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いつもダンジョンに居ます  作者: ねむねむぴよ
第一部 三章 再出発
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137話


 サラティアの両脇には、サラの歳と同じが少し年上の素朴な顔立ちの少女が並び立ち、少し腰を折ってお辞儀をする。


 「あ、貴女達は?」

 王妃が、動揺を意志の力で捻じ伏せ、凛とした姿勢で誰何すいかした。


 「セルジオ家、生花せいか部の者です。

 セルジオ領までの移動手段を確保しております。

 手前どもをご信用頂けますならば、安全かつ迅速にセルジオ領に避難いただけます。

 いかがなさいますか?」

 花売り娘特有の御愛想笑いを王妃に向ける。


 「確かに、貴女にはお会いした事がありましたわね・・・・」

 王妃の誕生日、カールが手配した花束が次々と運び込まれた事があった。

 その時、珍しい切り花の手入れの方法を教示する、花屋の代表として現れたのが目の前の少女であった。


 「貴女達は、ゴートフィッシュ家の者だったのですね・・・・ 命じます、王を助けなさい!」

 「花屋の娘には、無理でございます」

 即答であった。

 花屋の娘は、王妃の命令にも歪まず、その目を見て答える。


 「・・・・」

 王妃は、ここまで明確に、はっきりと否定された事は殆どない。

 ナワナワと唇が震え、直ぐには二の句が継げない。


 「手前どもは、サラティア様と閣下をお救いせよとの命を受けて居りません。

 受けている命は・・・・

 【緊急の事態のおり、セルジオ領へ帰還せよ。

 その折、余力があればサラティア様とその周りの者の意志を確認の上、セルジオ領への同伴を許す】

 という物です。


 王家の存続や助力を主旨とするものではないのです。

 この申し出は、当主セルジオの憂いが少しでも削がれるであろうとの忠臣の差配なのです。

 ですから、手前どもはサラティア様と閣下がセルジオ領への避難を良しとしない場合・・・・

 手を差し伸べる事はいたしません」


 営業スマイルを崩さない花屋の娘。


 「お母様・・・・セルジオ様は大変親切な方です。

 王国があれだけの事をしても、事を荒げる事もなされず、隣国の不義も水に流されました。

 わたくしは信ずるに値する方だと思います」


 『オオオオオォォォ!!』

 祝賀会、国王の席周辺で怒号が響き、激しい剣戟の喧騒が会場に広がる。


 「そろそろお時間の様です。 これ以上手前どももお待ちできません、ではお暇いたします」

 「まって、わたくしはお供します! お母様は如何されますか?」

 サラが王妃を振り返り、心配そうに様子を窺う。


 「はぁ、まだ子供ですのね・・・・

 私達がセルジオ候の所に行くという意味に付いて、まだ考えが至らないのですね・・・・」

 頬に手を当て、溜息をつきサラティアを見つめる王妃の眼差しは子を見る親の目である。


 「??・・・・庇護を受ける以外に、何かあるのですか?」

 信の置ける人物に助けを求める、その程度にしか世間が解っていないサラは、瞬きをするばかりだ。


 「サラティア、それは道々話すことに致しましょう。生花部の皆さんが困って居られますから」

 王妃が諦める様に「生花部の皆様、よしなに・・・・」そう伝えると動きは早かった。


 ・・・・


 部屋を飾る大きな花飾りの中や、意匠としてロープの巻かれた大きな花瓶のから幾つものロープや滑車が姿を現す。


 一人が窓辺に近寄る。

 金具を壊して窓を開け、灯したカンテラを外に振る。

 4階相当の高さの場所にある祝賀会場の下、生け垣に覆われた馬車溜まりから灯が見える・・・・


 瞬くカンテラの灯。

 2回・2回・3回と受け入れ可の返答があった。


 もう一人の少女が、廊下にある二本の柱にロープに巻き付け滑車を取り付けロープを通す。


 ロープが抜けないよう両側に玉止めを作り、2か所の窓を割り階下ロープを垂らす。

 真下にカンテラの灯が灯る。


 「まずは、サラティア様と王妃様です」

 説明する間も惜しんで、二人を簀巻きにし「高くて怖いでしょうからこれを・・・・」と目隠しをする。 サラの簀巻きロープに、フックを掛け、躊躇いもなく窓から突き落とす。


 ビィィィィ・・・・


 窓の縁に当たるロープがけたたましい音と共に、焦げ臭いと煙を漂わせる。


 ドン!

 サラと入れ替わりに、細いロープ付の土嚢が重い音を立て窓枠に打ち当たった。

 土嚢には片手剣が付いており、少女達はすかさず武装する。


 隣では王妃が突き落とされている。


 ビィィィィ・・・・

 王妃とサラの侍女達が、この場を隠す様に人垣を作っている。

 一部の侍女達も見よう見まねでロープを巻き始めている。


 ビィィィィ・・・・ビィィィィ・・・・


 「お前たち! 何をしている!!」

 近衛兵姿の男が二人、駆け寄ってくる。


 侍女達が凍りつく。


 抜身の白刃が、血に濡れている。

 「誰を逃がそうとしている!!」

 三人の侍女が両手を広げ、身を挺して進路を阻む。


 「どけ!! 侍女風情がぁ!!」

 怒号を上げる偽装兵。


 振りかざした二本の剣が、侍女の頭上に迫っていた。

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