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いつもダンジョンに居ます  作者: ねむねむぴよ
第一部 三章 再出発
170/256

140話


 ガタガタガタガタ・・・・ギギギィ・・・・

 馬車が揺れる、かなり荒廃した城下の様子に王妃は酷く狼狽うろたえていた。

 路地脇や辻隅に不自然な形の雪だるまが幾つも見える。

 サラが、ホビット娘に姉さんと呼ばれていた少女に目を向け、雪だるまを指さす。

 彼女はサラを見て悲しげな表情で首を振るだけだった。


 ゴートの都の正門が近づく。 彼女らは花屋の売り子の姿に扮装している。

 いつもセルジオ領や周辺の村からの仕入れて城門を行き来する御者は、複数の門番とも面識がある。


 御者がセルジオ領への研修名目の書類を門番に渡すと、「かわいそうに、身売りか?戻ってこれるのか?」と真剣に尋ねられた。


 「あぁ、身売りではないが、向こうの方が喰うには困らんからなぁ・・・・口をきいてやろうか?」

 御者が水を向けると、門番が真剣な顔で答える。


 「本当か?!、王国はセルジオ公爵に随分ひどいことをしたらしいから怒っているって聞いたぞ?」

 「??そうなのか? セルジオ様はそんな方じゃないぞ?」

 「お前、セルジオ候を知ってるのか?!」

 門番は前のめりで話しかけてくる。


 「あぁ、気さくな? お人柄だぞ、たぶん家族毎でも一族毎でも普通に暮らすなら何もおっしゃらないはず・・・・おっと、後ろが詰かえてきたな」

 「あぁ・・・・引き留めてすまない! セルジオ領に着いたらどうやってお前の探せばいい?」

 「花屋のターニャ婆さんを探して、御者の紹介と言えば通じる!」

 御者が通行手形を兼ねる書類を受け取り懐に収める。


 「気負付けて行けよ!!」「あぁ!!」

 手を振る門番に、軽く挨拶をして門を通り抜けて行った。

 馬車の袂を通り抜ける、徒歩の旅人や他の門番も聞き耳を立てているが、意外にも、なんの誰何もされず城門を通り抜けることができた・・・・


 都の人々の関心は、この冬が乗り切れるかどうか・・・・

 民草の給与は滞りがちで、現物支給される場合まだいいが、支払手形なる紙切れを渡され事もある。

 そして物があっても通貨流通量が減ったため、様々な弊害が王国に渦巻いているのだ。


 宮仕えの門番でさえ何時解雇を言い渡されるか分かった物ではない。

 門番は、城門付近で身内売りされてゆく兄弟姉妹や親族を、涙ながら見送る姿を何度もみている。

 例年と比べ物にならない人数が身売りされ、商人が店を閉め都から去ってゆくのだ。

 少なくない貴族も跡継ぎを亡くし、都を去ってゆく。

 訪れる人々よりも遥かに多くの人々が去ってゆく。

 その実態を一番体感しているのは門番たちかもしれない。


 それほどに人口流出が続いているのだか、サラや王妃はそこまで気付くことができなかった。


 ・・・・


 サラティアの日記より


  12の月 18日

  セルジオ様はとても人気者なの。

  ゴーレムを倒してからは、もっと色んな人がセルジオ様を追い回すから・・・・

  私もなかなかお会いできないのが残念。


  21日

  セルジオ様が困って居られるのをお助けできたの。

  とても役に立つと仰られて、私もダンジョンへご一緒できる許可を頂けたわ。

  もっともっとお役に立ちたいな・・・・


  24日

  爺がもうセルジオ様には在ってはいけないと酷いことを言うの。

  私を危ない目に合わせると言うの・・・・

  私を助けて下さったのに、何度言っても聞いてくれない。 


  わたくしがセルジオ様に惚れてしまったと・・・・

  セルジオ様のこと大好き、あぁ・・・・お名前を書くだけでドキドキする。

  

  25日

  お父様も爺も嫌い! もう口もききたくない! 王国も嫌い!

  セルジオ様のいるあの村に戻りたい・・・・


  30日

  王国に戻ったけど、なんだか城下の様子がおかしい気がする。

  お父様は旅の途中、わたくしとまったく合わずに居られたの。

  お体の様子が悪いのかしら・・・・

  わたくしの顔をみると、とても苦しそうな顔をなさるの。

  侍女がセルジオ領の話をしていると、とても気分を悪くされるので侍女も怖がっていたわ。


  1の月 1日

  よく分らないけど酷いことが起こったの。

  お父様大丈夫かしら・・・・

  私達もセルジオ様のご家来衆が助けて下さらなかったらどうなっていたか・・・・


  けど、セルジオ様にお会いできるのが、とてもとても待ち遠しい・・・・

  セルジオ様の事を考えると、ときどき胸が切なくて苦しくなる。

  なんでこんな気持ちに成るんでしょう、私は病気なのかしら?

  

 ・・・・


 「サラティア? 何を書いておるのです?」

 「えっ? あっ、日記でございます。」

 膝の上に広げた日記を急いで閉じて、王妃に向き直る。


 「馬車のなかで読み書きをすると、酔いますよ・・・・」

 王妃に諌められ、日記を懐に収める。


 御者はセルジオ領まで通常6日、今回は2日半程の旅程だという。

 既に一度幌馬車から箱馬車に、数名の侍女のみを引き連れ24時間走り続けていた。


 6時間置きに街道筋の要所で食事休憩をとるが、そこで御者と馬が交替し、ほぼ常に移動している。

 二日目の夕日が見え始めた頃、花売りの少女の一人がサラに耳打ちをした。


 「追っ手は振り切りましたが、セルジオ領でセルジオ様の御命を狙った者が居ります・・・・

 到着し・・・・らくは・・・・。 ご不便を・・・・おき・・・下さい」

 サラの頭の中は真っ白で話している言葉の意味が解らない。

 『セルジオ様にお怪我は?』

 「お怪我はありませんが・・・・他にも・・・・・ サラティア様?! サラティア様!!」

 サラは、セルジオに怪我がないとの言葉に気が緩んだのか、そこで気を失い倒れてしまった。  

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