136話
ゴート王国の祝賀の宴が開かれた。
王国の貴族から隣国からの使節団、大商人に大司祭に宮廷魔法使いなどなど、錚々たる面々が政治や経済、そしてセルジオ領の話に花を咲かせる。
敗戦国である隣国の、経済協力名目の隷属化で王国の商人や利権絡みの貴族はセルジオの隆盛に対しての一応の手打ちとした。
しかし、セルジオ領をアンタッチャブル(触れてはならないもの)と認識する者は僅かで、大半の者は、妬み嫉みと親族を廃人にされた恨みに囚われ、当代国王のカールの不可侵の意向に猛烈に反意を示していた。
そんなさなかの祝賀会で起こる事と言えば・・・・
王家転覆を狙う、お家騒動である。
隣国、王国、そしてセルジオ領の全てを己が手に・・・・そんな輩が徒党を組む。
そして、弱者の足を払うような短絡な頭の持ち主達は、手っ取り早く結果の出る方法を好む。
それが祝賀会の襲撃である。
バン!!
大扉が勢いよく開けられ、激しい音を立てる。
扉の陰には、近衛兵の体が幾つも横たわっている。
『キャァァァァ!!!!』
「愚かな王と妃を押さえよ! 姫はどこだ!!」
正面の大扉から、近衛兵と同じ格好の幾人もの兵士がバラバラと流れ込む。
一部の近衛が剣を抜き剣戟の喧騒が会場にも聞こえてくる。
「近衛隊長!何があった!」
カールが護衛に詰め寄る。
「襲撃です、ここは我々が死守いたいますので。先にお逃げください!!」
王専属の近衛兵が抜身の剣を輝かせながら、カールを庇う様に退路を確保しようとする。
「王だ! 王が居るぞ!!!」
20名近い扮装した賊が、王に群がる。
「王妃は、王女はどこにいる!?」
カールが怒鳴るが、会場はパニック状態だ。
同じ近衛同士に見える者たちの戦闘に巻き込まれまいと右往左往する貴婦人達、それを守ろうとする紳士は扮装した賊に次々と殺されていく。
カン カカン ガキン カン
儀仗用の剣である為刃が落としてあるのは正真正銘の近衛兵。
それに対して刃のある剣を持つ賊が近衛兵を傷つけ血だるまにしてゆく。
・・・・
祝賀会で華やいだ会場をこっそり抜け出そうとしていた、サラが彼女の侍女達の抵抗にやきもきしていると王妃の声が聞こえてくる。
「サラティア・・・・どちらに行こうと、なさっているのです?」
「・・・・お母様・・・・お母様もお止めになるのですか?」
サラは少しやさぐれた視線を母に向けた。
正面の大扉が跳ね開く。
『キャァァァァ!!!!』
「愚かな王と妃を押さえよ! 姫はどこだ!!」
悲鳴と怒号が響く。
サラと王妃が目を見開く。
「サラティア、お逃げなさい!!」
王妃が会場からサラを隠す様に前に立ちはだかる。
逃げ惑う貴族たち、何人もの抵抗する人々が刺殺されている。
「サラ様、サラ様、セルジオ家の者です」
サラの傍らの薄暗い場所から声が掛る。
「!!? セルジオ様の?」
サラが辺りを見回すが声の主は見当たらない。
「セルジオ家、ターニャ生花部の者です。
サラ様とその供回りの脱出の準備がございます、いかがされますか?!」
「セ、セルジオ様は、こうなる事をご存じだったのですか?!」
「いいえ、この件はターニャ様及びクディ様とニーニャ様の差配にございます。
決断をお急ぎくださいませ、脱出が困難になります」
「・・・・わかりました、お母様も一緒にお連れしても?」
「問題ありません」
暗がりから聞こえる声が母を連れて逃げても良いという。
「お母様!」
「何をぐずぐずしているのですか?! サラティア早く、早く、お逃げなさい!!」
「お母様、逃げ延びる伝手があるとしたら、ご一緒に逃げて頂けますか?!」
「何を言っているのですか?」
王妃が娘を振り返る。
そこには今しがたまで姿の無かった、二人の令嬢がサラの両脇を固めていた。




