せろと促され、袖をまくった。


 「・・・・こでが、災禍の現況ですか」

 カジミールがセルシオに歩み寄り、マジマジと見つめる。

 「私の見立てを述べても良いのですか?」

 「宜しくお願いしたい」

 元村長がカジミールに頭を下げる。

 それに答えるようにカジミールが口を開いた。


 「とてもとても希少な金属と、幾つもの魔法が複雑に施された物です。

 そうですね・・・・魔法使いであれば垂涎物の腕輪です。


 魔力吸引、殆どの魔法は腕輪の宝石と金属に吸収され無害化されるでしょう。

 魔法反射、外から掛けられる魔法は相克する波動で押し留められ、吸引させる時間を作る様です。

 他には・・・・

 沈黙への耐性強化、魔法による詠唱中断を阻害する術が刻まれてます。

 病気、毒、麻痺、石化、劣化耐性・・・・まだありますね・・・・さすがマーリンの腕輪です。

 洗脳、邪眼・・・・何でしょうこれは・・・・」


 カジミールは懐からルーペを取り出して、触れない様にのぞき込む。


 「ほう、即死無効化・・・・起死回生の魔法、最後の一小節まで唱えきる為の術ですね・・・・

 喉が潰されても、頭が飛ばされても、これであれば最後の詠唱は唱えきれるでしょう。

 凄まじいものです。

 おぉ、まだ術が刻んであります。

 ・・・・神聖文字ですね。

 何々?『我は持ち主を選ぶものなり、正当ならざる所有者に災禍の嵐が襲うであろう【*****】』

 おぉ、盗難避けにしては物騒な術ですが、セルジオ殿を正式な所有者と認めているようです。

 少し、腕を捻って頂けますか?」


 セルジオは腕を捻り見えない場所を、ルーペ側に向ける。


 「ほう、一時的な運気の大幅上昇。

 有事の際には、偶然飛来する矢は当たらず・・・・いや、これだけ強い術であれば、矢を射った弓が折れまするな・・・・

 彼に仇名すものは、大抵訳もわからず計画が頓挫する・・・・総長も物を見る目は有ったようですな。


 それに、相当な魔力も内在しておりますな・・・・

 魔力と魔素の感じからするとつい最近多くの魔力を補給したようですが、それでも魔力内臓部の十分の1も埋まっておらんようです」

 いつの間にか、学者肌の魔法使いらはセルジオの回りを取り囲み、術式の並行・立体記述が素晴らしいとか、魔力の入出力経路がどうとか、訳の判らない難しい話をし始めている。


 「福目でした。 これ程のものとは・・・・ん?!」

 カジミールが石鋤に視線を移す。

 とても険しく、難しそうな顔に変わる。

 「隠ぺいの術式に似ているが・・・・」

 ルーペで石鋤の石突きと鋤部分を舐めるように見始める。


 「・・・・凄い・・・・みなの者みてみなさい」

 セルジオが執務机に石鋤を置くと、皆が寄って集ってルーペで除き始める。

 「先生!これは全て神聖文字ではないですが?! しかも未解読の物が殆どです!!?」

 「とても古い物ですねぇ、軽く5千年以上は遡りそうですがその頃の文献は既に失われております」

 「むむむ・・・・ここは読めそうだ、『死者の魂を大いなる命の川に戻し、再び循環の輪へ誘う』・・・・解らん、何々・・・・『古き血脈との盟約をもって、失われし時の門を開き?』・・・・

 『鍬・鋤・鎌・斧・・・・神聖歴1284年』・・・・」

 「なんでしょ? 神聖歴とは?」

 「うむ・・・・創世記以前の暦であろうか、多分碑文に近い下りのようだが、読めぬ文字が多すぎる」

 セルジオも一緒にのぞき込んでみるが、只の少し変わった木目にしか見えない。

 「神聖文字が柄にぎっしり刻まれてますよ、これは、学術的には何年掛かっても読解すべきものです!」

 学徒が興奮気味に叫ぶ。


 「あのぉ、それ仕事用の鋤なので、お渡しできないです・・・・ごめんなさい」

 申し訳なさそうにカジミール達に伝えると、水を打ったように部屋が静まり返る。


 カジミールが沈黙を破る。

 「・・・・セルジオ殿が休まれているときだけで結構です。

 我々に是非とも、神聖文字の翻訳を任せていただけないでしょうか?

 い、いや 我々がお邪魔にならない様に研究するの見にいたしますゆえ、是非、是非とも!!」

 カジミールの目が充血し迫る姿が怖い。


 「ま、まぁ、俺が寝てる時だけで良ければ・・・・って、でも幽霊とか来るけどいい?」

 「そんな、霧や靄の類など、学園にはよく出て居りました、まったく気になりませぬ!

 では、さっそく本日から取り掛かっても宜しいか?!」


 「は、はい・・・・えぇ?! 本日からですか?!」

 「当然です! このような神から与えられた機会を逃すわけにはゆきません。

 出来れば寝食を共にして、その観察と研究を常に行っていたい程、非常に重要な素体なのですぞ?!」

 落ち着いた雰囲気のカジミールが目の色を変えてセルジオに詰め寄る。


 エルフ爺さん怖い・・・・そんな勢いに押され仰け反ると、胸元のメダリオンがちらりと見える。


 ガシ!!


 カジミールがセルジオの肩を掴む。

 「こ・・・これは、メダリオン・・・・皆の者!! ここは知識の深淵に至る楽園であるぞ!?!」

 セルジオの胸元に群がる魔法使い。

 「「「「「おぉぉ!!!!」」」」」

 「こ、これは、ゴダール魔法制御紋ですよ!?」

 「術者の意思を魔力制御波動に変換するようです。 わぁ すごく緻密です!!」

 「ダメだと言われても私は、ゴートフィッシュ領に残ります!!」

 「「俺も」」「「「私も」」」

 「メダリオンはこれだけですか?

 古代文献には市民が日常的に身に着け、使用していたとされているのですが・・・・

 む?大きさはこれの半分以下のはず・・・・

 であれば、これは遺跡中枢の制御紋の可能性が高い?! さすればゴーレムも止るはず!?」

 カジミールは血の気の引いた顔でナワナワ震えている。


 「え、援助はいりません・・・・我々の食扶持は、我々で何とかします。

 是非ゴートフィッシュ家の末席に侍る機会を頂きたい・・・・」

 カジミールを含めた学徒が、まさかの土下座をし始める。


 「・・・・だから、構わないって言った気がするのですが・・・・」


 狂喜乱舞するカジミール一行。

 こうしてセルジオ達に魔法大好き集団が加わる事に成った。


 ・・・・


 その頃、皇国の皇都の正門が、大きく開け放たれた。

 数万の軍勢が砂塵を巻き上げながら進み出す。

 領内の幾つかの宿営を経由し、北へと向かう手筈になっている軍隊。


 ゴート王国と隣国には特使を放ち、既に宣戦布告の書状を握らせている。

 疲弊したそれらの国には抗う力は既にないであろう。


 進軍する兵士を見下ろす、天空を舞う大鷹が一羽、その羽を優雅に羽ばたかせながら遥な空の高みへと舞い上がり北へと飛び去って行く。

 ゴートフィッシュ領まで二か月の進軍、すでに火蓋は切られていた。

三章完結です。

なんとなく20万文字になりました。


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