9.9話
リリルの父、テリルが病に倒れた。
それに呼応するように、隔離病棟の患者が次々と重篤化し翌日には火葬される。
だが、バルザードの敷地に併設された救護所に搬送された患者は次々と完治してゆく。
「テリル・・・・何か儂にできる事はないか?」
村長のミオールが白い布でマスクをし、彼の傍らに腰かける。
ヒューヒュー・・・・笛のような音のする深い呼気。
なわなわと震える唇から言葉が漏れる。
「・・・・父さん・・・・宛の書類は・・・・机の上に・・・・リ・・・リリルと・・・・カミュを・・・・」
テリルの手を握りミオールが何度も頷く。
「分った、わかったから休め。 お前は働き過ぎじゃ・・・・後は儂に任せればよい・・・・」
涙を堪え息子の姿を目に焼き付ける。
『・・・・村長、他の患者さんの様子と比較しますと、息子さんは保って数日です』
看護をしてくれているシスターから告げられたのは、つい先程の事だった。
隣の部屋では、一日遅れで罹患したリリルの母がカミュ寝ている。
ミオールは、悲しみに喘ぐ声が漏れそうになる。
息子の前では何とか明るく振る舞ったが、部屋を出ると耐えられなくなった。
涙が溢れ止まらない。
声を殺して泣く。
孫のリリルが母と話す声が聞こえてくる。
「ちゃんと、お爺ちゃんの言う事を聞いて、いい子にするのよ?」
「うん!」
「みんなと仲良くして、友達沢山作るのですよ?」
「はい! かあさま!」
「ふふふ、良いお返事ですね♪」
笑顔のカミュの目からハラハラと涙が零れる。
「かあさま? なんでないてるの? ご病気いたい?」
シスターに抱きかかえられ、母に近寄れないリリルが、心配そうに尋ねる。
「そうね、少し心が痛いかな・・・・」
「大変! とうさまに、直してもらわないと!」
母の答えに看護師のシスターの腕の中で暴れ出すリリルだが、幼い彼女は抜け出すことは出来ない。
「・・・・お、お母さんは少し、休むわね・・・・リ、リリルは病気に成らないでね・・・・」
カミュは絞り出すように言葉を紡ぐと、シーツを顔に押し付け激しく肩を震わせた。
リリルを連れてゆくシスターの背を、涙で霞む視界で見送る。
一秒でも、一瞬でも、愛娘を見ていたい。
『 全然構ってやれなかった、ひどい母を許して・・・・』
残される幼子に心の中で何度も謝る。
彼女も夫と同じく、既に助からないだろうと確信し、残される者の事を憂いていた。
カミュは放心したように娘の姿が見えなくなっても暫くその後を凝視していた。
やがて急速に削がれる体力で姿勢が維持できず崩れるようにベットに横たわり再び声を殺し枕を濡らした。
なんとか、もう一本で収まりそう・・・・




